第21話 追い出されるって何!?

 アルラとウルズさんをのぞいた皆で晩ごはんをいただく。

 朝食べたスープのリメイクかな? ピリッとした味がして、赤い色がついていた。唐辛子とトマトみたいだけど、何が入ってるのかな。


「薬草探しが必要ないなら、俺明日から狩りに行ってくる」

「なら、カナ兄がいない間ハルカちゃんはボクとお留守番する?」

「そうね。ミラの体のためにも何かとってこなきゃ。久しぶりにわたしも行こうかしら」


 スクさんは笑顔を浮かべながら獲物を狙う目をした。

 狙われた獲物が可哀想。だけど、生きていくのには食べないといけない。お医者さんだって、何も食べないで生きることはできないのだから。

 しっかりといただきますとごちそうさまをして食べられる命に感謝する。


「父ちゃんまだかな」


 食べ終わってもまだ帰ってこないウルズさん。外の雨もあがり、そろそろ戻ってこないのかなと玄関を眺める。

 私の事をボカしながら話すのは大変なのかもしれない。

 お皿を片付け始め、洗い場に持っていこうとした時、ウルズさんが帰ってきた。

 体が濡れてるのを気にしてか、一度外に戻り少ししてまた入ってきた。

 水を飛ばしてきたのかな。


「おかえりなさい。あなた。どうだった?」

「水を飲ませてくれ。その後話す」


 全員で大急ぎでごはんの後片付けを進める。何もなくなった机にウルズさんが座る。すぐに水が入ったコップをスクさんが差し出した。

 それをあおるように一気に飲み干すと、ウルズさんは話し出した。


「病にかかってる全員の家をまわってきた。危ないのが三人。他もだいぶ進行してる」


 ゴクリと息を飲んでしまう。流行り病なのだろうか。インフルエンザなんかはよくニュースをしてたな。冬に沢山の人が罹る。


「全員を一週間以内に治せ。出来ないならこの村から出て行ってもらうとさ……」

「え、あの。出て行くって私がですか?」

「いや、ハルカちゃんじゃない。オレ達全員だ」

「え、え? どうして?」

「ハルカちゃん、さっきも言ったあれよ。村の中でミラが助かった時、他の人はどう思うか」

「え、でも。何でそれででていけってなるんですか!?」

「大きくない村だ。争い事の種は生みたくないんだろう」

「私のせいで……わたしの……」


 ぎゅっとスクさんが抱きしめてきた。その上からカナタが。その上からミラが。


「治してくれた事に感謝こそあれ、恨むなんて事はないよ。だから、落ち込まないで」

「ハルカは悪くない。俺が治してくれってお願いしたんだ」

「ハルカちゃん、ボクだって感謝してるんだ。だから自分のせいだなんて思わないで」


 優しい人達。この人達を守らなきゃ。

 そう、答えは出てるじゃない。


「一週間ですね。治します。全員治してみせます」

「――なっ!?」


 だって私、もふもふのお医者さんなんだから。


 ◇◇◇


 まずはあるものでなんとかしよう。


「ライム、お願い」

『わかったラム』


 ライムの中に入り解毒薬が何個出来るのか確認。


『ハイ、ハルカ。これでしたら二十個の解毒薬が出来ます』


 二十個。同じ症状の子が全部で三十人。十人分足りない。


「もふちゃん、回復薬は?」

『ハイ、ハルカ。こちらにある薬草すべて使って良いのなら解毒薬に使う分を差し引いても三百六十はつくれるかと』

「わー、そんなに? すごいいっぱいライムとソラは作ったんだね」


 解毒薬が足りない人はミラみたいに回復薬で応急処置。解毒草を確保次第、解毒薬の作成をしなきゃ。

 解毒草、アルラが持ってるってオークは言ってたけど。

 まずは十人分の解毒薬と回復薬を作る。

 途中、くらっと目眩がした。


『ハルカ、調合スキルも魔力を使います。連続使用すると残存魔力が足りなくなり気絶します。その前に』

「あー、そっか。コーヒー牛乳魔力回復薬コーヒー牛乳っと」


 コーヒー牛乳味の魔力回復薬を取り出す。もうちょっと細い形の瓶にいれたくなるそれをごくごくと飲んだ。半分くらいでお腹じゃないけど満たされた感覚があった。


「もふちゃん、いまのでどれくらい回復するのかな」

『ハイ、ハルカ。ステータス確認でも確認出来ますが現在魔力は満タンです』

「よし、次だね!」


 勢いで解毒薬を作りきり、回復薬も追加十個。

 残りのコーヒー牛乳魔力回復薬を飲んで、私はライムの外に出た。

 ウルズさんに特に危なそうな三人分の回復薬と解毒薬を渡す。


「こっちが解毒薬です。体力面でも心配だったらこっちの回復薬を。どちらもここにかけて下さい」


 スライムが調合する。最初はウルズさんも信じられなかったようだけど、実際中から持ってきたのを見て信じてくれた。(まあ、本当は私が調合したんだけれど)

