第2話 回復魔法って何?

 とりあえず目指す目標物になりそうな建物もなにもない。だから、さっきの男の子が走っていった方向に足を進めてみることにした。もしかしたら、他にも人がいるかもしれないから。


「もふちゃん、さっきの男の子なんて言ってたのかな」

『ハイ、ハルカ。「オマエ何だ、どうしてここにいる!?」と「薬草を取りにきた迷子か? こっちは俺たちのナワバリだぞ!」と、言っておりました』

「薬草?」

『ハイ、ハルカ。薬草とはそれ自体にも微量の回復効果がありますが複合調合することによって効果を発揮する回復アイテムになります』

「なるほど、ゲームの回復アイテム作成の材料みたいな感じかな」

『ハイ』


 ふわふわとまわりを飛びながらもふちゃんは説明してくれる。声は少し硬い感じだ。だけど、飛ぶ時に彼女の銀色の髪のポニーテールとキラキラしたノースリーブワンピーススカートが揺れていて見た目はとても可愛い。


「あの男の子は薬草をとりにきたんだ。そしてここはあの耳の獣人達のナワバリって事かぁ」

『ハイ、ハルカ』


 反芻して確認する。それにしても、あの耳。ふわふわとしていて触ったら気持ち良さそうだったなぁ。

 年齢はわからないけれど、身長は同じくらいだった。同じくらいの子が誰かのために薬草をとりに一人できたのかな。なら、親も近くに住んでいるのかも。私は急ぎ足で進んだ。まだ近くにいてくれるといいんだけれど。


 ガサリガサリ


 草が揺れる。

 もしかしてあの子かなと足を止め音のする方に向かった。

 草の背は高いけれどこの中に隠れられるほど彼は小さくなかった。

 じゃあ、誰だろう?

 好奇心のまま草をかき分ける。すると、白い角を生やした茶色いもふもふの小さな謎の動物と私がちょうど抱えられるくらいの丸いライムグリーン色のぷにょぷにょしたゼリーの塊が落ちてた。


「こ、これってまさか!?」

『ハイ、ハルカ。魔物、一角獣種の幼体とスライム種のようです』

「だよね! だよね! スライムだぁぁぁぁ」


 有名RPGゲームのあのぷるぷるが目の前に!!

 特徴的な目と口はないけれど、丸くて向こう側が見える半透明ボディはゼリーみたいで美味しそう。頭(?)には猫耳みたいな二つ小さな三角があった。


『誰が美味しそうだラム! 近付くな人間ラム!!』


 ん? 今喋ったのはもふちゃん?


『イイエ、ハルカ。そちらのスライムが発した言葉です』


 答えは意外だった。だって、目の前のスライムに口はなさそうだったから。


「話せるの?」


 スライムに顔を向けると、まるで猫が毛を逆立てるようにうにょうにょと細かくボディが伸びて逆立った。


『近寄るなラム!』


 後ろの小動物を守るように前に出るスライムは気のせいか、傷口みたいなのがあってそこからポタポタとライムグリーンな液体がたれていた。よく見れば、後ろの小動物も傷や血のような液体が体についている。


