第9話 ヴァンがやるべきこと。

セレナの決める時間までとして、ヘマタイトとコーラルとシャヘルはガットゥーの麦でスイーツを作る。


これにはペトラも「豪華な甘味なんて滅多に食わんから嬉しいな」と言い、セレナも「わぁ、体の調子がいいからか美味しいのがわかる」と喜ぶ。


そんな中でも暗いのが2人。

ヴァンとユーナだった。


ヴァンは上の空でクッキーを食べて「美味しいよコーラル」と言って、「それはシャヘルのクッキー、私はケーキよ」と返される。


ユーナはヘマタイトの作ったパンケーキを食べて喜ぶセレナの姿を見て唸っていた。


あの後アクィは姿を見せずに居た。

コーラルの力でセレナに伝えたのは、「そこの3人にスイーツを教えたのは私の兄様なの。だから私のスイーツも美味しいわよ。ヴァンが悩んでユーナが決めたらお祝いしてあげるわ」という言葉だった。


ひとしきり食べたセレナは「やだ、こんなに食べたの久しぶり」と喜ぶと、ユーナを見て「本当、ユーナに友達が沢山できて私はホッとしたよ。だからそんな困った顔しないでいいよ。私は決めたよ。何も選ばない」と言って笑った。


皆が返事に困る中、ヴァンだけは「ダメだよ!待って!今考えてる!」と声を荒げる。


ヴァンは普段の顔とは全く違う顔で、「ペリドットに会ったのは、コーラルの友達の為、……もしかしたらユーナの為、…でもそうしたら何をしたらいいんだろう?考えなきゃ」とブツブツと呟く。


「ヴァン…」

「なんでこんなに真剣になるんだ?」

「ユーナを友と思ってでしょうか?」

コーラル達が困惑する中、ヴァンは「俺ならできる。俺は考えた、でもきっとうんとは言ってくれない。何かが必要…」と続けて頭を抱えている。


「ヴァン…いいんだよ?私が生きようとすると皆に迷惑がかかる。ユーナが辛い顔をする…だから私は何も…」


セレナの言葉を「黙って!」と遮ったヴァンは、「生きてるなら命を無駄にしちゃダメだ!諦めちゃダメなんだ!生きたくても生きられない人もいるんだ!」と声を張ってユーナを睨みつけると、「ユーナ!俺が考えたら…、助ける方法に導いたらやり切って!」と言う。


その気迫は鬼気迫っていて、歴戦の戦士達でもたじろいでしまうものだった。


そんな中コーラルが前に出てヴァンの手を持つと、「ヴァン、どうしたの?私にできる事はある?」と声をかける。


「コーラル…。うん。きっと全員の力が必要なんだよ。でも俺にできる事がわからないんだ…」


思い詰めるヴァンに、コーラルが穏やかに微笑んで、「もう、普段のヴァンはどうしたの?ヘマタイトと仲良くなれたのは誰?私とヘマタイトだけなら無理よ?ペリドットと仲良くなったのは?私だけならおじ様はペリドットに会いに行けって言わなかったわ。シャヘルだってヴァンが居たからスティエットを名乗ったのよ?」と言う。


それでも思い詰めて俯くヴァンに、コーラルは「ならヴァンの想像を話して?それを聞いたら私にだって何か見えるかもしれない」と言葉を送ると、後ろからヘマタイトの「ヴァン君は利発ですが大叔母様は…」と聞こえてきてヴァンが笑ってしまう。


コーラルは怒るかと思ったが、「ふふ。やっと笑ってくれた。さあヴァン、気になることでも考えでも全部話して」と言うと、ヴァンは少し悩んでから「気になること……そうだ」と言った。



ヴァンはユーナを見て「ユーナ!ユーナは俺に話したかった事って何?」と聞くと、ユーナは「何?」と聞き返す。


「コロシアムで話した時に俺に聞いてもらいたいって!あれ何?」


ヴァンの目を見て顔を背けるユーナだったが、しつこく聞かれると「俺はそこの4人と比べて何が足りないかを聞いてみたかった。剣は親父には勝ったが術は使えないしセレナを助けられない…。だから4人と一緒にいるヴァンなら俺をどう思うか聞きたかったんだ」と答えた。


「俺?言ったよ。ユーナはデカい剣も振るえて格好いいって、術だってセレナを治せなかった時が怖いから使えないのかもしれないだろ?」

ペリドットが「…本人の前でキツいな」と言うと、ヘマタイトが「これがヴァン君の怖い所です」と答える。


「いいと思うぜ?ウチの偏屈は俺の話なんて聞かないからな」

「そうだな。ユーナはセレナとヴァンの言葉しか聞こうとしないな」


ヴァンはユーナやペトラの言葉で少しだけ気が晴れたのか落ち着きを取り戻して、「なら俺がここに居るのはユーナに言葉を送る係なのかな?」と言い、コーラルを見て「コーラルはアクィさんみたいに貴い者の覚悟だよね。ペリドットはプレナイトさんの言葉を送る係だと思うんだ」と続けた。


