戦いのduet(4)~違うゲーム感がすごい


 決闘の時刻は近づく。


 二組による決闘だが、様式はそれぞれ異なっていた。

 おそらくこれもアルメラルダとマリーデル。二人の星啓の魔女候補が対決する時に、相手の手の内を知りすぎていないように……という配慮の一つだろう。

 もっと別に配慮すべきところはある気もするが。




 アルメラルダとアラタの決闘はシンプルに魔法を駆使した戦闘。

 マリーデルフォートとファレリアの決闘は術者自身は戦わず、自分の魔力で作り出した化身に魔法を付与して戦うものである。


 前者は魔法だけでなく術者自身の身体能力も問われるが、そこが足りないならば魔法で補助効果を得ることも可能。反射神経他、総合的な戦闘能力が求められる前衛~中衛向きの様式。

 後者は俯瞰的に戦況を見ることが出来る分、その場に適した魔法付与を選択する決断力と知識が求められる中衛~後衛向きの様式だ。


 ファレリアとアラタいわく、それぞれ彼らの世界で有名だった「格闘ゲーム」と「魔物育成ゲームと絵札ゲームを合体させた」みたいなやつらしいが、フォートにはわからない例えだ。


 ……時々だが、互いに共有できる知識がある二人を羨ましく感じる。


 転生者などという特殊な立場相手ではどうしようもない事だし、我ながら仲間外れを嫌がる子供のようだなと思う。

 だからその分、二人がこぼした異世界の言葉を早く覚えてしまうのかもしれないなとも。


(今はそんなこと考えてる場合じゃないか。集中しないと)


 フォートは首を振り、雑念を頭から追い出した。





 ちなみにこの決闘だが、両方とも対戦者が直接ダメージを受けることは無い。

 実践場の周りでサポートを行っている教員たちが「対戦者の体を覆う結界」と「ダメージの視覚化」の魔法を使っているからだ。


 「結界」は対決者が受けるはずだったダメージ全てを防ぎ、「視覚化」で受けたそれを数値として叩き出す。そのダメージ数値で、あらかじめ決められている相手の数値を削り切った方が勝ちとなるのだ。

 数値は特殊な魔法のかかった水槽の水で表され、先に干上がった方が負け。


 このシステムはファレリアもアラタも今回初めて知ったらしい。「現実になるとHPゲージの判定こうなるんだ。へー」という感想をこぼしていた。

 それくらいにこの"決闘"が行われることは少ないし、準備のために結構な時間と人員を裂くので受理されること自体もまた、珍しいとのこと。

 同時開催など学園始まって以来だと、フォートは先ほど自クラス担当教員から聞いた。






 そんなことを考えているうちに、いよいよ決闘時刻となった。

 開始を告げる合図として、魔法の花火が空を彩る。七色の極彩色や響く歓声はまるで祭りだ。

 それほどに珍しいのかと少々呆れるが、決闘者の気持ちを盛り上げる目的もあるのかもしれない。


 そしてこの四名の中で最もそういった演出に乗り易く、誰よりも先に動いたのはアルメラルダその人だ。

 しかしその行動は相手への攻撃でなく……。


フィアリ! アクトロ! シフラ! グラド!」


 極限まで圧縮された魔法言語を用いた詠唱と共にドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ! と四つの光がアルメラルダに宿る。魔法を自身へと向け用いたのだ。

