レオポルト2の初陣
「敵の部隊が前線に接近しているらしい。プラウダは直ちに偵察に向かい状況を報告。レオポルト2の迎撃を支援してくれ」
「了解しました」
カチューシャは直ちに、T34に乗り込み、報告のあった地点へプラウダを率いて急行した。
目的地に到着すると、カチューシャはいつものようにT34から降りて周囲を警戒しつつ偵察に向かう。
「見えた。T90にT72がそれぞれ二両ずつ」
この辺りに味方のT72とT90がいない事は確認済み。
T72とT90がいたら敵だ。
「そのために私たちを呼んだんでしょうけど」
T34とIS3は流石にウクライナ正規軍もロシア軍も(さすがに今のところ)使っていないので、間違えられないからだ。
勿論、練度が高い、戦果を挙げていることも考慮されているだろうが、敵味方が識別しやすい、誤射されにくいことも考えて投入されている、とカチューシャは考えている。
『どうするのカチューシャ?』
無線でノンナが尋ねてくる。
「私たちの役目は偵察よ。十分目的を果たしたわ。レオポルト2が来るまで距離を取って監視する」
カチューシャはそういうとT34へ駆け戻った。
そしてハッチから身体を入れたとき、敵のT72がカチューシャ達に主砲を向けてきた。
「見つかった!」
カチューシャが悟ったとき、敵の主砲が光った。
「回避!」
カチューシャが言う前に操縦手が後退を開始した。
発砲炎が見えたら回避機動を行うよう日頃訓練していた賜物だ。
砲弾は、カチューシャ達がいた場所に着弾し、爆煙を上げるが、素早く退避したT34は無傷だった。
それだけでなく、着弾の瞬間に発砲。敵を牽制すると共に、誘導する。
「皆、上手くやってくれてありがとう。このままレオポルト2の所へ向かうわ」
『カチューシャ大丈夫?』
「大丈夫、支援射撃をお願い」
『こちらイェーガー、いま後方3000の地点で陣地構築中。あと五分で支援可能だ。引き込んでくれれば仕留める』
「待って、イェーガー。今回はレオポルト2の初陣よ。レオポルト2に仕留めさせる」
『俺たちの出番はなしか』
「レオポルト2が劣勢なようなら支援する。それまでは撃たないように。バラライカは、ヴィソトニキをイェーガーの周辺に展開して敵の歩兵を警戒して」
『了解した』
『分かったわ』
指示を出している間にもカチューシャのT34は牽制射撃と後退する。
ロシア軍の戦車は、追撃するようにこちらに向かってくる。
「敵の発砲に合わせて回避行動を繰り返して」
クルーに戦車の行動を任せつつ、カチューシャは周囲の状況、地形や各列そうな場所をタブレットで、記入しつつ味方に送信する。
これでレオポルト2は動きやすくなるはずだ。
あとは、やってくるのを待つだけ。
「即応弾薬尽きました!」
装填手が大声で答える。
本来ならもっと積めるが、足下の弾薬箱、弾薬の上に留まることになる。精神衛生上良くないので積み込んでいない。
また装填手の疲労を考えて、バスケットを設けたため、床下の弾薬庫は使えない。
そのため砲塔内の弾薬ラックに積み込める分しか載せていない。
あっという間に尽きてしまうのも当然だ。
そもそも、戦車と長時間戦闘するなど、カチューシャは考えていない。
第二次大戦の戦車で現代の戦車と戦うなど自殺行為だ。
この前のT72の撃破など一両だけという幸運があったからだ。何度も自分とクルーの命を賭け金にするなど馬鹿げている。
だから逃げ回っているのだが、反撃出来ないのは精神的に辛い。
余裕がなくなり、回避運動も単調になっている。
「くっ」
近くに着弾した。
砲撃音と地面からの衝撃、砲塔を揺らす振動がカチューシャ達の精神を削っていく。
恐怖でパニックになり逃げ出す兵士さえいる。
幸いカチューシャ達は幾度も実戦を経ているため場慣れしており、パニックにはなっていない。
だが、このままではやられる。
その時、敵のT72が一筋の光りに貫かれ吹き飛んだ。
「ようやく、お出ましね」
光りがやって来た方向を向くと、主砲から煙を吐くレオポルト2が現れた。
もう一台が、発砲し新たにT90が貫かれ撃破される。
残ったロシア軍の戦車が砲塔を旋回させ発砲するが、照準装置の精度が悪いのか、外した。
再装填の終えたレオポルト2が再び火を噴くと、新たにT72が吹き飛んだ。
残ったT90は、勝負にならないと悟り、旋回して逃げ出した。
当然レオポルト2は追撃をかける。
発砲するが、T90の回避運動が上手く、命中弾を与えられなかった。
そのためズルズルとロシア軍の陣地に向かう。
「レオポルト2へ。我々プラウダが偵察した範囲を逸脱しつつある。後退せよ」
車外の予備弾薬を砲塔内に収めたカチューシャが、追いかけつつレオポルト2に警告する。
自分たちが、見回った範囲を超えて走るのは敵の反撃を受ける可能性がある。
撃破されて仕舞ったら、貴重な戦車がおじゃんだ。
『大丈夫だ。範囲内に脅威は確認出来ず。このまま敵戦車を仕留める』
しかしレオポルト2は三台の戦車を撃破している。
それに、この辺りは、1.5m以上の遮蔽物は殆ど無く全高が2m以上ある現代戦車ではすぐに見つけられる。
歩兵の対戦車ミサイルも射程が短すぎるので今のところ脅威にならない。
確かに安全だと言えた。
しかし、カチューシャには嫌な予感がした。
「うん?」
周囲を警戒していると、偵察で見つけた窪み、レオポルト2が向かう方向で何かが動いた。
戦車は隠れられないし、歩兵も短時間で移動出来るような距離ではない。
車両も泥濘みやすい大地のためタイヤ走行の車が入ってきたとは思えない。
だから安全だと思っていた。
しかし、その思いは裏切られた。
「へ?」
突然窪みから何かが空に伸びたと思うとキリンか鶴のように首をレオポルト2へ向ける筒を伸ばす。
そして筒の後方から特大のロケット発射炎を出すと、前方から恐ろしい加速で飛び出したロケット弾がレオポルト2へ伸びて行き、易々とレオポルト2の正面装甲を貫通した。
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