第3話 お名前、何?

 名前を聞いたのは、これからお話しするのに不便だと思ったから。だけど、二人から返事がなかなか返ってこない。


「あ、私はハルカだよ。ごめんね。まずは自分から教えないとだったね。えっと、それで名前、教えてもらえないかな……?」


 言いたくないのなら諦めるつもりだったけど、スライムがぴょんぴょんと跳ねて否定した。


『名前、ないラム』


 小動物の方も頷きながら、きらきらとした目でこちらを見てきた。


『名前つけて欲しいモャ』

「え、え? お父さんお母さんから名前もらってないの?」


 こくりと二人は同時に頷く。

 困ったな。でも、名前がないとお話ししにくいよね。

 ライムグリーン色のスライムを見た。ラムって語尾につけてたし、うーん。よし!


「ライム」


 続いて小動物の方を見る。こっちの子はもふもふだから、ってあーそれじゃあもふちゃんと被っちゃうから、うーんと、うーんと。

 くりくりの瞳に水色の空が映る。


「ソラ」


 名前を決めた途端、もふちゃんが光りだした。

 え、え? 何が起こってるの?


『もふもふの看護助手契約が完了しました。看護助手名【ライム】【ソラ】はもふもふのお医者さんハルカの看護助手になりました』

「え? え? えぇぇぇ!?」


 何、何契約って? 勝手に契約しちゃっていいの?

 ステータス画面を開くとすぐ目に入る場所に二人の名前が載っていた。

 あれ、レベルも上がってる?


『ハイ、ハルカ。アナタがこの子たちを治療したことによって経験値が入り、レベルアップしました』


 わー、ゲームみたいだね。ん、治療で? 敵を倒してレベルアップとかじゃないんだ?


『ハイ、ハルカ。あなたのスキルはもふもふのお医者さんです。お医者さんなので、治療に関する事をすることによって経験値が貯まっていきます』

「ほぇー。そっかぁ」


 何だか頭の中の考えを次々読まれているような気がする。頭の中だけで会話してたけど、最後は言葉に出ていたようだ。


『ハルカ、何がラム?』

『何がモャ? ハルカ』

「え、あれ。もふちゃんの声は届いてないの?」

『ハイ、ハルカ。ワタシは、スキルなので彼らからは横を飛ぶ光だけが認識出来ているかと。それと、魔物の声もハルカにしか認識されていません。話すときは――』


 首を傾げる二人を見ながらちょっぴり寂しくなっていた。そっか、この声が聞こえるのは私だけなんだ。

 他の人がいる前では気をつけなきゃ、独り言が多い変な子だって思われちゃうわけだよね。


「ごめん、ごめん。今、スキル……もふちゃんと話してたの」


 二人には説明しておこうと手でもふちゃんの位置を知らせると納得したようにうんうんと頷いてくれた。


『レベルアップしていけば、ワタシの姿や声、この子たちの声をまわりに届けられるようになると思われます』

「え、あ、そっか! じゃあ、いっぱいレベルあげないとだねっ!」


 さて、問題は二人が、契約状態になってしまっている事だよね。私は一緒にいてくれたら、……もふもふのぷにぷにし放題……じゃなくて!! もふちゃんと二人きり、――彼女はスキルだから実質一人きりにならなくてすむから嬉しいけれど。


「あの、あのね!」

『どうしたラム?』

「二人が、私の看護助手になっちゃったみたいなの。それで」

『看護助手モャ?』

「えっと、なんて言えばいいのかなぁ」

『テイマー契約モャ?』

「え、テイマー?」

『そうモャ!! 名前をもらったら、その人にずっとついていくモャ!!』

「そ、そうなの?」

『命の恩人ラム。ハルカ、守るラム』


 二人が納得していたんだったら、問題でもないの……かな?


