第24話 私が発案者だから

「今の出かたどう?」

「ちょっと演技が大根すぎかも」


水曜日、木曜日が過ぎ、早くも学園祭前日。オレたちのクラスは順調すぎるほどに準備が進んでいた。

他のクラスはあれがないこれがない、時間が足りないとあたふたしている。しかし、かなり前々から必要なものをリストアップし、完成図をきちんと把握していたオレたちは、昨日のうちに大まかな出しものの作成は終わっていた。


「バケモノ役と確認の人、あと看板の仕上げ以外の人は集まって!改善点とか細部でもっと凝った方がいいとこ話し合ってこっか」

和田がクラスメイトに声をかけみんなが廊下に集まる。


あとは時間の許す限りこの出し物をよりよくしていくだけ。

廊下で急遽始まった会議では、何人もの生徒が積極的に改善点をあげていった。

看板係の美術部の子たちが画力を発揮して、誰もが目を引くような素晴らしいものを仕上げていたため、それに恥じないようほとんど全員に気合いが入っている。


―――ほとんど全員に


「最後の仕掛け、幽霊が追いかけるんじゃなくて人形の幽霊吊るすに変えるだなんて、大がかりなことやるよなぁ」

「まぁあと丸々1日あるし、ダメだったら元の予定でも出来は問題ないだろ」

会議が終わり、田川とオレは校内の用具係のブースへ黒い暗幕カーテンを取りに行くのに、教室を離れかけた。狭い教室を大きく長いコースに見せるため、カーテンで教室を仕切るために。


「違う、それじゃ全然違う!」

「でもこれ…とさんがこれにしてって」

誰かが、教室の中の入り口付近で口論をしている。化け物役と確認役の人だろうか。


「私じゃないからそれ、私もっと羽織に血つけろって言ってあったし」

「じゃあ岸本さんが自分で手直し入れれば良かったじゃん、改善あるならそんな怒らないで普通に言ってよ」

「私は他で忙しかったの!」


「おい、どした?」

止めた方がいい?とオレに聞いてきて、オレの返答を聞く前に田川が中を覗き込んだ。


「すまん、碇はそこで待ってて」

オレも教室に入ろうとすると田川に止められた。中の片方の声の主は岸本だろう。



「あ!清彦だ。聞いてよ、真由美ちゃんがさ」

「またやってんのか」

「またって何?私クラスのためにより良いの作ろうとしてるだけでしょ?」

「そんなこと言って、昨日一昨日お前何してた?部活行ってたは通じないからな、女テニのコートいなかったし」

「頼まれた買い出しだけど、貢献してるじゃん」

「2日間ずっと?教室で準備は?」

「っ、ウザ。何もしてないわけじゃないじゃん。こーしてくれって創作得意な人にちゃんと頼んでるし」

「頼んでるじゃないだろ、何もしてないのに偉そうなことばっか言ってんなよ。南は中学の音楽祭だって………」


外で待たされていて田川と岸本の会話はちゃんとは聞こえない。それでも口論しているのは分かった。


「うるさい!私が発案者なの!私が!注文つけるわよそりゃ!」


―――廊下まではっきりと岸本の声が聞こえた


「じゃあせめてこれは自分で手直ししろ!白田さんにやらせてるだけだろ」

「ちょっと待った田川、落ち着け」

「っ………碇か」

他クラスの野次馬まで集まりそうなので、オレも教室に入って止める。


「お、雅也くん。ゴメンねぇ、熱くなっちゃって」

テヘヘと言った具合に岸本が苦笑い。その横で白田さんはどうしようかと戸惑う顔をしていた。


「いや、まぁ自分が提案したものだし完璧なものにはしたくなるよね」

「そうなんだよ〜、どうしても厳しいこと言っちゃうんだよね」

岸本と田川の口論。最後の二言しかオレは聞こえていなかったので岸本を擁護した。そのオレの姿を田川が睨む。


「田川?」

「いくらなんでも、あ〜聞こえてなかったのか………まぁいい、カーテン取り行くか」


教室を出ようとした時、田川が岸本に目線を向ける。

目の合った2人は睨み合っているように見えた。


「岸本さん頑張ってるのにあんま言わなくたって良かっただろ?」

「はぁ〜………よく言えたもんだよ」

「よく言えたもんってなんだよ」

大きなカーテンを何枚も手に入れて教室に戻る途中、田川の顔は変わらず怒りを顕にしていた。


「碇」

「ん?」

「南に関してはいつかちゃんと話す」

「ちゃんと?おぉ、まぁ楽しみにしとくわ」


なんのことだかよく分からないが田川が岸本についてオレに色々教えてくれるようだ。個人的には彼女を知れるチャンスなので助かる。


「お、田川に碇くんカーテンサンキュ〜」

「あれ?和田さんこれ手伝ってるの?」


教室に戻ると先程と同じよう場所で、白田と和田が化け物役で使う布の手直しを行っていた。


―――しかし、発案者の姿はそこに無かった。







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