第6話 恋都莉の謝罪

「え!?  恋都莉ことり早くね?」

「こ、 恋都莉ことりさん。日曜日なのにどうして制服なんですか?」


 うん。

 まぁ、こういう反応が返ってくると思った。


  恋都莉ことりは正直に言うつもりらしいからな。


「実は 恋都莉ことりが昨日、泊まったんだ」


「「 ええーーーー!? 」」


「ちょ! それ狡くない?」

「そうですよ! 狡いです!!」


 そう言われてもだな。


  恋都莉ことりは頭を下げた。


「ごめん。みんなには理由を話してなかった。全部話す」


 俺だって細かいことは知らないからな。


「私の母さんは支配欲の強い人でね。異常に私を縛る。言うことを聞かない私をすぐに怒鳴るんだ」


 昨日は電話は本当に酷かったな。

 あんな親じゃあ誰だって耐えれなくなるさ。


「毎日が息苦しくてね。友達なんかいないから逃げ場だってないし。私はそんな家庭から逃げ出したかった」


「……あ、だからあの時、公園にいたのか」


「うん。初めて会った時だね。いつものように公園で泣いていたら、 艿夜にやが誘ってくれた。理由も聞かずに。だから私はここに来た」


 俺たちは彼女の言葉を黙って聞いた。


「昨日。また、怒られたんだ。凄い剣幕でね。私は……。また、泣いちゃった」


「凄い剣幕だったよ。電話越しに怒鳴り声が聞こえてくるくらいのな。流石に見過ごせなかった」


「あ、でも。泊まりたいってお願いしたのは私だから。 真言まことはルールを守るように言った。だから」


 彼女は深々と頭を下げた。


「ごめん。無理を言って泊めてもらったの」


  艿夜にやあゆみは顔を見合わせる。


 フォローはしよう。

 彼女たちは、以前から俺の家に泊まりたがっていた。俺は6時までという条件で断ってきたからな。


「彼女が俺の家に泊まったのは最前な選択だったと思う。本当に見てられなかったからさ」


「そっか……。そういうことなら、なぁ?」

「で、ですね。 恋都莉ことりさんの家庭には何かあると思ったんですが、お母さんが酷いんですね」


「ああ。それはもう凄い怒号だったぞ。俺だったら家を出て行くかもな」


「そんなに……。それは 恋都莉ことり。辛かったね」

「本当です。それは辛いですよね」


  恋都莉ことりはもう一度、頭を深々と下げた。


「ありがとう。2人には感謝してる」


「いや、あたしは何もやってないよ」

「そうですよ。あゆみは何もしていません」


「ううん。初めて会った時から、私のことをずっと心配してくれてる」


「そりゃあな。人生詰んだ、みたいな顔してんだもん。心配するっての」

「私もですよ」


「ふふふ。でも放っておけばいい。他人だし」


 確かにな。

 これは 恋都莉ことりが的を得ているのかも。


「2人とも、お人好し」


「はぁ!? ちょっと! その言い方はないだろ?」

「そうですよ! あゆみたちがバカみたいじゃないですか!」


「2人には、すごく感謝してる。ありがとう」


「ま、まぁわかればいいけどね」

「そ、そうです。わかっていればいいんです」


「ふふふ。それに、 真言まことに会わせてくれた」


「エヘヘ。モッチンは優しいからな」

「そうそう。結局、あゆみたちも先輩頼りだったりします。へへへ」


 やれやれ。


「3匹のペットの世話をする身にもなってくれ」


「それ酷い」

「ちょ! 誰がペットだ!」

「そうです! あゆみは犬じゃありません! ガウウ!」


「大体なぁ! こんな可愛い女の子が部屋に出入りしてることをありがたく思えよな!」


「いや。俺は来てくれと頼んだ覚えはないが?」


「うう……。ペットの辛い所だぜ。飼い主には逆らえない」


艿夜にや。ペットって認めてる」

艿夜にやさん、もうちょっと頑張ってください」


「うう……。モッチンの部屋は最強に居心地がいいんだ! 檻の中に戻りたいペットってどうなってんだよ!? 普通外に出たがるでしょうが!!」


