第7話 楽しいお泊まり会

 土曜日の朝。10時。


 本日より日曜日の夕方6時までは俺ん家でお泊まり会である。


  艿夜にやあゆみは早速ゲームのコントーローを握りしめる。

 テスト勉強によって抑圧された感情が、ここに来て爆発したようだ。


あゆみ! やるぞ!!」

「はい!  艿夜にやさん! 負けませんよ!!」


 2人は白熱する。


「「 うぉおおお!! 」」


「私。お昼の準備するから」


 ふむ。


「おまえもゲームで遊びたくないのか?」


「みんなに手料理を食べてもらいたい。こんな時じゃないと作れないから」


 なるほど。

 お泊まり会ならではの選択肢か。


「なにか手伝おうか?」


「ありがとう。でもいいよ。 真言まことはゆっくりしてて」


「そか」


 ならばそうさせてもらおう。

 いつものように寝室で読書を……。

 いやいや。せっかくお泊まりだしな。

 俺もみんなと行動をともにしようか。


「よし。俺も混ぜてくれ」


「うは! 強敵出現ですよ 艿夜にやさん!」


「よぉし。負けねぇぞモッチン! 片手縛りだかんな!!」


 俺たちは対戦ゲームを楽しんだ。


「ぬがぁあああ!! 負けたぁああああ!! モッチン強すぎぃいい〜〜」

「片手でも強いって異常ですよね」


 ふむ。

 この調子だと両手禁止ルールまで付け加えられそうだな。


 部屋中に良い匂いが充満する。


「できた」


 それは 恋都莉ことりの作ったお昼ご飯だった。


 ビーフシチューに特製サラダ。

 そしてホカホカのフランスパン。その上には蕩けたチーズが塗られていた。


「随分、洒落てんだな」


艿夜にやあゆみちゃんの好みがわからなかったから洋風にしてみた」


「うっひゃーー。めっちゃくちゃ美味しそうじゃん」

「わはっ!  恋都莉ことりさんって料理上手なんですね!」


「「「 いただきまーーす! 」」」


 うん。美味い。

  恋都莉ことりの料理にハズレなしだな。


恋都莉ことり、最高! めっちゃ美味いって!」

「本当です! あゆみはこんな美味しいシチュー初めて食べましたよ!!」


 それに、このチーズが塗られたフランスパンもな。

 チーズの酸味が食欲を掻き立てていくらでも食べれるんだ。


 みんなが喜んでいると 恋都莉ことりは満足気だった。


「ふふ……。嬉しい」


 食事のあとはデザートである。


「今日は奮発して一杯買い込んだかんねぇ」


 プリンにヨーグルト。アイスクリームもある。


 うーーむ。豪華だ。


 食後の食器洗いは俺の仕事である。


「悪いよ」


「いや。これくらいはな」


 美味い飯を作ってくれてんだしな。


「ありがとう」


「気にすんな」


「夜はどうしようか? なんなら私が作るけど?」


「疲れないのか?」


「料理は楽しい。でも食材がないんだ。明日の朝とお昼の分もないし」


 ふむ。


「じゃあこれから買い出しに行くか」


「私、1人で買ってくるけど?」


「いや。それは悪いよ」


 全部、 恋都莉ことりに任すってのも大変だしな。


「じゃあ、これからみんなで買い出しに行こう。そのついでに今晩は外食にするか」


「「 ええ!? 」」


 反応したのは 艿夜にやあゆみだった。


あたし、モッチンと出かけたことなんてないよ!?」

あゆみもです!」


 そういえば……。ないな。


「へぇ……。私よりも付き合いが長そうだったから、外食くらいはしてるんだと思ってた」


「あはは。ないない。モッチンは部屋の管理人みたいな感じでさ。あたしらが自由に使ってただけだからね。一緒に外食なんて。なぁ?」

「ええそうです。いつもコンビニで弁当を買ったりして、それぞれが個別で食べてましたね」


 うむ。

 確かにそうだったな。俺ん家は自由だからな。しかし、それゆえに一緒に行動するという概念がなかったかもしれない。

 お泊まり会というイベントが奇妙な連帯感を生んでいるんだ。


「へへへ。 恋都莉ことりってすごいよな」


「なぜ?」


「だって、おまえが来たから、モッチンの家でのお泊まりが解禁してさ。外食まで一緒に行くことになったんだぜ?」


「……誘えば外食くらい付き合ってくれたんじゃないの?」


「うーーん。どうかなぁ?」

「ははは。先輩はどうでしょうねぇ?」


じぃーーーーーーーー。


 いやいや。

 なぜ俺を見つめるんだ?


「誘えば飯くらい……」


 いや待てよ。

 行かないかもな……。『俺は読書してるわ。おまえら勝手に行ってこいよ』とか言いそう。


 それがわかってて2人は俺を誘わなかったのかもな。

 俺の行動が変わったのは、確かに 恋都莉ことりが来てからかもしれないな。


「じゃあ何食べたい? あたしは肉が食べたいな」

あゆみはなんでもいいです!」

「あんまり高いのはおこづかいが厳しいよね」

「じゃあ、中華はどうだ? リーズナブルだぜ?」

「いいですね!」

「うん。私も中華食べたい」

「んじゃ決まりだな」

「スマホで検索しましょうか!」

「うん。口コミサイトで点数の高い所にしよう」


 と、女子たちはスマホの検索に熱中する。


「おまえら……。さっき飯食ったばかりじゃないか」


「イベント、イベントォ。外食なんてウキウキじゃんか!」

「そうです! 外食はイベントなんです!」

「うん。みんなで外食。楽しいよね」


 やれやれ。

 すさまじい連帯感だな。


 お泊まり会という特殊なイベントが妙な空気を作っているのか。


 じゃあ、


「明日の朝と昼の食材を買ってからどっかの店で中華を食べるか」


「「「 賛成♪ 」」」

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