思いがけないduel(1)~正直すまんかったと思っている
―――― 決闘。
魔法学園においての決闘は、魔法力をいかに使いこなせるかを一対一の"戦闘"という形で競う事を示す。
既定の手順にのっとって本人、又は代理人が学園長へ決闘に関する事項を申し込み、受理されることで学園側が「場所」「日時」「立会人」を設定。学園全体に告知がされ、誰でも観戦が可能である。
※魔法学園生徒手帳より抜粋。
+++++
「ふ~んふふふ~ん」
人気の無い旧校舎の廊下を、鼻歌を歌いつつスキップで進む。
今日の茶菓子はなんだろうな。フォートくん、攻略対象に手作りお菓子をあげるイベントの特訓でここ最近色々作ってくれるんだよね。
お菓子自体は料理上手な
味見役の私は得するばかりだ。
『野郎に食わせるための練習ってことだけ気に食わない。可愛い女の子に食べてもらった方がやる気も出るよ。ファレリア喜んで食べてくれるから、日ごろのお礼にもなるしね』
な~んて事まで言ってくれる。
いやぁ、良い子。フォートくん、超良い子! こっちも色々と教え甲斐があるってものよ。
最近アルメラルダ様が私虐めに再燃して(本人曰く魔法の訓練)心も体も休まらないから、この密会時間が癒しなのよね。
手伝おうかなと思っていたイベントのスケジュール管理はアラタさんが隙無く組んでるし、フォートくんはそれを完璧にこなす。
いや優秀。協力するよとは言ったけど、そっち方面で私なーんもやることなくてとっても気楽だわ。
アラタさんという好きな人には会えるし。
フォートくんにマリーデルちゃんのエミュレートだけでは補いきれない女子としての所作とか手入れとか対応の仕方とか、マナーもろもろ教えるのは私が楽しいし。
両親にも見せたことが無い、前世を含めた私の性格口調もろもろいっさい隠さなくていいし。
この密会、正直毎回とても楽しみにしているのだ。
昨日アルメラルダ様に「最近姿を消す時は何処に行っているのか」と問い詰められた時は肝が冷えたけど、アラタさんの名を出すことで事なきを得た。「好きな人が出来たので会いに行ってます!」とね。
アラタさんには自分に告白したことやフラれた(く……ッ!)事をアルメラルダ様に話さないよう釘を刺されていたけど、まあ問題ないでしょうと。
第二王子の護衛だし、年上だし。接点も無いから、わざわざアルメラルダ様が接触することは無いはず。
加えて私の片思いで遠くから見ているだけとも言っておいたから、初恋などに熱を上げているのかと私がアルメラルダ様に呆れられる程度ですむと思っていたのだ。
…………思っていたんだよなぁ。
一瞬スンッと我に返って鼻歌が途切れる。
けど過ぎてしまったものは仕方がないと割り切り、今日も今日とてフォートくんに女子とはなんたるか! マナーとはなんたるか! などを教えるために密会場所へ向かった。
そして指定された旧校舎の一室にたどり着いたのだが……。
「…………」
なんか部屋の真ん中にどす黒いオーラを放つ物体が蹲っている。
よくよく観察したらアラタさんだった。どうした。
「なんで俺が決闘なんだよなんで戦うことになってんだよこれはストーリー上重要なマリーデルとのイベントなわけであっていやっていうかまず俺は生徒じゃないのになんでなんでなんで……ああああああああああ!」
ブツブツ言っているアラタさんから目を逸らし、私は腕を組んでため息ついてるフォートくんをつついた。
「これ、なに? どうしましょう」
「ほっとけば? 大人なんだし、自分で何とかするでしょ」
「子供はこんな時ばかり大人だからって理屈を持ち出す! 大人だって大人扱いされたくない時はあるんだよ!!」
「わかる~」
「うわ、駄々こね始めた。じゃあ子供って言って欲しい? きつ。アラタ二十七歳だろ。幼児帰りは見苦しいぞ」
「なんでお前は俺に対してそんな当たりがキツいんだ? ここまで一緒にやってきた仲だろ? あとファレリア。貴女は「わかる~」じゃないんだよ。どうしてくれるんだ。ここまで原作通り進んできたのに!!」
「え、なんのことです?」
すっとぼけてみたが、アラタさんが何を言わんとしているのかは予想がつく。
今日は学園中がその話題で持ち切りだったからね……。
どうも昨日、アルメラルダ様がこのアラタ・クランケリッツ氏に決闘を申し込んだらしいのだ。
決闘。
流石にこれは私でも覚えているというか、ストーリー上避けては通れないイベントである。
その一つが決闘……戦闘を通して魔法操作技術を競う方法なのだ。
なんで戦闘? これ恋愛シミュレーションゲームだよな? とか前世の私も思っていたようだが、冥府降誕とかいうジャンル違いの裏ルートを知った今、それの前振りだったのだなと気づく。
人生一巡後に気付くの何なんだよ。
そしてこの決闘だけど、ゲームだとターン性の相性バトルとコマンド格闘バトル。二つのミニゲームから選べる仕様となっている。
制作陣、裏シナリオどうこうの前にゲーム本来の趣旨とは完全に別のところで遊んでるだろ。いや、ミニゲーム楽しかったのですけどね。
今思えばあの辺からすでに製作者の悪ふざけという形で「これ別のゲームじゃない?」感はあったわけだ。
ちなみに避けて通れこそしないが、主人公がこの決闘全てに勝つことはシナリオ上絶対条件ではない。
ただ勝つと攻略対象全ての好感度と、自身のステータスが一定数上昇するので、軽視も出来ないイベントではある。
しかし決闘はなにも星啓の魔女候補にのみ適応される物ではない。
申し込む過程や勝負後に発生した家同士や人間関係のあれやこれやを気にしなければという前提条件はあるものの、学園内であれば誰が誰に申し込んでもいいものだ。生徒手帳にもそう書いてある。
だからアラタさんが気にしているであろう「マリーデル用のイベントを自分が奪ってしまった」みたいな心配はしなくてもいいわけだ。
二人の対決は別枠で行われるんだろうし、気にしなくていいと思うんだけどなぁ。
「気にするに決まってるだろ!!」
「あら?」
う~んと唸りながら考え込んでいたら、アラタさんがすごい顔でこちらを見ていた。
ん?
