第3話 恋都莉

 俺の呼び方か。


「別に好きに呼んでくれよ。望月でもいいし、 真言まことでもいいしな」


「…………」


  恋都莉ことりは頬を染めていた。


 まぁ、初めて名前を呼ぶのはなんだか照れ臭いもんがあるよな。


「俺はお前のことを 恋都莉ことりと呼ばしてもらおうかな」


 他の2人が名前だからな。こいつだけ苗字ってのもおかしいしな。


あゆみ 真言まことさんのことを先輩、って呼んでますね。えへへ」

あたしはモッチンだね」


  恋都莉ことりはしばらく考えてから、


「じゃあ、 真言まことで」


 ふむ。

 彼女は同学年だからな。呼び捨てでもいいだろう。


「君付けだと、なんだか遠いし。私らしくないかもしれない。だから呼び捨て」


「んじゃそれで頼む」


「うん」


「あーー。なんかそれってどうなの?」

「そ、そうですよぉ。なんかちょっとねぇ」


 ん?


「何か問題でもあるのか?」


「いや……。問題っていうか……」

「えへへ。そうですよね。問題っていうわけじゃないんですけどね……」


 歯切れが悪いな。


「お前たちは 恋都莉ことりになんて呼ばれてるんだよ?」


 2人は彼女を見た。

  恋都莉ことりはそれに応えるようにそれぞれを指差しながら、


艿夜にやあゆみちゃん」


 そして俺を指差す。


真言まこと


 これで判明した。

 同学年は呼び捨てタイプだ。


「2人ともスッキリしたか?」


「うーーん」

「そ、そうですねぇ……」


「なんだよ?  恋都莉ことりの発言に何か問題があるのか?」


「問題っていうか……」

「そ、そうなんですよ……問題っていうか……」


「ん? ハッキリ言えよ」


「だってなぁ?」

「ですよねぇ?」


「だから、なんだよ?」


「こ、こ、恋人みたいじゃんか」

「で、ですよ!」


 はぁ?


「何言ってんだよ?」


  恋都莉ことりは真っ赤な顔になった。


「他意はない」


「ほらな。呼び方だけで妙な勘繰りはよせ」


「「 ぶぅ〜〜 」」


 やれやれだな。


真言まことの分。お菓子買ってきた」


「おお。サンキュ。でも気を使わなくてもいいぞ?」


「家。あげてもらうから。こういうのは礼儀」


「そか。んじゃもらおうかな」


「うん。好きなの選んで」


 スーパーの袋にはたくさんのジュースとお菓子が入っていた。


「随分、買い込んだんだな」


艿夜にやあゆみちゃんの分も買った」


「やった。あたしらのもあるんだ♪」

「うわぁ。プリンが入ってますよ!」


「みんなで食べようと思った」


「あれ? でもプリン3つしかありませんよ?」


「あ……」


 と、やっちまった感。


「私はいいからみんなで……」


 やれやれ。


「いや俺のはいいよ。自分のが冷蔵庫にあるしな」


「でも……」


「気にすんな」


「ご、ごめん……」 


 さて、今日もラノベかな。


真言まことは隣りの部屋?」


「ああ。いつものことだ」


「そっか……」


「まぁ、気が向いたらリビングに行くから」


「うん」


 女子たちは楽しそうにプリンを食べる。


「んじゃあさ。今日はあたしたちとゲームやるっしょ?」

「うん。でも私。ゲームやったことない」

「あーー、だったら金鉄やりましょう!」

「なんだろう、それ?」

「金太郎鉄道の略称です。スゴロクゲームですよ。対戦ゲームは 艿夜にやさんが悪魔なので初めはやらない方がいいです」

「うん。やってみる」


 ふむ。

 打ち解けてるみたいだな。


 少しすると、扉越しに3人の笑い声が聞こえてきた。


 よしよし。

 しばらくはゆっくりと読書を楽しむとしよう。


 本の半ばまでくるとキリがいい。

 よし、隣りに行くか。


「あ! 先輩も参加ですか?」


「うん。ちょっと読書も区切りがついたからな」


 テレビ画面はまだ金鉄か。

 今日は金鉄の日だな。


「誰が勝ってるんだ?」


恋都莉ことりさんですよ。強運なんですから」


 へぇ。


「運も実力のうちか」


「うん。私。敵なし」


「ははは。よし。んじゃ次は俺も参加する」


真言まことが来ても私の勝ちは揺るがない」


「ふむ。言うじゃないか」


「このゲーム面白い」


 プレイスタート。


「ああ。今回も絶好調。やっぱり私が最強」


「よし。そんなおまえにキング貧乏神をプレゼントしてやる」


「容赦ない」


「あはは! ウケる!!  恋都莉ことりが最下位になったじゃん」


「まだ負けたわけじゃない」


 1時間後。

 ゲームは終盤に突入する。


「やったぜ! あたしが一位だ! 貧民どもよ! ひれ伏せよ!!」


「酷いですよぉ。結局私が貧乏神を擦り付けられて最下位じゃないですかぁ」


あゆみちゃん。ネバーギブアップ。その神様、私に頂戴」


「えええ? いいんですか? も、貰ってくれるならぁ」


「うん。んじゃあ、それを 真言まことにあげるね」


 うむ。


「では、最後に俺から 艿夜にやにプレゼントしてやろう」


「ちょ、ちょっと連携プレイ??」


 結局、 艿夜にやが最下位となる。


「ちょっとぉおお! あたしの全財産がぁああああ!!」


「悪銭身につかずだ」


「ふえええーー」


「「「 ははは!! 」」」


「も、もう一回よ!!」

「もうそんな時間はありませんよ」

「んじゃあ対戦を少しだけやろうよ! ね?  恋都莉ことり! いいでしょ?」

「うん。やったことないけど」

「大丈夫。優しく教えてあげるからな。ぬふふふ」

「あ! 気をつけてください 恋都莉ことりさん。 艿夜にやさんは初心者をボコボコにするのが趣味ですからね!」

「そ、そんなんじゃねぇ!」


 ふむ。


艿夜にやは片手プレイ縛りだな」

「ええええええ!?」

「あはは! それナイスアイデアですよ!」

「ちょ、それじゃああたしが勝てないじゃねぇかーー!」

「「「 はははーー! 」」」


 時間は溶けるように過ぎた。


「勝った」


「ちょ! りょ、両手なら勝てたんだからな!!」


「うん。でも、私が勝ったのは事実」


「うへぇ」


「「「 ははは!! 」」」


 夕方6時。

 俺の家は閉店する。


「今日。ありがと。すごく……楽しかった」


「ああ。気をつけて帰れよ」


「うん」


 その時。 恋都莉ことりの携帯音が鳴り響く。

 その瞬間、彼女の顔色が変わった。

 電話越しの彼女は初めて出会った時のように悲しい顔つきになる。


「何?」

「どこ行ってるの?」 

「友達の家。今、帰る所だから」

「何時だと思っているの? 帰るのが遅いわよ!!」

「すぐ帰るから」

「急いで帰ってきなさい!! 走って帰って来なさい!! 命令よ!!」

「……できる限り急ぐから」

「あなたは女の子なのよ!! すぐに帰ってきなさい!!」

「わかったから……怒鳴らないでよ」

「あなたのために言っているのよ! 全てあなたのためじゃない!! お母さんはあなたのためを想って言っているのよ!!」

「わかったから……」

「命令よ。すぐに帰ってくるように!」

「わかったよ……」


 そう言って電話を切る。

 彼女は俺に会釈をして帰って行った。


 なんだか闇が深そうだ。

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