俺ん家が駆け込み寺〜訳あり美少女がなぜか俺の家へと集まってきます〜

神伊 咲児

第1話 なんか俺ん家に美少女がいる

 俺の名前は望月  真言まこと

 17歳の高校2年生だ。


  真言まことなんて変わった名前だと思う。

 語感では女と間違われることだってあるからな。

 それになにより、クラスメートの保護者には「何か宗教でもやられているのですか?」などと聞かれたことさえあった。

 もう慣れてしまったがな。一応、無宗教ということは伝えている。


 楽な名前ではないのかもしれん。

 だが、父親が、言葉に責任を持つようにと付けてくれた名だ。

 気に入っているわけではないが、まぁ、親の想いはわからんでもない。

 

 しかし、妙な格式の高さは窺える。まるで、人を説き伏せるのが得意な人格者のような。そんな印象を与えるかもしれない。

 本人は無気力そのものなのだがな。


 大層な名前だが、俺は真面目一辺倒な人間ではない。

 むしろ、そうならねばいけないのでは? と疑問にさえ思ったことがある。

 しかし、親の血なのだろうか? なにか物事に熱中したりだとか、感情を露わにするだとか、そういうことがまったくなかったりする。

 日がな1日、読書でもして、なんとなく体を動かしたくなったらゲームをする。そんな怠惰な毎日で満足しているのだ。俺にとっては指をカタカタと動かしているだけで、それなりに良い運動になっているのだろう。まぁ、不健康極まりないがな。

 ああ、それと。読書と格好をつけたが、読んでいるのは漫画とラノベだけだ。


 さて、そんな俺なのだが、友達が多いか? と聞かれると悩んでしまう。

 友達の境界線とは一体どういったモノなのだろうか?

 その不明瞭な部分が、どうにも返答を困らせるのだ。


 クラス替えがあったとして、夏休みが終わればクラスメートはそれぞれのグループを作る。

 そんな時、俺は1人でラノベを読んでいたりする。

 おや、もしかして俺はボッチなのか? などと認識してしまうことがあるのだが、みんなは適当に会話をしてくれるし、特に寂しい、などとは微塵も思わない。

 朝の挨拶で「よぉ」とか「おっす」などと言ってくれるだけで、俺の心は満たされるのだ。

 よって、特定の、所謂、親友、などと言われる存在はいないが、まぁ、気楽にやらせてもらっている。特段、不便を感じたことはない。1人が好きなのだろう。


 成績は上の方である。

 人にバカにされない程度。というか、教えることくらいはできるかもしれない。

 あれこれと心中で考察を巡らすタイプなので、考えるのが好きなのかもしれない。勉強ができるのは自然なことのようだ。

 将来の夢は特にないが、仕事ができないタイプではないだろう。

 部屋の片付けはキチンとできるし、物事の筋道をしっかりと思考できる性格だ。

 なにせ、 真言まことなんて名前なのだからな。

 どこかの会社に就職すれば、出世はしなくとも食っていくことくらいはできるだろう。

 だから、将来の不安なんてものは少しくらいしかなくて、今はただ、なんとなくその日を惰性的に過ごしているだけにすぎない。


 俺の両親は海外に出張に行っている。

 古物商をしていて高価な絵画を売っているらしい。


 よって、俺だけは日本に残って1人暮らしをすることになった。

 家賃8万5千円。1LDKの立派なマンションに住んでいる。

 オートロックは無いが高校生には十分すぎる住まいだろう。

 1部屋を寝室。リビングをゲームができるくつろげる部屋とした。


 さて、学校が終わった。

 この後は、家に帰ってなんとなく読書をしてゲームをするだけだ。

 自炊なんて滅多にしないからコンビニの弁当を買って帰る。


 んで、家の扉の鍵を……。


 ふむ。

 

