第10話 降臨する伝説の男。

コーラルが消えてすぐ、ヴァンはペトラに「おじさん、セレナのご両親を呼ばなきゃ。ユーナ、コーラルが戻ったらやるよ。覚悟はできた?セレナ、待っててね。今皆で力を合わせて治すからね」と矢継ぎ早に話す。


ペトラは「セレナの両親は見送りさえ出来れば、それ以外は要らないって言ってるから呼ばなくても平気だ」と言い、ユーナは「…わかってる…。わかってはいるんだ」と言って唸る。

セレナはユーナを見た後で「…うん。ありがとうヴァン」と言った。


ヘマタイト達はヴァンの言う皆が気になり、「ヴァン君、皆でですか?」、「俺達にも仕事があるのか?」、「何を考えてる?」と質問をする。


ヴァンが「にひひ、ヘマタイト達はご褒美を貰うお勉強をするし、頑張りますからお願いしますって係だよ〜」と返していると、そこに戻ったコーラルの手にはミチトの遺髪が握られていて、「良かったよ。ありがとうコーラル」とヴァンが言う。


「まったく、相談してよね?」

「にひひ、なんでもコーラルに頼るのも悪いからさ、それでオルドス様には何式だったか聞いた?」


コーラルは何も聞いていなかったので、「え?あ…」と言って慌てると、表情だけで全てを察したヴァンは「…マジで?」と言いながら天を仰いで、「オルドス様!何式?」と聞くと、「二式だよ」と返ってくる。

ヴァンは「良かった。ありがとうございます!」と礼を言うなりペトラに「お願いします」と言うと、ペトラは笑いながら「俺も会ってみたかったが仕方ない」と言ってペンダントを首にかける。


これに驚いたのはヘマタイトとシャヘルで、「まさか…、そのペンダント…」「二式…転生術か?」と言っている中、ペトラが「転生術!」と言うと部屋は光に満ちた。



光が晴れると、そこには伝説になった男、ミチト・スティエットが立っていた。

ミチトは「あれ?ここどこ?」と言って見回して、「君達は…、真式が4人と半分真式が1人と…病気の子と女の人と男の子?」と言った所で、ヴァンが「ミチト・スティエット!はじめまして。俺はヴァン・ガイマーデ。ここのコーラル達の友達、今日はオルドス様に頼んでペンダントを借りました!」と挨拶をした。



ミチトはヴァンの説明に「オルドス?真式の奴、勝手にペンダントを貸すなって、それで服がブカブカなのか、転生術か…この身体の人間も真式か…。コーラル?」と返すと、ヴァンは「簡単に説明しますね」と伝説のミチトに怖気付く事なく場を回して話を進めていく。


「ペリドット!スティエットじゃなくてもう一つの姓で自己紹介、次はシャヘルで、その次が…ヘマタイトが言ったらコーラルだからね」


この言葉にペリドットが前に出ると、ペリドットを見たミチトが「ジェード?」と言う。


「似てるか?俺の名前はペリドット・ロス。今はペリドット・スティエットを名乗っている」

「マジか、ライブの子供から真式が生まれるのか…」


シャヘルが前に出て「次は俺だな」と言う。


「俺はシャヘル・トゥーザー、メロの直系で転生術のミチトには昔父に会わせてもらった」

「トゥーザー?メロは本気でこの国とスティエットを愛してくれていたからね。昔も転生術で会ってたのか、この術って死ぬ間際に考えたから欠点まみれだよね」


「ミチトの考えた転生術は一式、術者の意識が消えてしまい、言わばミチトになった夢を見ている状態だ。今術者が使っているのはオルドスが改良した二式。術者の意識も残りミチトが出てきている」

「そうだね。俺は今も身体の中にいる男と話しているよ」


頷いたシャヘルが「そして俺の爺さんが考案した三式もある。三式は継続した記憶の継承が可能だ」と説明をすると、ミチトは「…ん?それ、失敗作だ。そんな事をすれば俺の記憶が身体に残る代わりに俺の記憶が身体に悪さをするよ?」と疑問を口にする。


「そう、三式は混ざる。だから三式はトゥーザーだけで使っている」

「君は使ったの?」


「俺はまだ。祖父はかつてオッハーに渡ったペリドットの祖父の為に三式を使った」

「成る程…」


全てを話さずにその場にいながら話を理解して先に進めるミチトの行動にヘマタイト達が驚く中、「ちっ、真式!見てるだろ?三式なんて使わせるなよな」とミチトが言うと、オルドスが「ごめんね〜。トゥーザーは元々影に生きるとメロさんが言ってくれてて、私からも手出し不能だったんだよね。ご不満ならミチト君なら四式とか作れそうじゃない?」と嬉しそうに返す。