「いや、知らんがな」


「くぅうう〜〜」


 こうして、みんなは俺ん家で勉強をすることになった。


  恋都莉ことりの成績は中の上といったところか。

 彼女たちの中では 艿夜にやが一番勉強が苦手そうだ。


「ねぇ。もうそろそろゲームやんない?」


「ダメ。まだ、勉強終わってない。 艿夜にやが一番できてない」


「ううう……」


 ははは。

  恋都莉ことりがいるなら 艿夜にやの面倒は彼女に任すとしようか。


 こうして、その日はみっちりとテスト勉強ができた。


 夕方6時。


恋都莉ことりはまたモッチン家に泊まるの?」


「まさか。そんなことしたら母さんに通報される」


「じゃあ帰るんだ……。家は、大丈夫なの?」


「うん。ガミガミ言われるとは思うけど」


「着いてってあげよっか?」


「ありがと。でも大丈夫。 真言まことの家に泊まってリフレッシュできたから。母親の嫌味くらい我慢できる」


「そか」


 ふむ。 恋都莉ことりは大丈夫そうだな。


「先輩。あゆみたちもお泊まりしたいですぅ」


 やれやれ。

 これは断れそうにないな。


「わかったよ。んじゃテストが終わってからだ。それでいいか?」


「わっほーーい! 絶対ですよ! 約束です!」

「じゃあさ。3人でお泊まりだな」

「私も楽しみ」


 そうして3人は帰って行った。

 次の日、 恋都莉ことりは元気にしていたので、家のことはなんとかなったのだろう。


 しばらくはテスト勉強が続く。

 3人娘は相変わらず俺ん家に来るが、テレビをつけてないだけで驚くほど静かだった。


 こうしてテストが終わった。

 俺とあゆみの成績は言うに及ばず。

  恋都莉ことりも問題なし。

  艿夜にやは赤点ギリギリだったがなんとかクリアできた。


 よく遊び、よく学ぶ。

 まったく問題のない学生生活だよな。


 そして、土曜日の朝。


「よっしゃあ! モッチン家に初お泊まりだぁああ!!」


 と、 艿夜にやは意気込む。


 3人が俺ん家に来た時には、キャンプにでも行くのかと見間違うくらいの大荷物だった。


「……おまえら。なんだ、その荷物は?」


「え? 化粧品とかさ。着替えだけど?」


 女子はこうも荷物が多いのか??


「替えの下着とかも入ってるよ? ふふふ」


「なぜ、そんなことを宣告する?」


「だって気にならないの? あたしの下着だよ?」


 俺はオデコに手刀を入れた。


ズビシュ!


「痛ぁ! 暴力反対!」


「なんとなくウザかったのでついな」


「んもう。モッチンたら。恥ずかしがり屋だな♡」


「はーー」とゲンコツに息を吹きかける。


「わはは! ジョークじゃんジョーク」


 ウザ絡みには手厳しく行くのが俺流なんだ。

 

 さて、他のヤツも荷物が多いな。


あゆみも着替えとかですね」


 と、ぶら下げているエコバッグには少女漫画がびっしりと入っていた。


「おい。これのどこが着替えなんだ?」


「あは、あはは。でもこれ面白いんですよ。 恋都莉ことりさんが読みたいと思って持ってきました」


 どうせ、俺ん家の本棚に並べるんだろうな……。

  恋都莉ことりも荷物が多そうだ。


「何持ってきたんだ?」


「クッキーを焼いたから、みんなで食べようと思った」


「ほぉ。それは楽しみだ」


「あと、食材も買い込んできたから。食事は任せて欲しい」


 ふむ。彼女は料理が上手いからな。


「くはーー! 初めてのお泊まり!! ワクワクすんなぁ。おまえら、今日は寝かさねぇかんな!」


 俺の家に3人も女の子が泊まるなんてな。

 これは賑やかになりそうだ……。


「イヤッホーー! 飲むぞぉ!!」


 勿論、コーラである。


 お泊まり会の幕開けだ。

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