第25話 平和な学園祭初日

「準備お疲れ様!いよいよやってきたね学園祭当日!学年優勝目指して頑張るぞー!!!」

「おおおおおおおおおお!」

朝の教室前の廊下。一般入場前に和田の掛け声が響く。

それにクラス全員の声が続いた。


1年4組の出し物のタイトルはゴーストジャングルツアーズに決まった。

入り口で、幽霊の出るジャングルに案内する係の人が説明中に突然電気が消え、案内係が焦る。すると、ロウソクが灯ったと思えば血だらけのバケモノがお客さんの後ろに立っている。パニックになるお客さんを焦る演技をする案内役がダンボールトンネルに導き、冒険はスタート。

トンネルを進んで行くと2つのエリアがあり、茂みや物陰からそれぞれ襲いかかってくる。トンネルを最後まで抜け、逃げ切ったかと思えば響き渡る笑い声。後ろを振り向くと、ロープで吊るされた幽霊が後ろから襲いかかってくる。

そしてゴール目の前でも今度は人の演じるバケモノが再度登場。最高に怖くしてある。



「よし、二宮、笹倉行くぞ」

「行くかぁ」

二宮と笹倉に声をかけ、オレは1枚の厚紙を持って昇降口に向かった。



「2年5組 パイレーツ・オブ・サンノアンやってまーす!」

「1年7組 映え写真撮れますよ〜!」

「3年1組 脱出ゲームやってます!面白いですよ!」


一般入場開始の午前10時、たくさんのお客さんが校内に入ってくると同時に、各クラスの呼び込み係が声を張り上げる。

教室の配置があまり良くないクラスはここで興味を持ってもらえるか、ある程度生命線となってくる。


「1年4組ぃぃい!」

「ゴーストジャングルツアーズやってまア゙ア゙ア゙ア゙ア゙す!!」


男3人で、ゴーストジャングルツアーズと書かれた厚紙を持って、昇降口前で大声で布教。

そう、オレたちはこのクラスの呼び込み係。


「声でけぇなぁあのクラス」

「気合い入ってんな」

他のクラスがこそっと言ったのが聞こえたが気にせず声を張り上げる。


「ホンモノの植物使ってまーす!」

「ホントにリアルなジャングルですよ!」


その声に2人の小学生くらいの男の子が近づいてきた。


「ねぇそれ楽しい?どこでやってんの?」

「おぉ!えーっとねぇ、ここを行って………ここかな」

「行ってみるね!」


呼び込みの仕事をとりあえず1回は達成。

3人で一瞬顔を合わせて笑い合い、また声を張り上げて呼び込みを続けた。

昇降口に限らず、校舎の中を隈なく歩いて勧誘し、あっという間に2時間が過ぎた。


「いやぁ、頑張ったなぁオレたち。かなり呼べたんじゃない?」

「だなぁ、あとは来てくれるって言ってくれた他校の友達ともけっこう会えて良かったわ」

出店で軽食をいくつか買い、3人で教室の外で休憩。そよそよと吹く風が学園祭の高まりで燃え上がるように熱くなった体を冷ます。


「まぁ他のクラスの真ん前の廊下で声張り上げて学園祭委員会に止められた時は笑ったわ」

「あれな、まぁよく考えれば迷惑よなぁ」

何も考えずどこでもバカみたいに大声を出していたオレたちは2回ほど注意をくらった。


「おい、碇。陽乃ちゃんだっけ?言ってた元カノ来てたじゃん」

「あぁ、ホントそれよ。よく付き合えてたなあんな子と」

「なんでだろーな、話してて楽しいなって思ってRINEで告って付き合って、でもなんか違うって言われて別れたんよなぁ。あっさりしてたから特に気まずさもないんだよね」

「へぇ〜、まぁいいじゃんそーゆーの」


オレは中学では元カノと呼べる子が1人はいる。宮川陽乃。背はオレと変わらないくらいのキレイな子。ホントなんで付き合えたんだろう。

特にこの子とは悪い思い出は無い。初めて彼女になってくれた人だし、この子でトラウマを覚えた訳では無い。

時々今でも話すRINEで、学園祭の話題になった時に興味を持ったようで、来ると言っていた。今日の11時頃に現彼氏とともにいる彼女に校舎の2階でばったり出会った。


「オレは気まずくて会えねぇよ」

笹倉が空を見上げながら答える。窓1つ挟んだ教室の中からは、うちのクラスに来てくれたお客さんたちの悲鳴が響いていた。



「いやぁ、やっぱり2年生のはレベルが違うなぁ」

「冒険してるって感じがスゴかったわ」

午後に入り、オレは陸上部の岡田と森脇とともに、部活の先輩のクラスを回っていた。どこも人気で長蛇の列ができ、廊下は人でぎゅうぎゅうである。


「あとは川崎先輩のクラスか、今んとこどこが1番楽しかった?」

岡田がオレに尋ねる。


「うーん、山川先輩のとこかなぁ。パイレーツ・オブ・サンノアン。あれは良かったわ。狭い教室なのに長々と移動して楽しめたよ、手がこんでるよなぁ」

「オレもアレ良かった!海賊になれたの気持ち良かったなぁ」

森脇がオレに賛同。

大勢の人の波を抜け、2階の階段前にたどり着くと、ダンス部の子たちと向こう側から歩いてきた玲香と出会った。


「おつかれ」

「ん」


目も合わせずそれだけ言うと、彼女はオレとすれ違って行った。なんだか最近ツンな反応に拍車がかかっている気がする。


「大貫くんはいつ、あつむのことを誘うのかなぁ」

歩き去る玲香たちの後ろ姿を見ながら、ポソッと岡田が口に出す。

大貫は陸部の同級生の短距離組の男子。100m10秒台目前の足を持つ。


「あつむ?あぁ、ネタになってる子か。玲香の後ろにいた子でしょ?」

「あれがあつむかぁ〜、キレイだけど少し化粧濃いね」

オレと森脇が思い返すあつむは、よくは知らないが岡田や大貫のいる5組陸上部男子を中心に、陸上部でネタになっている女の子。本名でもないらしい。ちゃんとした理由は知らないが、RINEの名前がクセがあるからとのこと。


「大貫あいつ気になってるくせに誘わないんだもんなぁ〜」

「好意の方で気にしてるのは別の人じゃなかったか?印象づいてるだけで」

「それじゃつまらんのだよ碇くん!」

「おぉ、そうか」

岡田は楽しそうに盛り上がっているがよくは分からない。ふと周りを見れば学園祭間近でカップルにこぎつけたようなペアがたくさん校内を歩いていた。


―――「青春が溢れかえってるな」


ふと、オレが口にした言葉に岡田と森脇が、なんだ?と振り返った。


「なんでもねぇよ、ほら先輩のとこ並びに行こーぜ」

2人の間に駆け寄ってそれぞれの肩に腕を回す。


学園祭は女の子と回らなくたって楽しいのだ。


―――間違いなく。

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