苛立つ顔のミチトは「ちっ、お前がやれよ」と言いながら四式の思案に入り、「記憶の継承は…」と言った所で、「あっ!俺の身体じゃないから在庫がない!」と言い出した。


「あ、ミチト君の収納術は残ってるから繋いでみれば?」

「え?収納術って死後も残るのか…」


ミチトの手が消えるとすぐに「あった」と言って魔水晶が出てくると、「ペンダントと融合させて四式を作る」と言った。


「この身体が真式で良かった。とりあえず四式作ったから君達は覚えるんだ」

ミチトは伝心術で新たに作った四式を説明する。


「これはペンダントの魔水晶に記憶も貯まるから、三式みたいに混ざる心配もないし、身体を髪の毛に合わせて俺になるんじゃなくて身体は術者に寄るから、まあ性別は男に変わるから君が使うなら男の服を着てくれよな」

転生術を説明したミチトはヘマタイトとコーラルを見ると、ヘマタイトが「僕はヘマタイト・サルバン」と挨拶をする。


「サルバン、アクィの子孫か…」

「いえ、僕の中にはレスの血も入っています」


「イブの子孫とアクィの子孫が結ばれるの?マジか」

「はい。私の祖父の姉がこちらの…」


コーラルは感極まって目に涙を浮かべて、「ミチトお爺様、コーラル・スティエットです」と名乗ってミチトに挨拶をする。


「はじめまして。アクィによく似てる。でもイブにも似てるね」

「ありがとうございます!アクィさんには今も助けて貰っています!」


コーラルは愛の証をミチトに見せると「あ、愛の証だ。君が使ってくれているの?でもその身体にはまだ重いよね?」とミチトは言うが、コーラルは「いえ!伝説のアクィお婆様に憧れて、徹底的に身体をレイピアに合わせました!今も助けて貰っています」と言った。


「今も?」

ここでコーラルが憑依術の説明をすると、ミチトは「ラミィに何か頼んでいたと思ったらそれか、コーラル…剣を貸して」と言って剣を手に取り、「アクィが居るね。起きるんだ」と声をかけるとアクィは「ミチト!」と言って目覚める。


「何?憑依術なんてラミィに作らせていたの?」

「そうよ。ミチトの愛の証を私たちの子供に使わせてあげたかったし、サポートをしてあげたかったのよ」


「相変わらずアクィは貴いね」

「あら、ミチトには敵わないわ」


「俺は器用貧乏なだけで貴くないよ。それに消耗してる。何をしたの?」

「…そこのユーナ、タシア達の子よ。その子の大切な人を心眼術で見たかったの」


「無茶をするなよ。愛の証に入れた術ならまだしもその状態で術を使えば耐えられないだろ?ほら、補充するけど次はダメだからね?」

「ありがとうミチト」


このやり取りを黙って見ていられなかったコーラルは、「ミチトお爺様!」と声をかけると、「お爺様はアクィさんを愛されていましたよね?」と質問する。


ミチトは呆れ顔で「変な事を聞く子だなぁ」と言ってから、穏やかな顔になって「勿論だよ。俺はアクィを愛していたよ。そんな覚悟も無ければ添い遂げないし、俺の…俺が初めて本気で願った模式にはしないよ。イブやライブはシューザさんが模式にしてしまっていた。メロもバロッテスの奴が模式にした。俺は覚悟を持ってその命を背負った。…アガット達は助けるために彼女達が望んだから覚悟を持って命を背負った」と言う。


ミチトは愛の証を見つめて「でも、アクィは違う。俺が願って俺の罪も何もかも共有してもらい、俺はアクィの全てを貰って無限術人間になって貰ったんだ」と言い、アクィも「ええ、私もミチトの罪を背負わせて貰えた。メロと共にオオキーニの城を消し飛ばしてたくさんの人を殺めた罪を共に背負わせて貰えた」と続ける。


あえて言葉にする行為が邪魔に見えてしまう。

これだけの会話なのに想いが通じ合っている事が伝わってきた。

コーラルは堪らずに泣いてしまうと、ミチトは困り顔で「どんだけ神格化してるんだ?」と笑う。

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