 その行動に観客席がざわつく。


「四属性同時に自分への付与魔法を!? しかもあんなに短縮した詠唱で!」



 驚愕の声に胸を張るのはいつもアルメラルダとファレリアについて回る取り巻き女子たち。


「これでアルメラルダ様の攻撃力、防御力、すばやさ、魔法詠唱速度! その他もろもろ全ての能力が向上いたしましたわ~!」

「ですわですわ! すごいですわ~!」

「流石です、アルメラルダ様」


 三人とも渾身のドヤ顔である。

 慕う相手が褒められるのは、どうあっても嬉しい事なのだ。


「相手は魔法騎士だからな。素の身体能力がまず違う。最初に自らの能力を上げるのは確かに有効だが……まさか、初手でここまで……」

「異なる属性を同時に宿し融和させるとは、光と闇の魔法力も高いと見える。さすがとしか言いようがないな……」


 などなど。

 感嘆するギャラリーが口々にアルメラルダを褒めたたえる。

 だが相手である魔法騎士……アラタは一切動じていなかった。

 試合前の青い顔など今は無く、泰然と相手を観察している。


 アラタは深く呼吸し、その鍛え抜かれた筋肉をしなやかに動かす。それが彼の初動。

 腰に佩いた風変わりな剣……刀の柄に手を添え、そのままぴたりと動きを止める。

 そこにわずかばかりの揺らぎやほころびも無く、素人目にも「隙の無さ」が窺えた。



 まさに「動」と「静」の対比。



 アルメラルダ・ミシア・エレクトリアと、アラタ・クランケリッツの対峙は、直接ぶつかる前から周囲の期待を高めることとなった。











 その真横のフィールドでは注目を集める隣の様子に気をとられつつ、フォートとファレリアもまた決闘の準備を進めていた。


 こちらはまず戦うための"化身"を魔力で生み出さねばならない。

 化身生成の魔法は特殊である。そのために貸し出された補助器具たる杖を構え、互いに魔力を流した。

 するとそこから魔力の本流が迸り、光の運河のごときそれは渦巻くようにして二人の前にそれぞれ収束。


 現れたのは紫色の光で構築された犬と、オレンジの光で構築された猫。

 犬がファレリアの化身で、猫がマリーデルフォートの化身である。


「お隣、すごいですね! 私も真似しちゃおうかな」


 そう軽やかに笑ったマリーデルフォートは手に四枚のカードを取り出した。




 こちらの決闘形式だが、なんと事前の準備が可能となっている。


 準備の内容は化身へと付与する魔法を、あらかじめ十二枚を上限としたカードに込めておけるというもの。

 しかしまず物に魔法を付与すること自体が難しい。そのためカードの用意は事前試合と言っても良いだろう。

 これは他者に付与を頼んでも良いので、コネクション力も試される。


 ちなみにフォートだが全て自作した。

 好感度が高い攻略対象がカードをくれたしゲームではそれこそがこの決闘における攻略法なのだが、自分で付与した物の方が強いからと彼はしれっとカードのデッキ構成を行った。無慈悲である。


「初手で四枚も使うのか!?」

「アルメラルダ様に合わせたのかしら……。今相対しているのはファレリア様だというのに、挑戦的ね」

「短期決戦を仕掛けるつもりか……! 彼女、なかなか大胆だ。面白い」


 マリーデルフォートの動きに再びギャラリーがざわつく。


 というのもこの形式。詠唱破棄、もしくは短縮の技術が無くとも速攻で魔法効果を得られるのだが、それゆえに付与可能な魔法は決闘中……カードのみに限られる。

 つまり手札が尽きたら化身の能力のみでの戦闘となり、かなりのハンデを負うのだ。


 しかしフォートはためらわない。


 強力な一転特化の貫通力。圧縮された四枚重ねの風の魔力を化身たる猫に纏わせる。

 そのまま下した命令は「突進」。

 渦巻く暴風を纏った猫が、ファレリアめがけて真っすぐ突き進んだ。


(さあファレリア。どう出る!?)


 対するファレリアは……。










トラップ発動」


「何!?」









 思わず素の声が出た。


 そんなフォートの目の前で、高火力の攻撃を乗せたばかりの化身から魔力が霧散した。


「『相手が二つ以上の魔法効果を化身に積んだ場合に限り、その効果を無効にする』罠を、私は化身を出した直後に発動させていたのです!」


 高らかなる宣言。


「いつのまに……!」

「ふふっ。ねえ、マリーデルちゃん。化身を出す時の光って、とってもきれいですよね?」

「…………! なるほどね。あれに紛れさせてカードを飛ばしていたわけだ? ルール上、化身を出した後であればどのタイミングで付与の魔法を使ってもいい事になっているからね」


 つまりフォートの必殺速攻は、たった一枚のカードに防がれたのだ。

 だが効果を発揮するための「条件付与」をした上でのそれは、ある意味博打。フォートが普通に攻撃を仕掛けていれば無駄札を打っていたのはファレリアの方である。

 だがそうはならなかった。


 ……読まれたのだ。手の内を。

 

「なんだ、やるじゃん。あんなにビビってたのに」

「あの……素、素!」

「すごいですね、ファレリア先輩!」


 完全に地で話してしまっていた事を全力の笑顔で誤魔化しつつ、フォートはファレリアを見た。

 相変わらずの無表情に近い顔であったが、フォートがファレリアの表情を読み取るのは容易。「してやったり」という感情が伝わってくる。


 どうやらこの女。フォートが八百長に協力してくれないため、自力でいい所を見せるしかないと開き直ったようだ。

 しかしその様子からはそれなりに楽しんでいる雰囲気もにじみ出ており、フォートの口角も自然とあがる。



 現在、フォートの残り手札は八枚。

 ファレリアの残り手札は十一枚。



 ――――戦いは、まだ始まったばかりだ。













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