第15話 ここのお風呂って何?

 カナタの怪我はあまり酷くなかったみたいで、回復薬を少し飲ませるとすぐ目を開けた。

 また、かなり上までのジャンプが見れた。


「カナタ、目覚めた?」

「ハルカ――、そうだ! オークは!?」


 キョロキョロと回りを確認する彼に事の経緯を話す。


「ここはライムの中だよ。気がついたなら外出よっか。歩ける?」

「……そっか。また助けられたな。ごめん」

「ん、何で謝るの? ライム、カナタ起きたよー!」


 今回はすぐに外に出してもらえた。ライムの中にアルラウネの魔核は置いてきた。もし、これを無くしたりしたら約束守ってあげられなくなっちゃうから。


「さ、ミラを治しに行かないと」

「あ、あぁ。そうだった。解毒薬は出来たのか?」

「バッチリだよ! どうか効いてくれますようにだね」


 二人で急いでカナタの家に向かう。

 行く時は気にしてなかったけど、この村はけっこう大きかった。

 カナタの家は外側に位置してて、奥に何軒かの家。

 真ん中に川と繋がってる大きな池があってそれを囲むように円に広がっているみたい。

 池を挟んで反対側には大きな岩で高くなった場所があり、そこにもいくつか家があった。あそこなら村全体が見渡せそう。


「母ちゃん!!」

「おかえりなさい、カナタ。ハルカちゃん。ずいぶん長いお散歩だったわね。それに、二人ともなんだかすごく甘い……というか臭いわ。いったいどこに行ってきたの? 服は洗っておくからお風呂にいってきなさい」

「あ、やっぱり匂う? この匂いはミラにもきついよな。ハルカ、急ぎたいけど先に体洗ってしまおう」

「そ、そんなに匂うのかなぁ」


 改めて、獣人の嗅覚に驚く。

 私にはほんの少ししか感じることが出来ない匂いがわかるんだ。

 この匂いでミラが倒れてしまっては元も子もない。素直にスクさんの言う事を聞き、手早く服を脱ぐ。

 上着を渡し下着だけの姿になった。


「まだ匂う?」

「大丈夫。そっちはそのまま水で流せばいいでしょう。カナタ、お風呂の使い方教えてあげなさい」

「う、うん」


 カナタの方がもじもじしながら服を脱いでいく。はやくお風呂に入りたいのにと私はうずうずしていた。そう、昨日から今までお風呂に入っていない。

 病院でも、数日おきのお風呂だったけど歩いたりして汗をかいた状態でお風呂に入らないのってこんなにベタベタするんだと驚く。

 いっぱい動けるって嬉しいけど大変な事もあるんだ。こんなにお風呂が待ち遠しいなんて。


「カナタ、お風呂ってどうやるの? どこにあるの?」

「こっち」


 家の裏手に連れて行かれる。石をくり抜いて作られた子どもサイズのプールみたいなのがドンとあった。


「水は使う分だけ元に戻すんだ。ここがシルシ。これで水すくって体にかける」

「え、石鹸は? お湯は? シャワーは?」

「セッケン? ハルカの使った事あるお風呂はそういうのがあるのか?」

「あ、うん。……そっか、ないんだね」


 お風呂って? お水をかけ流すだけ? これ、冬だったら死んじゃうんじゃない?