「ファレリア。口に出てた」
「マジですか。おっといけない」
「君のそういうとこ、素なのか煽りなのかっていつも気になってる」
「素ですねぇ。天然お茶目なファレリアちゃんなので」
「馬鹿って言葉を可愛く装飾するの上手いよね」
「フォートくん、最近私にも遠慮なくないですか? というか気にすることでも無いんですけど、フォートくんさ。君、初対面時の「ファレリア先輩」とか敬語とかどこ行ってしまったのです? 今完全にため口と呼び捨てだよね? いや、私は大人だし気にしないですけどね? ええ。気にしてませんし、あの時はマリーデルちゃんのエミュレート中だったわけで、今の君が素で接してくれてるのも分かるから嬉しいんですよ? でも今あまりにも自然に馬鹿って言いませんでしたか。こう、もうちょっとこうさ。年上は敬ってもいいと思うんですよね。ほら、ファレリア先輩って言ってごらん? ねえ」
「ものすごく気にしてるし早口じゃないですかファレリア先輩。気にしてないけどって今三回言いましたよ。三回。こういうの先輩たちの前世の言葉で草生えるって言うんでしたっけ? 草」
「とってつけたような敬語が皮肉味増してて効果抜群だよおい。私のヒットポイントだいぶ削られたよ。あとアラタさん、あなた何を変な言葉まで教えてるんですか」
「フォート、頭いいんだよ……。うっかり話すと全部覚えられるからな。ファレリア、貴女も現在進行形で余計な語彙を与えてる。気づけ」
青い顔でげんなりしているアラタさん。
そ、そうか。
フォートくん、さすが姉の完コピして学園生活送っている男なだけある。話す時は気をつけよう。どうやら私、さっきは考えていた事まるっと喋っていたらしいしな。
同じ転生者がそばに居るからか、フォートくんが絶妙に突っ込んでくれて気持ちいいからか。二人の前だとわりとよくある。
私が一人反省会を行っていると、目の前から圧。アラタさんだ。
やだ、そんなに熱く見つめられたらファレリアってばドキドキしちゃ~う。
……なんてふざけられる雰囲気ではないな。完全にお怒りだ。
「ともかくだ! 今回の件!! 本当にどうしてくれるんだ!? まず俺はストーリー上、アルメラルダたんに直接関わるつもりは無かったんだ!」
「アルメラルダたん?」
「ごめん忘れて」
顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまった。どうやら黒歴史の一端を垣間見てしまったようだな……。
でもそんなものが飛び出るくらい切羽詰まっている、ということかしら。かわいそう。
でも、そうか。考えてみれば当たり前である。
まずゲームシナリオ云々抜きにしてもアルメラルダ様のような高位の貴族から決闘を挑まれた場合、断ればそれ自体が侮辱となり断った者の立場が悪くなる。しかしいざ戦うとなれば、それがいくら手加減したものであっても「戦闘の意志を相手に向けた」ことがすでに罪だと揶揄されるのだ。
普通に考えただけでも、たいへんにめんどくせぇ事態なわけだ。同情する。
彼自身が言っているように、直接関わるつもりが無かったのなら、余計に歓迎できない事態だろう。同情する。大事な事なので二回考えておいた。
……それにしても、何故アルメラルダ様は決闘を?
今後マリーデルとの初決闘も控えているわけだから、その前に己の手札を公衆の面前で晒すのは悪手のはず。
それを推してまでアラタさんに決闘を挑む意味ってなんだろう。
そう疑問に感じつつも、この時の私はそれを他人事のように考えていた。
だがその数時間後。
そんな楽観は他ならぬアルメラルダ様によって、ちゃぶ台返しされる破目となる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます