第8話 アクィの提案。

ペトラはヘマタイトに訓練を付けながら、ユーナがスティエットを認めようとしないスティエットだと説明をしていた。


ヘマタイトは突きを放ちながら、「ではやはり彼は術が使えるのですね?」と聞くと、ペトラは回避しながら腕を掴んで、「ああ、俺たちミントは10になるまでに基本的な魔術を教わる。そうしたらミント家だけの…タシアが生み出した魔術、「封魔術」を使われる」と答えた。


「封魔術?」

「ああ、術が嫌いなタシアらしい術だ。魔術を封印して使えなくする。奪術術は一度に体外や術の周囲にある魔術を奪う事で術を放てなくするが、封魔術は体内の魔術を封じ込める。後は成長で封魔術が破れれば…、魔術使いの真式なら確実に破れるし、一定の能力者も破れる。魔術の暴走は自身も周りも滅ぼすから、封印を破れなければ使う必要はない。術が嫌いなタシアらしい術だ」


今度はペトラが放った蹴り足を受け止めながら、ヘマタイトが「では、ユーナは…」と確認すると、「アイツはさっさと封印を解いたスティエットだ。だが唯一の願いを失敗した。だから頑として術の使えないミントだと言ってきかない」と答える。


今の話を聞きながらペリドットが呆れながらに、「ヘマタイトって強いのな」と言い、コーラルが「腹立たしいわ。私とやった時は遠慮したと言うの!?」続き、シャヘルが「アイツ、多分拳術が得意なんじゃないか?」と感想を言う。


ペトラとヘマタイトは本気の殴り合いをしながら話し、お互いに一度もクリーンヒットをしていない。


お茶を持ってきたユーナの母もニコニコと、「あらあら、あのイケメンくんやるわねー」と喜んでいると、コーラルの耳にオルドスの声が聞こえて来る。


「コーラル、広域集音術。ここの皆に外の声を聞かせてあげて」

「おじ様?」


「ほら早く」と言われたコーラルが集音術を使うと、「うわー、速いや。ありがとうユーナ。セレナもベッドにお邪魔してごめんね」、「ううん。平気だよ。でも私お風呂入ってないから臭くないかな?」、「平気だよ。でもさ、セレナもこうして気分転換に外に出れば良かったのに」、「えぇ?外は気持ちよくて楽しいけど、ユーナに悪いよ。ベッドを持ち上げて走るとか変じゃない?」、「お前たち…談笑か?まあいい。セレナもまた外に出たければ言ってくれ」、「また走ってくれるの?」、「ああ」、「よかったねセレナ。着いたよ。ユーナ、お疲れ様」と聞こえてくる。


手を止めたペトラは「あの子は凄いな。あの偏屈を説き伏せやがった」と驚き、ヘマタイトは「ヴァン君?何を…」と言う。


「おやおや、それじゃあお茶を淹れ直すかな。悪いけど訓練は終わり。上に行こう」

ユーナの母に言われながら上に行こうとすると、「オルドス様!皆は地下室?見てみたい!こっち?ユーナ!ベッド持ってよね」と聞こえてきて、ヴァンが降りてくると「うわすっげー!」と言って辺りを見て、「あ!ファットチャイルドの残骸だ!」と言って粉々の剣の残骸達をみて居る。



コーラルが不思議そうに「ヴァン?何やってるのよ」と声をかけると、ヴァンは「あ!コーラル!仕事仕事!頼むよ!助けてよ!」と言ってコーラルの手を引く。


普段以上のヴァンの勢いについて行けないコーラルだったが、ヘマタイトにペリドット、シャヘルまでユーナとセレナの前に連れて来られると、「ユーナの友達のセレナだよ!」と紹介をされる。


セレナは先にペトラ達に「ご無沙汰してます」と挨拶をした後で、コーラル達に「初めまして。セレナです」と挨拶をすると、いよいよ話の読めないコーラルが「ヴァン?」と確認をする。



「聞いてよコーラル。セレナは病気なんだって。ミチトは伝説ならスード・デコの奥さんを治したりしたよね?」

「え…ええ、そう聞いてるわ」


「コーラルならやれるよね?」

「え…やったことないけど…」


「えぇ!?ってそうか…コーラルが病気だったからか、ヘマタイトは!?」

「僕は基本的なヒールくらいです」


「ペリドット!!」

「俺か?俺も村の病気は治して回ったが基本的に心眼術で診てヒールだぞ?」


聞けばシャヘルも似た状況だったが、「皆、それで良いからまずやってよ!コーラルはアクィさんを呼んで!」と言ってヒートアップすると、「ユーナ!ユーナも心眼術覚えてよ!ほらほら早く!」と言う。


「俺は知らないし使えな…」

「さっき愛の証持ったろ!初めてでも持ったよね!使ったよね!やんなって!」


しどろもどろになるユーナを見て、ペトラが「負けだよ偏屈。諦めて教えてもらって使えよ」と言うと、ユーナはヘマタイトの心眼術を見て「覚えた。心眼術」と言って使った。


ひと目見て使えた事でユーナは真式だと証明される。

ペリドットの指示で、ひとまず全員でヒールを送りセレナを癒す事にする。


アクィを呼んだコーラルはアクィの指示で広域化させると、ペトラやユーナは目を丸くして「この方がアクィ・スティエット」、「愛の証が応えるとシアの残した言葉の意味はこれか…」と言う。


コーラルが「アクィさん、ごめんなさい」と声をかけると、アクィは「いいわ。貴い者として当然よ。ヴァンは貴いわねコーラル」と返す。


ヴァンが「アクィさん!アクィさんはセレナを治せませんか!?」と聞くとアクィは一瞬悩んでから、「コーラル、私に術を送りなさい。心眼術を使うわ」と言った。


アクィの見立ては全身を病が蝕んでいて手遅れだというものだった。


愕然とするヴァン。

悔しそうにするユーナ。

そして何処か諦めた顔のセレナ。


だがここでアクィは「ヴァン、貴方にしか出来ないことがあるわ」と言う。


「アクィさん?」

「考えるのはあなた。そしてやるのはユーナ、決めるのはセレナよ」


「やる!?何をすればいい!?」

「私が決める?」


「この状況でセレナを助けられるのは無限術人間にする事だけ。でもこの場の誰も術人間を生み出した経験はない。だからヴァンが最適解を考えなさい。そしてユーナ、あなたがやりなさい。スティエットとしてタシア達の子孫ならやりなさい。セレナ、貴方は人であり人ではなくなる。それを拒んで死ぬのも一つよ。この少ない時間で考えなさい」


アクィはそう言うとコーラルに「術を分けてくれてありがとう」と言って、再度セレナに「でもね。選べるとしても生きるのはいいことよ」という言葉ともう一つの言葉を贈ると静かになった。

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