第4話 何なになに?

「もう、びっくりしたよ。ほんと」

『ごめんラム』

『でも、無事だったモャ』

「そうなんだけどね」


 私はあははと笑い、ふぅとため息をついた。

 無事、もう一度風を感じる空を見ることができたのは、ライムの中探検見学会開始から十五分後くらいだった。


「ライム達が危ないって言うのもわかるよ」


 ライムに飲み込まれていた時、どうやら大きな魔物がここを通っていったそうだ。ライムやソラは捕食対象じゃないからか素通りしていったらしくて。

 もし私が外にいたら、頭からバリバリ食べられていたかもしれない。(ライムには丸のみされたけど、まあ無事出られることが出来たから……いっか!)

 隠す目的でライム達はそう判断してくれて、難を逃れたようだ。


『本当に行くラム?』

『そっちにさっきのやつも行ったモャ』

「え……、でも」


 さぁ、男の子を追いかけようと思ったけれど二人は反対みたいだった。ただ、大きな魔物が向かう先も同じというのが気になった。どうしよう。あの男の子をその魔物も追いかけてるのかな。

 もしかして、あの男の子食べられちゃう?


「だめだめだめ!! そんなのだめっ!!」


 あの子私よりちょっと小さかった。それに、子どもならお父さんお母さんだっている。

 お母さんお父さんを悲しませるのはだめ!!

 大きな魔物はどんな姿かわからないけどきっと大人だよね。なら、他に食べ物探せるはず!


「急いで追いかけよう」

『わかったラム』

『了解モャ! でも、近付きすぎないようにするモャ』

「うん」


 そうだ。私が出来るのはお医者さんで、魔法使いや剣士じゃないんだ。でも、いざとなったら私を狙わせてまたライムに飲み込んでもらえば……。

 動くようになった足で全力で走る。すごく軽い。

 それが嬉しくて思いっきり走り続けると、ドォンと大きな音がした。


「何なになに?」

『ハイ、ハルカ。近くで魔物が岩に激突した音と判断します』

「魔物!?」


 まさか、あの男の子ぺっちゃんこにされちゃった!?

 間に合わなかったのかと崩れ落ちそうになったけれど、なんとか進み、木の陰から岩や魔物の姿を探した。


『いたラム!』


 ライムが体の一部を伸ばした。その先に真っ赤な目をしたブタみたいに見える頭、大きな体の何かがいた。それは人間みたいに服とボロボロだけど鎧みたいなものをつけていた。

 ゲームの世界でいう、オークみたいな……。


『ハイ、ハルカ。アレは魔物。種族名オークです』

「オーク。ほんと、まるでゲームだね……。あ、あの子――」


 大きな岩の上に男の子は乗っていた。

 オークはそれを落とそうと体をぶつけていたようだ。


「大丈夫なのかな」

『イエ、ハルカ。あのままではそのうち』


 岩が崩れるか、揺れに耐えられなくて落ちちゃうかという感じだろうか。

 どうすればいいだろう。さっき考えたのをやってみる? でも、男の子から先にって考えてこっちにこなかったら?


「えーい!! 考えたってしょうがない!! ライム、お願いがあるの」

『何ラム?』

「私が囮になってアイツこっちに呼び寄せるからまたあの中に――」


 ドォンとまた大きな音がした。岩が割れ男の子が下に落ちる。これじゃあ、もう……。


『ハルカはあいつ助けたいモャ?』


 ソラがそう言ったあと、光りだした。


『ソラ?』


 ソラの体が大きくなった。私を乗せられるくらいの大きさだ。


『連れてくるモャ。ライム、ここで用意しておいてモャ』

『ソラ、でもあいつはラム』

『ハルカのお願いモャ』


 とんでもない速度でソラが走り出した。あっという間に落ちてた男の子を口で拾い上げ戻ってきた。

 そして、気がつけばまたあの空間にいた。

 今度は他に、ソラと獣耳がくっついてる獣人の男の子がいる。


『時間切れモャ』


 しゅるんとソラはもとのサイズに戻った。

 戻る前に床に置かれた男の子はどうやら気絶しているみたい。

 どうしても気になって、気になって……。

 耳の先をツンツンしてみた。本物みたい……。

 息は……、胸が上下してるからしてるよね?

 顔を覗き込むと目がぱちりとあいた。


「お前、さっきの!?」


 ガバリと起き上がり跳び上がった。すごいジャンプ力――。

 床に戻ってきて、両足と両手をついた瞬間彼は足を抱え転がった。なんだかすごく忙しい。

 そういえば、彼の言葉がわかる。言語学を上げたからかな。


「オークは? ここはどこだっ!?」


 涙目になりながら聞いてくる。何に泣いてるのかわからなくて、私は視診インスペクションを使うことにした。


視診インスペクション


 HPバーは半分くらい減ってるけど赤くはなってない。

 状態異常の表示場所だろうか。文字が点滅しているところがあった。えっと、骨が折れてる?


「えぇぇぇぇぇ!?」


 私が驚きの声をあげるとびっくりしたのか彼は毛を逆立てていた。


「痛い、痛いよね? どうしよう、どうしようぅぅ」


 私が狼狽えているのを見て、男の子はキョロキョロと辺りを見回したあと、なんとか座る体勢になった。少しだけ警戒がとけたように見えた。


「痛くなんてない……。それよりここがどこかわかるか?」

「あぁ、それはわかるよ。まだ時間かかるかなぁ?」

『聞いてみるモャ』


 私の後ろに隠れるようにしてたソラがライムに声をかけると、すごい勢いで引っ張られる。二度目の感覚だ。


「ライム!」

『もう大丈夫ラム。あいつはあっちに行ったから』

「そっか。良かったぁ……」


 って、あれ? 何か足りないような……。


「!? ライム、男の子! 男の子は!?」

『えー、あいつも出すラム?』

「出して出して!!」


 スライムの中で暮らすなんて、許可もないのにさせちゃ駄目でしょ!?

 ペッとすごく雑に男の子が放り出された。その腕の中にたくさんの薬草を抱えていた。


『あっ、泥棒ラム!!』

『やっぱりコイツだったのかモャ』


 ライムもソラも何だか怒ってるみたい。


「やっぱり、スライム達が食い散らかしてたんだな!? 全部吐け! 全部吐き出せっ!!」


 男の子まで怒ってる。私、いったいどうしたら……。こんな時、先生だったら……どうするのかな。子供同士の喧嘩で先生は――。

 そう、両方の話をしっかり聞いてくれたんだ。


「あの、それ全部私のなんだけど」


 ライムがくれるって言ってたからそう言っていいんだよね?


「何……?」

「返してくれるかな」

「…………」


 ぎゅっと掴んで放さない。何か訳があるのかもしれない。


「あの、足……なんとかしないとおウチ帰れないよね」

「――っ!? なんで足のこと」

「えっと、ほら庇ってるから。それで、その治してあげるからその草返してくれないかなぁ」


 ソラとライムは草を盗られて怒ってると思った私は彼にそう提案してみた。


『駄目ラム! 言ったラム! こいつが凶暴なヤツラム。ソラを傷つけたヤツラム!!』

「え……」

『モャ……、ライムもいきなりこいつの爪でやられたモャ』


 えぇぇぇぇ!? 待って、そんなの聞いてない!!

 こんな時はどうしたらいいの!? 先生ー!!


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