 今は暖かいからできるだろうけど。

 私は覚悟をして頭から水をかぶる。お日様で温められたせいか、お水は思ったよりずっと温かかった。

 ライムとソラも近寄ってきて眺めていた。二人にも匂いがついてるかなと思って聞いてみる。


「お水かけてもいい?」


 ライムは問題ないと頭を突き出してきて、ソラはかなりおずおずと前足だけ伸ばしてきた。

 だから、ライムにはそのままパシャッと上からかけた。ソラは前足にかけたあと、私の手の平に水を当てて勢いを弱くした水を体にかけてあげることにした。

 なんだかちょっと楽しいかも。


「ハルカ、全然毛がないんだな」

「え?」

「いや、ごめん。気にしてたら」


 そう言われ、改めてカナタを見る。胸から肘までの毛皮。足も爪先から膝下まである。これに比べたら私は確かに毛が全然ないになるだろう。


「カナタ、どうなってるか、触ってみていい?」

「は? べ、別にいいけど」


 毛皮と皮膚の境目。人の皮膚と動物の皮膚が繋がってる。耳は、頭から生えてる。爪は人よりするどそう。

 尻尾は……どう見てももふもふぅ。

 あちこち触りながらじーっと頭から爪先まで見てると尻尾の触り心地を確認しようとしたあたりで突然カナタが後ろを向いた。


「も、もういいだろ」


 いえ、むしろそこを見たい及び触りたいんですけど。でも、人が嫌がるような事をしてはいけない。先生だって、本気で嫌がる子にはゆっくり諭してあげてたもの。


「うん。ありがとう」

「……耳はもうちょっとなら触っていいぞ。アルラウネが触ってた時ハルカ触りたそうにしてたろ」

「本当!?」

「あ、あぁ」


 ふわふわとした耳に触れる。後ろからだと中のふわふわが見えないけど、犬の図鑑で読んだ耳の付け根が気持ちいいという言葉が本当か実践できる。

 付け根に指を当て撫で撫でする。


「うぅぁぁぁぁぁ」

「うぇっ!? ごめん。駄目だった!?」


 撫でるとカナタは尻尾までビリビリと立てた。


「そこ、駄目だ! もう終わり!!」

「えぇぇぇぇぇ!?」


 せっかくもふもふ出来るチャンスが……。

 さっきの声を聞いて、スクさんが顔を出した。


「あら、カナタ。なんて顔してるの」


 彼女はふふふと笑いながら着替えを置いていった。

 カナタはこっちを向いてくれないからどんな顔をしてるんだろうと考えながらお風呂というか水浴びを終えて、用意してもらった服をきた。


「カナタ、それじゃあ」

「ミラを治す。だな!」


 ミラがいる部屋。スクさんもいるのかな。

 説明……、どうしよう。


「母ちゃんには俺が説明する。だから、ハルカは治す事だけ考えて欲しい」

「うん」


 カナタと一緒に家の中に入り、ミラのいる部屋に向かった。


「カナタ? ミラなら今寝てるところだけど」

「顔見るだけだから」

「そう、顔色はいいけど咳は止まってなかったからあまり長くはダメよ。出てきたらご飯にしましょう。ミラが今日は食べれそうだって言ってたからお魚を用意してるから」

「ありがとう、母ちゃん」


 ミラの部屋の入口布を持ち上げ中に進む。

 そこにはスースーと寝息をたてるミラがいた。


「ライム、お願い」

『はいこれ、ラム!』


 オレンジ色の液体が詰まった瓶を受け取る。解毒薬がどうか効きますように。


「肺の位置にかければいいよね」

『ハイ、ハルカ。肺にかければ確実に全身から毒は消えるはずです』


 もふちゃんにも確認し、瓶にした蓋を開けミラの体にかけた。


「わ、何!?」


 ミラが驚いて目を覚ます。いきなり水をかけられたら驚いてしまうよね。

 濡れた場所を手でペタペタ確認しながらミラはこちらに顔を向ける。


「カナ兄……、えっと……」


 そう言えば、まだ名前を言ってなかった。


「ハルカ。私、ハルカ。ごめんね、いまかけたのはミラちゃんの体にいる悪いのをやっつける薬だったの。体の調子、どうかな?」

「薬……? 昨日の? 体は良くなったけどまだ咳が…………」


 胸や喉を押さえながらミラは首を傾げた。


「あれ、……あれ? 苦しくない……。全然、苦しくない!?」


 私は確認のため、視診インスペクションでミラの状態を見た。

 ちゃんと状態異常が消えていた。


「大丈夫そうだね。良かった」


 私が笑顔でそう伝えると、カナタとミラが二人して泣き出してしまった。だからか、スクさんが急いで中に入ってきた。泣いてる二人を見てすぐぎゅっと抱きしめて笑顔で大丈夫大丈夫と言ってあげてた。

 二人は泣いてるけど、すごく嬉しそうだ。

 本当に良かった。この家族の笑顔が増えていきますように。

 ねぇ、先生。先生も病気の人を治す事が出来た時はこんな気持ちだったのかな。

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