『ハイ、ハルカ。生物学によって弱い魔物を使役するテイムが可能になっています。このスキルはいつでも契約解除出来ますので、必要であればお知らせ下さい』

「あ、大丈夫。そっか。便利なスキルがどんどん増えていくのかな」


 レベルアップした分のスキルポイントをポチポチポチと上げていく。

 新しく調合学が増えていた。それにももちろんポイントを振ってみる。


『薬品調合スキルを獲得しました』


 おぉ? ということは、もしかして――。


『ハイ、ハルカ。先ほどの薬草等を調合出来るようになりました』

「やったね! これが強くなればきっとまずーい薬草を美味しくしたりも出来るようになるよね」

『ハイ、ハルカ。試しに調合してみますか?』

「えーっと、うん」


 どうせ追いつけるかわからない。それに危ないのがこの先にいるみたいだから、回復薬を作っておかないとだよね。ゲームでも、最初に回復薬をくれたり買ったりしてから出発だし。


「よーし! 調合!!」


 ………………。


「って、どうすればいいのかな?」

『ハイ、ハルカ。調合に関しては材料が必要ですのでまずは材料を探しましょう』

『ハルカ、調合出来るラム?』

『薬草ならこれ使っていいモャ!』


 んべ、とライムの口(らしき場所)が何かを吐き出した。口から出てきたのに、それは濡れてもなく、新鮮そのものな草だった。


「え、え? どういうこと?」

『ライムの中、食べるとは別に魔法の空間あるラム!』

『ライムにお願いすれば、色々しまっておけるモャ!』

「ほぇー」


 これはもしかして、ゲームで言う便利収納袋!?

 もしかして、もしかして、すごい助手を雇っているのでは?


「ちなみに、収納量は?」

『知らん、ラム! でも、たぶんいっぱい入るラム! 薬草なら作った一年分位は蓄えてあるラム!! ハルカになら全部あげるラム』


 一年分。それがどれ位なのかわからないけれど、ライムの体の中に入る量ではなさそうだ。どうなってるのか見てみたいけれど、口をあけてもらったところでわからないよね。


「ありがとう。必要になったらお願いするね!」


 出してもらった薬草、緑色のと青色の二種類。


「これをどうしたらいいの?」

『ハイ、ハルカ。材料に触れた状態で調合スキル発動させれば出来ます』

「そうなの? 調合っ! って言えばいいのかな?」


 そこまで言うと、まるでシャボン玉みたいなのが両手から一つずつ出てきて二種類の草を包み込んだ。そして、二つがくっついて一つのシャボン玉になった。

 中の草は溶け、混ざり合ってキレイな青が強めの青緑色の液体になっていた。


「わ、きれい! でもこれどうすれば」

『容れ物あるラム』


 ライムが瓶を出してくれたのでシャボン玉の下に持っていくと吸い込まれるように液体は容れ物の中におさまった。


『上級回復薬、ハイポーション。万能薬エリクサーの前段階でこのままでも大抵の怪我や病気に効果を発揮します』

「うえ? 初めてだったら初級ポーションとかそこからじゃ?」

『ハイ、ハルカ。アナタが材料制作者の契約の主である為に追加効果が発動したようです』

『ハルカ、すごいラム!! 調合は大成功ラム』

『モャ、キレイな色モャー』


 確かに、作った薬草と言っていた。だからなんだ。

 だけど、なんだかすごそうなものが出来てしまったので、気軽に使えない気がする。だって、ハイポーションだよ? 初めて使うならただのポーションからでしょ? むしろ薬草……。そうだ、もう草は食べたんだった。


「ライム、これしまっておける?」

『いいラムよ!』

『モャ!!』


 ソラの声がして、目の前がライムグリーンに染まる。気がつくと私は、広い空間に立っていた。

 いっぱいいっぱいの草がひろがってる場所。道具らしきものがまばらにある場所。果物みたいなのが転がってる場所……。

 ライムもソラもいない?


「どこ? ここ?」

『ハイ、ハルカ。ここはライムの中です』

「え、えぇ!? えぇぇぇぇぇっ!?」


 まさか、まさかの私ごとしまわれちゃったの!?

 待って、私は出してぇぇぇ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る