「あわわわ、大丈夫? これ、誰にされたの? もふちゃん、お医者さんなんだよね。何とかできないの?」

『ハイ、ハルカ。ワタシはスキルです。治療はアナタが行います』

「え、私?」


 手を伸ばしてみるけれど、スライムが余計に逆立つだけだ。


「こんな状態の子、触っても大丈夫なのかな。近付くなって言ってるし、すごく怒ってる」

『デハ、触れないように治療しましょう』

「出来るの?」

『ハイ、ハルカ。まずは視診インスペクションと唱えて下さい』

「い、いんすぺくしょん!?」


 ステータスを見た時みたいにスライムと小動物の上に画面が浮かび上がる。色々書いてあるけれど、一番目立つゲームでHPバーみたいなのが二人とも赤色だった。


「これ、かなり危ない状態だよね! 急がなきゃ! もふちゃん」

『ハイ、ハルカ。病にはかかっていないようなのでハルカの回復魔法でいけます』

「どうやって!? 魔法なんて私――」

『ハイ、ハルカ。アナタの親がアナタが転んだとき何と言いますか?』

「え、えっと、【痛いの痛いの飛んでいけ】?」


 すぅっと体から何かが抜けていく感覚がして、同時にスライムと小動物の体が光り始めた。

 スライムのポタポタと流れていた液体はとまり、小動物の傷口みたいな場所は塞がって見えなくなる。


「わ、すごい。すごい!」


 赤色だったHPバーも正常値だろうか、青色になってもう少しで満タンだ。

 回復が進むに連れてスライムの逆立ちが丸くおさまっていく。

 小動物もピクリと耳を動かしてから、目を開け起き上がった。鼻をスンスン鳴らしこちらを見た。


「あ、あー。どうも」


 スライムもぷにぷにで触れてみたいけれど、小動物の方もつぶらな瞳とふわふわの毛並みで触ってみたくなる。

 私はその欲求を手をにぎにぎする事でなんとか抑え込んでいた。我ながらすこーし怪しい手の動きだ。


「あ、あれ?」


 ふらりと目の前が揺れる。なんだろう。色々体の中が足りないような感じがする。


『魔力切れです。ハルカ』

「え、MPが無くなったの?」

『ハイ、ハルカ。その認識で合っているかと』

「切れるとどうなっちゃうの?」

『倒れます』

「え、えぇー?」


 こんなところで倒れて大丈夫なのだろうか。この子たちを襲ったのの正体だってわからないのに。そもそもこの子たちも立派な魔物、しかも回復済みなんじゃ……。

 だけど、フラフラは止まってくれなくてついに私はぱたりと横に倒れてしまった。


「ど、どうしようー」


 フラフラとする視界にライムグリーン色のぷるぷると小動物の覗き込むような様子が入ってきた。

 あ、これは詰んだかな。でも、別にいっか。だって、私はもう死んじゃってるんだもん。


 目を閉じると真っ暗だった。もう一度、お母さんやお父さん、先生に会いたかったな。


「…………に、にがい」


 口に草っぽいものををねじ込まれる。青臭い苦い汁が口いっぱいに広がっていく。


「ふぁ、ふぁっ……ふぁふぃ?(ちょ、ちょっ……、何?)」


 口をもしゃもしゃしながら目を開けると、スライムが私の口に草を運んでいた。目眩は止まっていた。


『魔力草の一種、微量の魔力を回復します。効能を発揮するには薬草と――』

「あ、これはMP回復薬の材料ね」

『ハイ、ハルカ』


 苦いけど、頑張って咀嚼する。だって、この子たちが持ってきてくれたみたいだから。

 押し込んでいたスライムは少し距離を取りながら私の様子を見ていた。つぶらな瞳の小動物はいっぱい草を口に咥えていた。たぶんこの口の中の草と同じ物だろう。

 飲み込んだあと、ふぅと一息吐いてスライム達の方へと顔を向けた。


「ありがとう。わざわざ取ってきてくれたんだよね」

『傷を治してくれたお返しだラム。当たり前の事だラム』


 心なしか、スライムのほっぺた(あるのかな?)らしき場所がうすピンク色に染まる。照れてるのかな。スライムでも照れるんだ。


『もうちょっと食べるモャ?』


 小首を傾げ可愛く聞いてくるもふもふ小動物。だけど、目眩はなくなったからもうあれを食べたくないと私は遠慮の意を手で示した。

 すると、ライムグリーン色のスライムがびよんと伸びてきて、差し出されていた草を全部食べてしまった。……苦くないのかな。


『ハルカ、あの獣人のところには?』

「あ、そうだった! 急がなきゃ」


 パッと立ち上がり、寂しいけれど二人に手を振って、お別れをする。


「気をつけてお家に帰るんだよ!」


 って、あれれ? 何故か二人は、私の足元にすり寄ってきた。そして、まるで護衛でもするかのように前と後ろについた。


『この先に凶暴なヤツがいるラム。護衛するラム』

『命の恩人モャ』

「帰らなくて大丈夫なの?」

『大丈夫モャ。ここがお家』


 小動物はうんうんと頷き得意げに胸をはる。その仕草が可愛くて、抱きしめたくなった。でも、名前も知らない仲良しでもないのにいきなりそんな事しちゃだめだよね。

 いつか、なでなで&ぷにぷにさせてもらおうと考えながら私は二人に尋ねた。


「ありがとう、じゃあ一緒に行こう。ねぇ、二人は名前なんていうの?」

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