第22話 ダンボール業者ですが何か?
6月も後半に入り、今度は学園祭のシーズンがやってきた。
ウチの学校は、学園祭のある週の月、火曜日は午前で授業が終わり、午後は校舎が閉まる6時まで学園祭で使うものを作成、準備することができる。火曜日の授業後は、各クラスの催し物によって決められた教室に移動する。
水~金曜日は1日授業が無く本格的に準備、設営が始まる。この3日間、準備可能時間は夜の8時まで延長可能だ。
練習や実施日の少ない部活に所属する生徒の中には、これよりも前の週から準備を始めている人もいる。
「って言っても、大がかりな準備はまだ出来ないんだよね〜」
月曜日の放課後、教室の真ん中らへんの机に腰掛けながら、クラスの学園祭委員の和田星奈が残念そうに言う。
「一応小物にも手はつけるけど、ある程度全体像が見えてこないと小物作成に全力はかけられないよね〜」
「看板完成させちゃう?日村さんが途中まで描いてたよね」
女子たちが何をするか話し合うなか、教室に残る男子数人は指示待ち。
田川や二宮、オレと仲良いクラスメートは全員部活に出ているため、話せる人もおらず、オレは端っこの席でサーサーと振る雨を眺めていた。
――― 遡って1ヶ月前。
「4組は……24票でジャングルホラーに決定!」
和田が黒板に書かれたジャングルホラーの文字を赤チョークで強調。
「単純なホラーとは違うしなぁ、作るの楽しみ」
「ちょっと要素組み合わせた方が面白くなりそうだもんね」
オレのクラスの出しものはジャングルホラーなるものに決まった。
提案者の岸本によれば、ジャングルに来た観光客が怪異に巻き込まれる、というものらしい。
「ウソォ、ホントに私のでいいのかな?」
「良かったじゃん南〜」
岸本と菅野が喜びあっていた。
ウソォなんて言いながら他の案ベタなものばっかだったし、自信あったんだろうな岸本。
しかし今日は部活がある訳でもなく岸本はいない。
「はい!じゃあ残ってくれたみんなこっちに注目!」
ふと前を見ると和田が黒板を平手で叩く。
「あ、看板作ってくれてる人は作りながら聞いてね。雨降ってて大きなもの作ってベランダに置くのも出来ないし、ひとまず今のところの完成図案をもとに必要なものを分析してこっか。意見ある人はお願〜い」
必要な物か………ジャングル再現するのにシダ植物とか持ってくるべきか?
「はい!」
1人が手を挙げた。
「はい星野さんどうぞ」
「ひとまずありったけのダンボールと養生テープが必要になることは覚悟した方がいいかも。先輩から聞いたんだけど、いくらあっても困ることはないって」
―――ダンボールかぁ。
「ダンボールと養生テープは大量ねぇ了解。学園祭の各クラスの予算上限は一応3万円だからお金がかからないダンボールはいくらでも集められるかもね」
「はい」
「はい、香西さん」
「画用紙、マッキーペンやカラーペンも多めにあってもいいと思います。もしかしたら家にある人もいるかもなので、先に分かっておけばここにお金を使う分がヘ減らせるかと」
「なるほど、クラスラインでも伝えるか〜」
さすがにシダ持ってきます?とは聞けないまま活発な意見出しは終わり、今日は終了した。
「あぁ、父さん?ちょっと頼みがあるんだけど」
オレは家に帰ったあと、あることを相談するため転勤している父親に電話をかけた。
「………なんだ、これ?」
田川が絶句する。
「ん?これ?昨日の学園祭の話し合いでさ、ダンボールがありったけ必要って話だったのよ」
「それは聞いたよ、クラスラインでも話し合いの内容送られてきてたし」
「だからこれだよ」
火曜日の授業後の昼休みの高校の駐車場。呼び寄せたクラスマッチバスケ組と二宮に、2トントラック2台に大量に乗ったダンボールの山をお披露目。
「あって困ることはないって話だしさ。親に頼んで系列の工場が余らせたダンボール譲ってくれるって」
「ふーん。それはそうだろうがこれはバカだろ」
二宮が呆れながら答える。
「碇くんすっごいよこの量!」
「おい、野島。目を輝かせてるのは碇とおまえだけだぞ」
「でも倉橋くん。他のクラスの話だと、足りなくなったらいちいちスーパーとか倉庫とかに頼みに行ってダンボール譲ってもらうって話だよ」
「んまぁそうらしいけどよ………」
「とりあえず運ぶの手伝ってもらえるよう男子呼んでくるわ」
オレはみんなに声をかけ1度その場を離れた。
~~~ここからは田川視点~~~
「ったく運ぶだけでどんだけかかるんだよこれ」
「田川くんとりあえずこれ荷台から降ろす?」
「おいそこ何してるんだ?学校のこの駐車場に許可なく車は停めちゃいけないはずだが?」
声が聞こえて振り返ると、学年主任の富吉が立っていた。
「あ、いやこれはですね………」
アイツもしかして、富吉近づいてきたの察して離れたな………あの野郎………
少し怒った顔をしながら富吉が近づいてくる。
「4組の子たちか、次からは気をつけ…て…」
「どうしました?」
「………アホだな」
積み上がったダンボールを見て富吉が一言。
「アホですよね」
遠くでトンビが鳴いている。
その後、男子たちを連れて戻ってきたダンボール業者碇はしっかりと叱られた。
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