レオポルト2配備

「これがレオポルトか」


 停車したレオポルト2にカチューシャは駆け寄った。

 西側から援助された戦車の第1弾だ

 冷戦時代後期に開発された大分古くなった戦車だ。

 だが度重なる アップグレードにより改良され未だに 世界最強の戦車の一角を占めている。


「これがプラウダに配備されたらな」


 自然とカチューシャから溜息が出る。

 残念なことに、このレオポルト2は、カチューシャのもとに配備されたのではない。

 レオポルト2は全てウクライナ正規軍に配備されている。

 カチューシャのような義勇軍に配備されるには数が足りない。


「いつも通り、正規軍の支援任務だとウンザリするわね」


 横にいたノンナが溜息を吐きながら言う。

 なぜカチューシャがレオポルト2の、そばにいるかというと、ノンナの言うとおりこのレオポルト2の支援。

 レオポルト2に先立ち地形を偵察したり、攻撃してロシア軍の動きを見る、という役割を担わされているのだ。


「損な役回りね」


 ノンナ達は不満顔だ。

 いつものように正規軍の代わりにロシア軍の矢面に立つのだ。


「でもせっかくのレオポルト2には活躍して貰わないと」


 カチューシャは明るく言う。

 ウクライナの反攻を成功させるためにもレオパルトには、活躍してもらわなければならない。

 そのためには、カチューシャ達の協力、ここら辺の地域を把握している。歴戦の部隊が必要だった。


「早速、出撃して周辺のロシア軍を撃破する。本格的反攻前の実戦試験だ。思いっきりやってくれ。プラウダの諸君には大いに期待している」


「了解しました」


 正規軍側の指揮官の声にカチューシャ達は元気よく答えた。

 その時、警報が鳴り、敵の来襲を伝えた。




「ここにレオパルトが配備されてるんですか」


 ウクライナの広大な平原を見てミスキーは呟いた。

 ロシアの平原を見慣れているが、ウクライナの大地は更に黒く、空気は暖かい。

 住み心地よい土地だ。

 戦争が無ければ済みたいくらいだ。


「見通しが良いからよく撮影する事が出来るね」


 モーリェは嬉しそうに言う。

 自分の新兵器の活躍が見ることが出来るのは良い。

 ドローンで撮影する事も出来るが、遮蔽物がない方がより良く見える。


「撮影にも有利ですし戦車が活躍するには理想的です」


 戦車が活躍するには自慢の主砲の能力を十全に生かせる2000メートルを超える見通しの良い場所、主砲の有効射程以上の平坦地が良いとされる。

 敵を見つけてアウトレンジから砲弾を叩き込むことが出来るし、天敵である対戦車ミサイルで待ち伏せする歩兵を見つけ易く、回避したり、主砲で撃破出来るからだ。

 つまり、戦車を持つウクライナ側が有利と言うことだ。

 国防企業に勤めているだけあってこの程度の戦術的な知識をミスキーは持っている。


「大丈夫なんだろうな」


 ロシア軍の指揮官がはしゃぐモーリェに尋ねる。

 最前線に立つだけにレオポルト2への危機感をより強く持っている。

 特に戦争で多くの戦車を失い、対抗手段、いや武器が少なくなっている状況では、余計に強く感じてしまう。


「安心してください」


 モーリェはいつものヘラヘラした笑みを浮かべて断言した。


「かならず我々の新兵器イリヤが敵レオポルト2を打ち破ってご覧に入れます」


 その笑みを見た指揮官達は胡散臭く感じた。

 だが他に頼れる兵器もないのだ。


「ウクライナ軍が接近してきます。後方にレオポルト2を確認」

「来たか、多分、実戦試験を行うために出てきたんだな」


 ウクライナ軍でレオポルト2を使うのは初めてのハズ。

 実戦使用で問題が無いか確認するために出すのは十分いあり得る。


「偵察部隊をやり過ごして、奇襲を掛ければ」

「お待ちください」


 モーリェの言葉を遮って、一人の戦車兵、戦車部隊の隊長が出てくる。


「得体の知れないレオポルト2より我々、戦車部隊にお任せを」


 戦車部隊の隊長は指揮官に詰め寄る。


「だが、戦車部隊はこれまで多くの損害があり、太刀打ちするのは厳しいのでは」

「ですが戦車を相手にするには戦車以外にいません」


 戦車部隊の

 これまでジャベリンをはじめとする対戦車兵器によってロシア戦車は一方的に攻撃された、というイメージがついて回っている。

 汚名返上とばかりにレオポルト2との対決を戦車兵達は望んでいた。


「ならば一つ、戦ってみては?」


 横にいたモーリェが提案する。


「我々としても、準備に時間が掛かるのでそれまで戦車に支えて頂けると助かります」

「良いだろう」

「ありがとうございます。新兵器が投入される前に全て片付けてごらんに入れます」


 戦車部隊はT90とT72に乗り込み、前進していった。


「良いんですか? 課長」


 ミスキーは小声で尋ねた。


「我々のデモンストレーションに支障が」


「構わないよ。連中がレオポルト2を引き寄せてくれるだろうし、彼らが撃破された後、僕たちが撃滅すれば、僕たちの活躍が一際目立つ」


「囮を兼任する引き立て役ですか」


「そういうことだよ。なに、運良く撃破してくれても欧米が送ったレオポルト2はまだまだいる。獲物は十分いるんだ。焦ることはないよ。とりあえず、僕たちの準備を進めたあと、彼らの戦いを拝見させて貰おう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る