「開いてるな」


 未施錠。

 とは防犯上、危険極まりない状態である。

 まぁ、人がいなければ、の話だ。


 あーー、言っておくが。

 先にも述べた通り、俺には特定の友達はいない。まして恋人なんてもっての他だ。


 家の扉を開けるといい香りが鼻腔に広がった。

 シャンプーと石鹸。あとは香水の匂いだろうか。


 玄関には女性の履き物が2足。

 聞こえてくるのは甲高い笑い声とゲーム音である。


「モッチン。お帰り〜〜」


 と、声をかけるは金髪の美少女である。

 肌の色は真っ白で胸が大きい。

 ガバッと開いた脚。真っ白い肌の太ももに目を奪われてしまうが何も考えないようにしている。

 因みに、モッチンとは望月から取った愛称らしい。彼女しか使わないが、俺のことをそう呼びたいみたいなので自由にさせている。


「コーラ買っといたからさ。冷やしといた。飲むっしょ?」


「ああ。ありがと」


 彼女の名前は 根好ねこの  艿夜にや

 俺と同じ17歳。隣りのクラスの女子だ。

 耳にはピアスを何個か開けていて、所謂、ギャルというやつだな。

 この部屋では明るく振る舞っているが、普段の彼女は近づくと逃げてしまうような猫っぽい雰囲気がある。校内でもずば抜けた容姿の持ち主で、読者モデルをやっているらしい。なんでも、彼女を崇拝するファンもいるんだとか。


「あ、 艿夜にやさん狡いです! それハメですよぉ!!」


「ニシシ! オラ死ねし」


「あーーーー! うう。負けちゃいましたぁあ」


 部屋の中には女の子がもう1人。

 背が小さくてピンク色の髪の毛をした美少女。


「あ、先輩。お帰りなさい! 今日お邪魔してます!」


「ああ」


「チーズふっくらパンを買っておきましたので食べてくださいね」


「うん。あんがと」


「先輩好きですもんね。ふっくらパン。ニヘヘ」


 彼女の名前は 犬飼いぬかい あゆみ

 16歳の後輩だ。

 目がクリクリっとして犬のような人懐っこい感じがある。

 学年トップの成績の持ち主。本人曰く、あまり勉強をしなくても授業を聞いているだけで高得点が取れてしまうそうだ。なんなら俺より頭がいいかもしれない。でもゲームの腕はイマイチのようだな。


「先輩。敵を討ってくださいよぉ〜〜」


 やっているゲームは……。ズマブラか。

 大乱闘 ズマッシュブラザーズ。


 しかし、今は読書の気分なんだよな。


「んーー。あとでな」


「ああ、絶対ですよぉ」


「ああ。なんかお菓子ある?」


「モッチンのポテチは買ってんぜ。ニシシ」


「おう。ありがとな」


 俺は弁当を冷蔵庫に入れた後、コーラとポテチを持って隣りの寝室へと移動する。

 いつの間にか、この部屋が俺の個室と化していた。

 彼女たちが入って良いのはリビングだけとなっている。この部屋へは不可侵条約を結んでいる。


 隣りでは 艿夜にやあゆみがキャッキャッとはしゃぎながらゲームをする。

 俺はコーラをゴクリと飲んでからベッドの上に寝転んだ。


 どうしてこんなことになったのだろう?

 ボッチの俺ん家に美少女が入り浸るなんてな……。草生えるわ。

 いや、生やしている場合ではないか。

 

 彼女たちにとって、俺の家は落ち着く場所らしい。

 だから、毎日来る。

 俺の分のお菓子を買って。


 くどいようだが、俺に特別な友達はいない。彼女たちはそういうのではないのだ。つまり、なんというか……。


 なんか知らんが部屋にいるのである。


 しかも信じられないことに、彼女たちには合鍵の場所すら教えてしまっている。

 家の前には植木鉢が3つ置いてあるのだが、その真ん中の下に、この部屋の合鍵が置いてあるのだ。彼女たちが俺よりも先に部屋に入っていたのはその鍵を使って入ったからである。


