思いがけないduel(終)~悪役令嬢の本心を知った日

 遡ること、アラタさんが嘆きの置物と化していた数時間前。



「アルメラルダがなんでアラタに決闘を申し込んだか? ……。君のためだろ。どう考えても」

「私の?」


 アルメラルダ様が何故決闘などと言い始めたのか。試しに観察眼に優れたフォートくんに聞いてみた。

 彼、実はマリーデルとしての活動の他に模倣演技エミュレートを活用し別人に化けた上で、学園内で情報収集なども行っている。ゆえに観察眼が非常に優れているのだ。

 その彼からの意見なので、そんなバナナと言うわけにもいかず耳を傾ける。


「ファレリア、アラタの事が好きだって言ったんだろ。加えてアルメラルダは以前自分が認めた者でなければ交際は認めないと発言していた。簡単じゃないか。僕でなくたって分かる」

「えと……んん? アラタさんが私に相応しい相手か、見極めようとしているってこと?」

「そう。それ」

「いや、でもさ。それにしては取るリスクが大きいっていうか」


 というか私、今さらだけど世間話のノリで結構フォートくんに色々話してるな。


 けしてぼっちというわけではないが……けして! ぼっちというわけではないが! アルメラルダ様を取り巻いてると普通に話す友達出来にくいのよね。

 他の取り巻き連中は何故だか私の事を遠巻きにして自分たちだけできゃっきゃしてるし。おい混ぜろよ私もよ。同じ取り巻き仲間だろうが。

 ……そんな感じだから、ついフォートくんには色々話してしまうのだ。アラタさんとも話すけど、その時は自分のアピールに会話の比率割いてるからな。

 多分この学園内で一番素の私を知っているのは彼ではなかろうか。


「……ファレリア。少し言わせてもらうけど」

「あ、はい」


 密かに世間話の一つにも乗ってくれない取り巻きーズに恨み言を考えていると、なにやらフォートくんが呆れたような顔で私を見ている。

 え、なんスか。自分、なんかしちゃいましたか。


「まず君さ。アルメラルダに愛されてる自覚ってあるの?」

「はい~?」


 語尾の音程が疑問含みすぎて九十度直角くらいの勢いで上がった。

 なになになに。フォートくんから何やらすごい単語飛び出してきたんだけど。愛?

 え、君。出会いの頃から始まって、日ごろ様々な虐待を受けてる私を前になにを言っているのかしら? ん?

 あまりにも荒唐無稽な話に噴き出してしまった。


「まっさか~~~~」


 けどフォートくんは「マジで?」みたいな顔で見てくる。


「…………。方法はどうかと思うけど、あれだけ分かり易いのも珍しいだろうに。何度か見てればわかるよ」

「え……」


 至極真面目な顔でそう続けられてしまい、どうやらフォートくんが本気で言っているらしいことに気付く。

 ちなみにアラタさんはまた蹲って「どうしようどうしよう」とブツブツ頭を抱えている。放っておこう。


 フォートくんは少し唸ってから、なにかを整理するようにこめかみをトントン指で叩いてから話し始める。


「あまり認めたくないんだけど、多分……彼女が君に対して行う蛮行は好意から来ているものだよ」

「好意って。だからそんなまさか」

「その、まさか。だって同じ暴力でも僕に仕掛けてくる時の顔と明らかに違うもの。ファレリアに接する時のアルメラルダ……あれは仔犬でも可愛がってる表情だね」

「い、いやいやいや……?」

「他の例をあげるなら……。子供って好きな子をわざといじめたりするだろ? そういう類でもあるのかなって。というかさ。あれだけされてファレリア自身がアルメラルダを憎んでいないのが良い証拠だ。それが出来るのは敵意を向けられていないから。……ファレリア、敵意や悪意を甘んじて受け入れて相手を許せる聖人じゃないだろ」

「あ、はい」


 少し思うところはあるものの、悔しいが納得してしまった。

 というか私、そんなところまでこの子に読み取られてるの!?



 フォートくんの言う通り、私は本来あからさまな敵意を向けられて大人しくしているような人間ではない。

 随分前になるが、私の"眼"に変な言いがかりつけてきた予言師を名乗る妙な奴がいた。そのせいで危うくネグレクトか一家離散するかって事態になったので、その時はめちゃくちゃ攻撃したわよ口で。……あれ、このことも話したんだっけ?

 結構ぺらぺら喋ってるから何話したかとか忘れちゃってるな……。


 

 しかし、そうか。これまで客観的に見た私たちに対する感想を、こういった形で伝えてくれる相手は居なかったから目から鱗ね。

 確かに私がいささか過ぎたアルメラルダ様からの虐めを、「諦め」や「打算」だけで受け入れていた状態は変だった。

 相手がいくら子供でも、私だって子供。中身前世の記憶を加味したって、途中で爆発しないわけがない。

 なのに私は七年の青春を取り巻きになるために使い、現在こうしてアルメラルダ様の側にいるわけで。





「……ははぁ~。なるほどなぁ……」


 そうか。

 "好き"を向けられていたから、私も我慢できていたのか。

 というか私もアルメラルダ様の事を好きなのだろうな。

 当然、恋愛という意味ではないが。


 人間って基本的に自分の事好きな人間が好きだからなぁ……。





 顎をさすりながらうんうんとまぬけな顔で頷いている私に、フォートくんが苦笑する。


「納得してくれたなら、それがアルメラルダが何故アラタに決闘を申し込んだのかという事に対する回答だ。大好きな友達の好きな相手が変な男であってほしくない。つまり、そういうことだろ?」

「ええ? アルメラルダ様、私の事好きすぎじゃない?」

「だから、そうなんだろ。その方法がとんでもなく不器用だけど。……姉さん相手に僕に対するのと同じ仕打ちをしてたかと思うと好きになれないけど、そういうところを見てる分には面白い人だよね、彼女」


 アルメラルダ様、フォートくんから「おもしれー女」認識を向けられているじゃん。


 けど、え。そうなの? つまりそういう嗜好? 愛情を痛みでしか表現できないってこと?

 いやどこで歪んで身に着けたのよその性癖。




 多少の疑問は残ったものの、私は七年目にしてようやくアルメラルダ様からの友愛に気付き、それが自分の中にあることも知った。


 だからアルメラルダ様がアラタさんへ決闘を申し込んだ理由には納得していたのよ。

 けどまさか私まで決闘することになるとは、流石に予想外だったわ。



 

 とりあえず私はいかに「精一杯頑張って負けました」感を演出するか、フォートくんに相談するためのプランを考え始めた。


 ……やだなぁ。早く終わるといいな、この珍妙なイベント。




 



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