第26話 岸本の笑顔
「雅也くん次3組の執事カフェ行こーよ!」
「お、おっす」
クラスで割り振られた仕事の時間になったため、岡田たちと別れ教室に戻ったはずのオレは、なぜか半ば強引に岸本に手を引かれて学園祭を回っていた。
この時間、岸本もなんか割り振られてたような。まぁ、そんなことは気にしない。
「6組の映画面白かったよね〜、学ランムーンだっけプハハッ、思い出しただけでも笑える〜」
「面白すぎて公式に訴えられないか心配だよ」
すぐ隣で校内の推しが笑っている。
―――女の子と回る学園祭楽しい!
やはり男と回るだけじゃ足りないものがある、うんうんと頷きながら、1年3組の出し物の教室に向かいに3階へ来た。
これが青春かぁ。
「よぉ〜碇………お、おぉ。ナイスゥ」
ちょうど廊下で列の整理をしていた村西が、オレと横に立つ岸本を見比べニヤつく。
やめろそのなんか相手に察されるような反応。
「ここ並べばいいですか?」
「はい、この線の内側で頼んます」
岸本に聞かれて村西は答えながら、こちらを振り向きまたまたニヤつく。
「私さぁ、玲香ちゃんの執事姿と反応期待してるんだよねぇ」
ふと岸本が口に出す。
「そーなの?ファンだったり?」
「違うよ〜。雅也くんの友達と【仲良くなりたい】って思っただけ」
「友達………なのかな?オレあいつと」
ラフには話せるが、友達と言ってしまうのは玲香に失礼な気がした。
「次お2人ですね、どうぞ」
入り口の女子に案内されて教室に入った瞬間、岸本がオレの腕に手を回してきた。
「えっ、ちょっ岸本さん?」
彼女は何も答えないまま、執事姿の女子3人がオレたち2人を迎えた。
「いらっしゃいませ!」
女子だけど………凛としててカッコイイな。
席に案内されたあとメニューと水を持ってきたのは玲香だった。
「海堀玲香ちゃんだよね?初めまして岸本南です〜。話して見たかったんだよね〜」
ニコニコの笑顔で岸本が玲香に話かけた。
「そうなんですね、これお冷です」
岸本の分の水を置きながら、玲香もニッコリと笑っていたかと思えば、ドンッとオレの方には少し強く水を置いてきた。
笑顔のままでそれは素直に怖かった。
オレはフルーツサンド、岸本はパンケーキを注文。
女子と2人で面と向かってカフェは初めてだった。考えれば考えるほどこの状況に緊張する。
「フルーツサンド美味しそう………」
「えっ、あぁじゃあ1口食べる?」
スイーツが届き食べ進める途中、岸本がオレのイチゴのフルーツサンドを凝視していたので早口になりながらイチゴのフルーツサンドを差し出す。
「あ、ありがと」
なぜか岸本は少し不思議そうな顔をしながら受け取ったフルーツサンドにかぶりつく。
「うん、美味しい!」
「岸本さん口の周りクリームついてるよ」
「やべ、ホントだ………これイチゴのありがとね。じゃあ私のもあげるよ」
食べかけのイチゴフルーツサンドを返され、フォークに刺した一欠片のパンケーキを目の前に差し出された時、気づいてしまった。
―――これ、仮にどっち食べても間接キスじゃ………
「お、オレは大丈夫だから!」
「そーなの?じゃあいいや」
焦って断ったあと、躊躇いながらも、食べかけのイチゴフルーツサンドは食べきった。
うわぁ、なんかオレスゴい青春してる。スイーツの甘さと状況の甘さが一気に押し寄せてきた。
食べ終わって教室を出る時も、岸本は腕を組んできた。
なんだか舞い上がりそうな気持ち………。
すると、後ろから玲香がオレの耳元で小声で
「アンタさぁ、深川さんと会うんじゃなかったの?」
「あっ」
完全に忘れていた。今日の午後3時頃は深川がウチのクラスの出し物に来てくれることになっていた。ちょうどオレが仕事の時間だったので合わせてもらっていたのだ。
「サイテー」
小さく言いながら殺し屋のような目で睨んでくる玲香と別れ、岸本を連れてうちのクラスの出し物の教室へ急ぐ。
もう、3時20分だ………
1階に降りて多目的ホールに出た時、岸本と出くわした。ベージュのユルっとしたトレーナーを着て、ストリート系の私服だった。
「あ〜!雅也くんやっと来たよ。3時って言ってたのに〜。もう見終わったけど、楽しかったぜい」
こちらに近づいてきて相変わらずのVサイン。いつもならフフッと笑うところだがそれが今は出来ない。
「ゴメン、ちょっと色々あ、」
「どうしたの急に走って〜、次は1組のとこ行くって言ってたじゃん」
後ろから岸本が追いつき、ピッタリとオレの横に立っつ。
―――深川の顔が曇った。
「この子は〜?」
岸本はオレの左手首の辺りを両手で掴んで振り、聞いてくる。
「ゴメン、岸本さん今は」
急いで手を離そうとした。
「悪いけど他の子と回ってるんだったら、先に言っといて欲しかったかな」
「………」
深川の言葉に何も返せない。
「まぁでも楽しかったよ。だけど、友達と約束してた時間に遊んでて来れませんでしたはさすがにムカつく…かな?」
そう言い残して深川は歩き去っていた。後ろを振り返るだけで結局何も言えなかった。
「ねぇ、私なんかしちゃった?それともなんかあった」
―――立ち尽くすオレの隣で岸本は、ニコニコ笑っていた。
実はちょいハイスペックな窓際(にいる)男子高校生の日常 市川京夜 @kichiben
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。実はちょいハイスペックな窓際(にいる)男子高校生の日常の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます