思いがけないduel(2)~こんなフラグが立つなんて



「ファレリア。貴女にも決闘をしてもらいます」

「はい?」

「語尾をあげるのではないわ。はい! と答えなさい」

「そんなすぐ承諾できる内容じゃ無いんですけど!?」


 アラタさんにふぁいと~なんてエールを送りつつアルメラルダ様の元へ戻ったら、開口一番に訳わからないことを言われた。は?

 決闘するのはアルメラルダ様とアラタさんですよね。私関係なくないですか。


「相手はマリーデル・アリスティ。わたくしが代理人として申し込み、つい先ほど学園長に受理されました。今頃告知もされているでしょう」

「何してくれてんですか!?」


 おいおいおいおいおい。どういうことですか。


 アルメラルダ様相手じゃらちが明かないと説明を求めるべく他の取り巻き連中を見たが、こちらはこちらで「自ら面倒な申し込みの作業を代行するだなんて、なんとお心の広い!」だの「お互いがお互いのために戦う。なんて美しい友情かしら」だの「私達も決闘の根回しを手伝ったかいがありましたね。感無量です」だの。


 こちらの混乱を加速させることしか言ってなかったので、頭痛を覚えながらもアルメラルダ様に向き直った。


「あ、あの。説明を……」

「まったく、相変わらず貴女は愚鈍なのだから」


 アルメラルダ様はアンニュイにため息をつく。いや、そんな「やれやれ」みたいにされても。やれやれはこっちの感情ですよ。


「ファレリア。わたくしがある殿方相手に決闘を申し込んだことくらいは知っているわね?」

「存じております。もう学校中の話題ですから」

「結構。その殿方の名は?」

「あ、アラタ・クランケリッツ氏です」

「そう。最近貴女が熱心に通っている、アラタ・クランケリッツ。第二王子の護衛を務める優秀な魔法騎士ですわね。貴女がわたくしを差し置いて優先し会いに行くほどですから、とても素晴らしい方なのでしょう。ええ。わたくしを置いていくほどですものねぇ。ほほほ」


 すっげーチクチクと言葉に棘があるんですが。


「はい……」

「その彼。貴女が選んだ殿方を、わたくしが見極めてさしあげましてよ」


 むふーっと胸を張り渾身のドヤ顔と共に放たれたその言葉。

 私は"先ほど"フォートくんに言われた言葉が超特急で脳内を周回山手線するのを感じつつ、とりあえずいったんそれを横に置いて深呼吸した。

 ともかく考え直させるためにも、こちらが冷静さを欠いてはいけない。

 私は自分の決闘をうやむやにするためにも、まずアラタさんとアルメラルダ様の決闘をどうにかした方が良さそうだと口を開いた。


「あの、アルメラルダ様? ならば何故その方法が決闘なのです? 相手は学生でなく本職の魔法騎士ですよ。戦いのプロです。しかも大事な御身であるあなた様に万が一にも怪我など負わせられるはず無いのですし、当然手加減して、かつ負けてくれるはず。真の実力を見極めるなど出来ないと思いますが。というか選んだと言っても以前話した通り私の片思いであって、アラタ様にとっては迷惑以外の何ものでも……」

「甘いですわね。肝心なのは勝敗でなく、勝負の中に見える人間性です」


 言い募ろうとした私の言葉をさえぎってアルメラルダ様がドヤ顔継続でのたまう。

 さ、最後まで言わせて!?


「人間性ですか」

「ええ。追い詰められた中でこそ、人は真の姿を見せるものよ」

(追い詰める気なんだ……!)


 まずい。目がマジだ。


「そして貴女の決闘についてだけれど。いいこと? わたくしは貴女のためにあの小娘との決闘の前に、手札を晒して戦うのです。ならばファレリア。貴女もわたくしのために、アリスティの手の内を引き出して暴くのが当然というものではないかしら」


 そして私の決闘に繋がったぁ!!


「いやいやいや、待ってください!? 相手、アルメラルダ様と同じ星啓の魔女候補ですし一学年の首席ですが!? そもそも私のためって、頼んでな……」

「後輩相手に怖気ずくとは! 情けないとは思わないの!?」

「ピッ」


 訴えがアルメラルダ様の吠えるでキャンセルされた。怯む。


「それに、これは貴女がわたくしの特訓でどれだけ成長したかを見極めるいい機会でもあるのです。存分に戦ってらっしゃい」

「え……あ……。いや、やっぱり無理ですよ!? 話を聞いてください。私、戦いなどはからっきしで……」

「やりなさい」

「でも」

「おやりなさい」

「あの」

「や・り・な・さ・い」


 はい、を選ぶまで同じ言葉を繰り返すNPCキャラか何かかな? 

 しかしこれはそんな生易しいものなんかじゃない。


 圧。


 これは暗に、受けなければ今後の訓練がもっと厳しいものになることが示唆されている。

 せっかく天才フォートくんに女子講座のお礼にって魔法教えてもらってここ最近挽回してたのに、めちゃくちゃ唾吐く形で返さなきゃいけないとか地獄か?

 しかしアルメラルダ様の眼力を前に私が選べる選択肢など一つしかない。


「……やります」

「よろしい」


 しょぼしょぼとしおれた私が不承不承ながら頷くと、正反対にアルメラルダ様は輝かんばかりの満面の笑みを浮かべた。




 ああああ、もう! どうしてこんなことに!

 こんな形で私にまで飛び火してくるとか! というか飛び火じゃなくて火元ってもしかしなくても私だな!?

 フォートくんが言った事、マジだったわ!! 納得はしてたけど、今改めて思い知った!!





 私は崩れ落ちそうになる体を持ちこたえさせつつ……フォートくんとの会話を思い出していた。









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