「私?」

「うん。コーラルならユーナがセレナを治すのを躊躇したらなんて言うの?」


「それは尊敬するミチトお爺様のことを知らないの?無責任に模式を持つのが嫌なお爺様でも覚悟を持ってアガット・アンチ達を救ったのよと言うわ」

「確かに、俺も爺さんが婆さんの支配権を強奪する時に聞こえたミチトの言葉を教えてやるな。覚悟を持てってな」



ここでヴァンが「あれ?」と言うとシャヘルとヘマタイトを見た。


「なんだ?」

「どうしました?」


「わかった!俺のやる事!」

「ちょっとヴァン?」


「んー…と、だからガットゥーの剣術大会で、地下にはファットチャイルドの残骸があったんだ!」


喜んだヴァンは天を仰いで「わかったよオルドス様!」と言うと、「いやはやヴァン君は相変わらず凄いねぇ。言ってくれるかな?」と聞こえてきた。


コーラルが「おじ様?」と聞き返す中、ペトラは「偏屈を剣術大会に送り込めって言ってくださってありがとうございます」と言い、セレナは「この声、寝る時に「大丈夫、ユーナが助けてくれるからね」っていつも聞こえてきた声」と言った。


ヴァンだけは楽しげに笑うと「オルドス様?いつから企んでたの?」と聞く。


「いやはや、企んだって酷いなぁ。私だって世俗に関われないけど皆を助けたいんだよ?だからシャヘルにスティエットを名乗らせてユーナを向かわせたんだよ?」


「それで?いつからですか?」

「…敵わないなぁ、君がコーラルの友になってくれて、ジーフー・ブートを倒した時さ」


「にひひ。良かったよ。じゃあコーラルを向かわせますから貸してくださいね。ヘマタイトとシャヘルはどっちが良いですか?」

「あはは、ヴァン君は私をどうやってそこに引きずり出すかを悩んでいたけど、吹っ切れてその答えになったんだね。素晴らしいよ。やるのはペトラ・ミントさ。私が今教えたから出来るよ」


「ありがとうございます!」


ヴァンはオルドスに礼を言うとコーラルに「ちょっとラージポットまで行ってきてよ。俺は今会うととんでもないことを言われちゃうから行けないんだよね」と頼む。


「とんでもないこと?」

「んー…、俺がコーラルの模式になるとかね。オルドス様は俺とコーラルの仲が良くなるようになんか考えてる気がするんだ」


「…本当?」

「うん。後はコーラル達はオルドス様から借りる代わりに仕事があるから頑張ろうね!ご褒美もあるよ!」


「…なんだかわからないけど行くわ」

「よろしく〜」


ヴァンはニコニコと笑うと、コーラルのケーキを食べて「おお!美味しいよコーラル!お店やる?」と笑っていた。



コーラルは「もう、なんなのよ」と言いながらラージポットに転移すると、オルドスが「お疲れ様コーラル」と待っていた。


「おじ様?ヴァンとおじ様の話は所々飛んでいてわかりにくいです。借りるって何をですか?」


不満げなコーラルの声にオルドスは「本当、ヴァン君はミチト君みたいだよね。私と彼の会話もこんな感じだったよ。まあ、ミチト君は私と話すとイライラするって言ってたから少し違うけどね」と笑うと、収納術からペンダントを一つ取り出して見せた。


「これは?」

「ミチト君の遺髪さ。ペトラ・ミントに転生術を授けたから使わせなさい。元々ヴァン君は、私をラージポットから連れ出すつもりだったけど理由と決定打が足りない。セレナさんをラージポットに連れて来ることも考えたけど、私に無限術人間模式を生み出させる方法を教えさせるだけの決定打が無くて悩んでいたのさ。だけどこの方法なら私はただ貸すだけ。その先の事は今世の君達が勝手にやっただけだからね」


「ミチトお爺様の……ありがとうおじ様」

「いやいや、お礼ならヴァン君に言いなさい」


穏やかに話したオルドスは厳しい眼差しになると、「さて、コーラル・スティエット」とスティエットを強調して話し出した。


「はい」

「ヴァン君の予測は少し外れていてね。コーラル達のご褒美は当たっているけど、ヴァン君への対価は別にある。君は全てが終わったらヘマタイト達をペトラ・ミントの家に残して、1人でミチト君の遺髪を返しにくるんだよ」


「わかりました」

「おや、なぜか聞かないのかい?」


「はい。貴い者として受け入れます。そしておじ様はいつだって私たちの味方です」


コーラルはペンダントを受け取るとその場から消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る