 調合の事はカナタにしか言わないって約束、破っちゃったけど、自分の親なら大丈夫だってちゃんと許可はもらった。


「よし、まずは三人のところに行こう」


 ウルズさんが出ていった。私とカナタは頷きあう。


「治るかどうか確かめに行こう」


 もし、違う病気だったら治らないかもしれない。その時のためにしっかりと私が確認しないと。

 カナタにお願いしてウルズさんの後を追ってもらう。


「こっちだ、ハルカ」

「うん」


 ヒソヒソと小声で話す。ウルズさんに聞かれたらついてきてる事がバレてしまうものね。

 カナタのお家とあまり変わらないサイズの色違いのお家。

 苦しそうな咳が聞こえてきた。私達は窓に近付き中の様子をうかがった。


「本当に、本当に治るんですか?」

「かけてみない事にはわかりません」

「ウルズさん、お願いします。この子は私達の大切な宝物なんです!!」


 たぶん咳をしてる子の両親とウルズさんが話してるところだった。

 どうやらまだ薬は使う前みたい。急いで私は視診する。

 状態はミラの時とほぼ同じだった。これならあの薬が効くはずだ。

 あとはウルズさんが薬をかければ……。

 咳が酷く前屈みの子どもに両親が駆け寄る。ウルズさんが薬の蓋を開けて背中側から薬をかけた。

 さっきまで咳が止まらなかった子がすぅっと大きな息を吸ったあとピタリととまった。その後もゆっくりと息を吸い込み、吐き出した。


「苦しく、なくなった……」


 咳のしすぎで声がガラガラだった。だからか、ウルズさんが回復薬もかけてあげている。


「お母さん、お父さん!! 苦しくない! 治った。治ったよ!」


 私はもう一度視診をした。あの子の状態から肺毒症が消えていた。ホッとして、カナタの服をちょいちょいと引っ張る。次の家に向かう為にウルズさんが出てくるかもしれない。

 カナタは風の向きを確認しながら、私を引っ張っていった。少し離れたとこのお家の陰に隠れているとウルズさんが外に出てきた。ペコリと一度家の中へと頭を下げ、次へと行くようだ。


「少ししてから行こう」

「うん」


 二人目、三人目の家も無事治療出来た事を確認した。これなら、あとの問題は材料だけだ。


「カナタ、戻ろう」

「おぅ」


 くるりと回って帰ろうとした時、カナタが何者かに背中を掴まれ持ち上げられた。


「カーナーター?」


 地獄から響く鬼の声を思わせる低い声。恐る恐る後ろを見る。それはもう恐ろしい顔したウルズさんだった。


「と、父ちゃん」

「ついてきてたのか、まったく。最初の家からいたろ……。オレがそんなに心配だったのか。これでも村一番の強さを持ってるんだ。そこらのチンケなやつらに薬を盗られるなんてヘマはしないぞ」

「あの、ウルズさん。そうじゃなくて、その……。私がカナタにお願いしたんです。ちゃんと治るか心配で……。ごめんなさい」


 ゆっくりカナタが地面に降ろされる。私がお願いしたとわかって許してもらえたのかな。


「さっき家でも言っただろう。オレ一人ならどうとでもなる。けれど、お前らが人質になったら手も足も出ない。だから、全員治療が終わるまではできるだけ家にいてくれ」

「わかった」

「はい」


 ウルズさんの腕が伸びてきて、怒られると目をつぶった。だけど、その腕は私を抱き上げるためだった。


「一度、家に戻ろう。ハルカちゃん、薬で何がいるのかスライムに聞いてくれないか? 集められるものならオレも手伝うんだが」

「あ、えっと……。はい。聞いておきます」


 カナタはどんな状況なのか知ってるから少し複雑な顔をしていた。

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