 彼女らと俺との関係は、一言では表し難い。

 わかりやすく表現するならば……。そうだな。



 迷い猫と拾った犬が、居着いた。



 ……といえば簡単だろうか。


 まぁ、リビングさえ提供していれば機嫌よくしてくれているので、俺は俺でマイペースに生活させてもらうがな。


 ポテチをパリパリと食べながらラノベを読む。


「フフ……」


 異世界転生モノもいいが、今はラブコメにハマっている。

 特にヤンデレモノが面白い。


 ポテチが無くなった頃。時計は16時半を指していた。相変わらず、扉の向こうではキャッキャッウフフと陽気である。

 彼女たちは18時に帰るルールになっていた。


 あと1時間半か。


「あーー! また負けましたぁあ〜〜」


「ニハハ! あゆみ弱すぎぃいい」


 ふむ。

 ちょっと体を動かしたくなった。


「よしあゆみ。俺が変わってやろう」


「うはーー!! 先輩待ってましたーー!!」


「お! 来たなモッチン!! 負けねぇかんな!!」


 やれやれ。

  艿夜にやが俺に勝ったことはないのだがな。


「あーーモッチン。連続攻撃禁止な!」


「なんだと?」


「当然だろ! モッチン最強説が浮上してるんだかんな!」


 ……まぁ、いいか。

 単発攻撃縛り。

 その方が面白いのかもしれん。


「ふむ。いいだろう」


「ニハハ! 勝った!! ヌハハ。策にハマりおって」


「狡いです 艿夜にやさん!!」

 

「ふふん! ゲームはここから始まっておるのだよ!!」


「なんか 艿夜にやさんが変な軍師キャラ入ってます! ぶっ倒してください先輩!」


「うむ。善処する」


 そして、


「だぁあああああああ!! 負けだーーーー!! モッチン強すぎぃいいい!!」


「あはは! やりました!! 悪は滅びるんです!!」


「ちょ! あたしは天使だっての!」


「私のキャラを撲殺しすぎです。 艿夜にやさんは殺生が多すぎるんですよ!」


「じゃあ堕天使ね」


「悪魔ですね」


「ええーー酷ぇ」


「それにしても、 艿夜にやさんに勝ってしまうなんてすごいですよ先輩!」


 連続技が無くともなんとかなるもんだな。


「今度はあゆみと対戦してください!」


「ああ。別に構わんが」


 俺は 艿夜にやに勝っているからな。

 勝負になるのか?


「先輩は連続攻撃禁止ですからね」


「ああ」


 しかし、それでも 艿夜にやに勝っているのだが勝算はあるのか?


「加えて片手プレイ縛りです」


「何?」


「エヘヘ。それくらいのハンデはいると思うんです。ダメですか?」


 ふぅむ。そう来たか。

 片手とは難度が高い。しかし、


「わかった。受けて立とう」


「ありがとうございます!」


「アハハ! これは流石に無理っしょ! モッチン終了のお知らせぇえ♪」


「ムフーー!  艿夜にやさんの仇はあゆみが討ちますからねぇ」


「よし! やれあゆみ! ファイトだ!! あたしの仇を討ってくれ!」


「はい!! ぶちのめします!」


 ズマブラは両手が必須だからな。

 複雑な操作は片手ではできない。

 これでは俺の負けは確定だろう。

 あゆみ 艿夜にやに連敗していた。

 少しくらいは勝利の楽しさを味わう権利があっても良いだろうな。

 みんなが勝利してハッピーエンド。

 そういうのも悪くないさ。


 そして……。


「だぁああああああああ! 負けだぁああああああああ!! 先輩強すぎですぅうう!!」


 まさか勝てるとはな。

 適当に攻撃を避けながら単発攻撃を当てていたらタイムオーバーで判定になって勝ててしまった。


「モッチン。もうプロじゃん!」


 いや、おまえらが弱いだけだ。


「もう1戦お願いしますぅ! 片手なら勝機はあるんですからぁあ!!」


 2戦目は結構余裕をもって勝利してしまった。

 片手プレイもありかもしれん。


「ええええ! 先輩、手加減という言葉を知らないのですかぁ?」


「知ってはいるが全力は出す」


「ええーー!」


「あはは! ウケるぅうう!」


 こうして、俺の1日は終わる。

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