第4話 レムとの時間

 結論から言うとあんまり大丈夫じゃなかった。

 というのも、家の前には人が倒れてたんだ。段ボールも近くに転がってる。


「れ、レム、これ!」

「勝手に家に近づいたら眠るようにしておいたんだ。これなら泥棒も入ってこれないだろ?」

「でもこれ、宅配の人だよ!」


 なんて悲鳴を上げながら、宅配の人は起こして、どうにか帰ってもらった。こんなところで寝てた自分に不思議そうに頭をかいていたけど、私は苦笑いをするしかない。レムは説明する気もないみたいでソッポ向いてたし。


 はー。ビックリしちゃった。

 夢喰いって、そんなことまでできるんだなぁ……。




 そんなハプニングはあったものの、とにかく二人で家の中へ。

 いつも帰ってきたら家の中はシンと冷えているけど……それは今日だって変わらないはずなのに、隣にレムがいるだけで、なんだか雰囲気が違う。


 朝は気づかなかったけど、テーブルの上には、メモとお金。「これで美味しいものを食べてね」っていうママの字と、千円札が二枚。きっとママとパパからの一枚ずつ。

 ……まだこないだ買った食材が残ってるから、こんなにいらないんだけどな。

 突っ立っていた私にレムが聞いてくる。


「夜ご飯も結愛が作るの?」

「うん。レムの分も作るね」


 笑顔で答えれば、レムは嬉しそうに笑い返してくれた。


「……うん。結愛が作るもの、食べたい」

「期待されると緊張しちゃうなぁ」

「オレも手伝っていい?」

「え、いいの?」

「うん。結愛の力になりたい」

「……えへへ。ありがとう!」


 なんだか新鮮。でも、こういうの、うれしいな。


 それからレムと一緒に野菜を洗ったり、切ったり、煮込んでいる間は他愛もない話をしたり……。

 そうやってできたカレーはいつもより美味しくできた気がした。

 向かい合って食べながら、美味しいねって笑い合う。


 その後はテレビを見てレムに今の流行を教えてあげたり、数学の宿題にああでもない、こうでもないって言い合ったり。

 何でもないことのはずなのに、ずっとほっぺが緩んじゃう。いつもより大きな声で笑っちゃって慌てて口をおおったら、レムもつられたように笑ってくれた。恥ずかしいけど、でも、やっぱり耐えられなくてまた笑っちゃう。

 何でかな。家の中が明るくなったみたい。



***



「……そういえば、夢喰いバクのことなんだけど言ってなかったことがあるんだ」

「うん……?」


 レムと一緒にいたらあっという間に寝る時間になっちゃった。

 パジャマになった私をながめながらレムがそんなことを言い出すものだから、私は首を傾げた。


「言ってなかったこと?」

「うん。オレたちは本来、夢を食べるだけなんだ。良い夢に書き換えるのはまた別の力を使うから……、そっちは完全に善意でやることなんだ。特別ってこと」

「そう、なんだ?」


 そっか。じゃあ、今朝のふわふわの夢はレムが善意で見せてくれたってことだよね。


「ありがとう、レム」

「え……」

「? 今朝の夢も善意で見せてくれたんだよね。あ、ていうか夢を食べるんだからもしかしてカレーはいらなかった⁉︎ 私の夢を食べた方がいいのかな……? 食べられたら夢は何も見なくなるってこと? それだけなら私は困らないだろうし、レムが食べたいなら……あ、でも私、最近悪夢のせいで途中で起きちゃうことも多くて……レムには不便かも……」

「……夢しか食べられないってわけじゃないから。カレーも美味しかったよ。朝の卵焼きも」


 慌てる私に、レムはポツリとそう返して。

 顔を覆って、はぁ……と深くため息をついた。

 え、な、何?


「本当に……結愛はどこまで……」

「え?」


 何か変なこと言っちゃったかな……。

 不安になった私の顔をレムが覗き込んでくる。

 って、どんどん近づいてきてる!

 わ、わっ、ちかっ……


「そんなんだから、放っておけないんだよ」

「え……?」


 レムは、そっと私のまぶたに口付けた。

 そんなことされるのはもちろん初めてで心臓がバクバク動き始める。


 ……と、思ったんだけど。

 不思議と、まぶたが重くなってきた。

 身体の力が抜けてくる。

 あれ、なんだか……すごく、ねむくて……。


「おやすみ。良い夢を、結愛」


 甘くて、優しい声。

 ふわふわする意識の中で、お姫様抱っこをされたような気がする。

 その温もりも力強さも、すごく安心できて、気持ち良くて……私はそのまま眠りに引き込まれていった。

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