第2話 なんか増えた

 それはいつもの帰宅時間。

 俺はコンビニで弁当を買ってから家に帰った。

 どうせ、今日も家の鍵は開いているんだ。


 そう思っていたのだが……。


「あ、モッチンお帰り……」

「先輩……」


 なぜか、 艿夜にやあゆみが扉の前に立っていた。

 そして……誰だろう、彼女は?


 輝く銀髪の女の子。


 大きな瞳。引き締まったウエスト。ミニスカートから伸びる脚はスラッとしている。

 服でかくれているが相当に胸がデカい。

 美少女……。であるのはいうまでもないが……。


 どうにも表情が気になるな。

 今にも泣き出しそうで潰れてしまいそうな顔。


「あ、えっとな……。この子さ。籠中かごなか  恋都莉ことりっていうんだ。公園で見かけてさ。連れてきたんだけど……」

「ち、因みに、私たちとも初対面だったりします」


 ほぉ……。

 初対面の女子を俺に紹介しているのか。

 つまり、この籠中かごなか  恋都莉ことりを知っている者はここにはいない、と。

 ならば、なぜ俺の家に連れてくるのだろうか?

 ……まぁ、なんとなく想像はつくが。


「この子さ……。モッチンの家に上げちゃダメかな?」


 だろうな。

 俺にお伺いを立てるために家に入ってなかったんだ。

 俺が断ってみろよ。彼女は自殺しちゃうんじゃないかな。

 今にも壊れそうなさ。危ない雰囲気が漂ってるよ。

 きっと、2人もそれを察知したから連れてきたんだろうな。


「ああ。広い家じゃないけどさ。良かったらどうぞ」


「…………」


 彼女は黙ったままだった。


「良かったな。えへへ。だから言ったろ? モッチンは優しいんだ」


 籠中かごなか  恋都莉ことりの思考は停止していた。

  艿夜にやたちに背中を押されるまま部屋に入る。


 ふむ。


「お菓子は買ってきたか?」


「ああ。これモッチンの分な」


「うん。じゃあ。これ……。食べてくれ」


 と、籠中かごなか  恋都莉ことりに渡す。


 彼女はなんとなく受け取った。


「えーーと。飲み物は?」


「ああ。モッチンのヴァンタグレープがあるよ」


「うん。じゃあ、これ。飲んでくれ」


 またも、籠中かごなか  恋都莉ことりに渡す。


「…………」


 ふむ。

 闇が深そうだ。


「えーーと。小腹が空いたらだな……」


「今日は先輩にチョコもっちりパンを買ってきましたが?」


「ああ、あんがと。んじゃ。これ。食ってくれ」


「…………」


 こういうのは何も聞かない方がいいと思う。

 言葉には力が宿るからな。例え、励ましや、思いやりの気持ちを持っていても、相手にとってはお節介でウザい可能性だってあるだろう。


「このリビングは自由なんだ。んで、隣りが俺の寝室。俺はいつも読書してるからさ。気にしないでくれ」


「…………」


「あ、読書と格好をつけたが、読んでいるのは漫画とラノベだからな」


「…………」


 ふむ。


「じゃあ、俺は読書してるからさ。おまえは自由にくつろいでてくれよ。……あ、そうそう。一応、入場制限があってな。この部屋の利用は18時までとなっているんだ。親御さんが心配するからな。2人にもそれは守ってもらってるから」


あたしは泊まりたいんだけどねぇ。ニヘヘ」

「私もお泊まりしたいです!」


「俺は一応、男だからな」


「あはは! モッチンだったら大丈夫じゃん!」

「そうですよ! 先輩だったら平気です」


 やれやれ。

 俺だって狼に変貌する可能性はあるんだ。

 危機感は持っておいて欲しいよ。


 おっと、内輪の会話は疎外感を感じて気分が悪いよな。


「えーーとな……」


「…………」


「……トイレはそこ。洗面所はあそこ。自由に使ってくれていいから。冷蔵庫の中もさ。自由に好きな物を食べてもらって……。あ、でもプリンは食べるなよ。俺のだからな。……あ、いや。今日はプリンも食べて良いや」


「あ、本当? んじゃああたしたちも食べていい?」

「やったーー! あゆみも食べたいです!」


「いや、お前たちはダメだろ」


「ええええ〜〜」

「え、えこ贔屓ですぅ」


「新人特権だ」


「たはーー。良かったねぇ 恋都莉ことり

「よかったですね。 恋都莉ことりさん」


「…………」


 ふむ。

 一通りの説明は済んだな。


「んじゃ、俺は部屋でゆっくりするから」


 彼女はおもむろにリビングの隅に座った。

 

 さて、とりあえず俺はゆっくりしよう。


 寝室に入り、扉を閉めると俺だけの空間となる。


 ベッドにダイブして安らぐ。


「はぁ〜〜」


 この流れだと、彼女が気になってしまうよな。

 別にお節介をするわけではないが、あんなに辛い顔をされるとな。


 籠中かごなか  恋都莉ことり……。


 今度は迷い鳥か……。


 ああ、なんか知らんがまた増えたなぁ。

 

 扉越しに彼女たちの声が聞こえてくる。


「このリップさ。買ったんだぁ」

「うわぁ。 艿夜にやさんに似合ってますねぇ」

「えへへ。いいだろ? ファンデーションも買ったからな全部30%オフな」

「安い買い物ですね。私も欲しいです」

「今度、店を教えてやるよ」

「あは。ありがとうございます」

「「 ………… 」」


 うーーん。

 妙な間があるな。

 いつもの会話じゃないというか。

  恋都莉ことりのことを気にかけているのかもしれないな。


「じゃあゲームやる? 漫画もあるんだぜ」

「…………」

「見てくださいよ。少女漫画がギッシリあるでしょ? 先輩の家には少年漫画とラノベしかありませんでしたからね。あゆみがこっそり少女漫画を持ってきてるんですよ。えへへ」


 本棚の少女漫画はあゆみのだったのか。

 妙に増えてると思ったんだ。


「あーーじゃあ。ゲームやんね?」

「バリオカートは楽しいですよ?  艿夜にやさんが弱いんです。にへへ」


  恋都莉ことりの声が聞こえてきた。


「ありがと……。見てるよ」


 その声は、扉越しだったけど、なんていうか……嬉しそうな感じはした。


 もう気にするのはやめよう。

 俺はゆっくりラノベでも読んでればいいか。


 夕方6時。

 俺ん家の閉店時間だ。

 3人の美少女はそれぞれの家へと帰って行った。


 結局、 恋都莉ことりは俺にペコリと頭を下げるだけで、ほとんど喋らなかった。


 次の日。


  恋都莉ことりはリビングに座っていた。

 その横では 艿夜にやあゆみがゲームを楽しんでいる。


 まさか今日も来るとはな。意外だ。


  恋都莉ことりは俺に向かってペコリと頭を下げた。


 相変わらず無口だが、血色はいいな。


 ふと、彼女は立ち上がる。


「あ……。な、なんて呼んだらいい?」

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