第21話 これはデートと言い張らせてくれ

「そっか〜、でも大活躍だったんだねクラスマッチでは」

「ハァ…うん、ハァ、まぁね」


激動のクラスマッチが終わって週末。日曜日の午後に、深川との万波湖ジョグ3回目。

言ってしまえば2人きりなので実質、湖畔を優雅に走る3回目のジョギングデートと言ったところだろうか。


「でも今のこの姿からはそんな活躍してた姿は想像出来ないよね」

ふふっと笑いながら、体力に余裕がなくヘロヘロの姿で走るオレを見る。


情けねぇ………ジョグでこんな疲れるとか。


普段の高校の練習でも、半分以上の回は個人で万波湖を周回してジョグを行い、各々のタイムで距離を積む。

ちなみに女子高ジョグ(街ジョグ)なるものは月に2度ほど行われている。まだ収穫は無い。


オレは普段1km4分半~5分のペースで走っているが、深川の場合は3分55秒~4分10秒のペース。

それに、このデートジョギングは週末の練習後に行っているため、疲労が積まれた状態で行われているのだ。


―――余計にキツイ。


「はい!3周終わり!最後の1km4分3秒〜」

「終わったああああああ………」

ゴールと同時に地べたに倒れ込んだ。天を仰ぎながら、必死に呼吸する。9kmが長い………


「お疲れ様〜、今日は初めて最後までついて来たね」

「………ハァハァ…おう」

「返答もキツイかぁ、フフッ」


ケロッとした顔で腕のストレッチを行う彼女。


正直言えばデートなんて言ってられない。けっこうガチめの練習である。


2分ほど経ってようやく呼吸が整い、近くの自販機まで行き、水を2本買って戻る。


「来週だよね、北関東」

「そ〜、早いもんだよあっという間。あ、ありがと〜」

「タイム最近少し落ち気味なんだっけ」

「ん〜ん〜(うんうん)、ぷはっ。そーなの。最近9分半切れてなくてさ。2km過ぎて少しピッチが遅くなるんだよね」

水を飲みながら彼女の調子について話す。来週は北関東総体が行われる。県内ではなく群馬で行われるため、さすがに出場選手以外が4日間毎日応援に向かうことは出来ない。

そのため、自チームの先輩が出場する種目のある日にだけ、バスで応援にかけつける。


「私の種目と一高の先輩の種目の日被ってないんだったよね」

「そーそ、行くのは3日目と4日目。深川さんは初日だったよね」

そのため、深川の種目の応援には行けない。


「初日応援しに来てくれてもいいぜ?」

「授業あります〜」

「え〜」


立ち上がってナップサックを背負い、水戸駅に向かって歩きだす。と言ってもここから2km近くは歩く。


ジョグよりもこちらの時間の方が、デートと言い張るには都合がいい。


「お腹すいたぁ〜、雅也くんまるはなうどん行こーよ」

「まるはな?いいよ」


オレの少し前を軽くスキップしながら行く彼女。

桜の木が葉っぱでいっぱいになった並木道を跳ねる姿は、絵になる。


水戸駅の改札前まで来ると、彼女はまるはなに行く前にトイレに寄りにオレから一旦離れた。すると後ろから誰かがオレの首をちょんちょん。


「よ。雅也」

「おー、どしたん?玲香」

「マスドでドーナツ買ってたら見かけたから声かけた。1個いる?あ、今から帰り?そろそろ電車出るよ」

「いや、今からまるはな行く。あ、ドーナツはもらうわ」

玲香の持つドーナツの箱からパンデリングをチョイス。


「さっきのは、友達?彼女さん?」

「え?彼女?そう見えた?」

「その反応だと友達ね、まぁ彼女はありえないと思った」

2人並んでドーナツを1つずつ食べる。


「いやぁ〜、そう見えたなら光栄ですわ。イエイ✌️」

「はいキモイキモイ、釣り合わないんだから辞めときな。」

「分からんだろ、さっきだってジョギングデート3回目してきました〜、最っ高すわ」

「デート?え?彼女なの?」

「いや、オレが勝手にそう言ってるだけ。片想いだよ」

「っ。そっか、じゃあ好きな人なんだね……そっか」


その後少し沈黙が続いた。

彼女の乗る電車がまもなく到着するのがアナウンスされる。


「じゃあ私行くね、うどんデート楽しんでこい、よ!」

バァンと背中を強く叩いて彼女は小走りでこちらを振り返らずに改札を抜けていった。


「痛ってぇ………あの野郎……」

「ゴメン!トイレ並んでて遅れちゃった。そのドーナツは?」

ちゃっかり玲香からもらっていた2個目のドーナツを深川が指さす。


「あぁ〜これ?友達に会ってもらったんだよ」

「そーなんだ!………友達ねぇ」

「え?」

「いや?すっごいラフな感じで話してたから、あんなふうに普段は話すんだな〜って思って」

「並んでたって言ってたけど、見てたの?」

「あまりに親密そうだからお時間邪魔するのは如何なものかと〜」

「別にそんなんじゃないよ、ほらもううどん食い行こうぜ」


深川の詮索をさらっと跳ね除ける。

玲香は確かに恐ろしく可愛いけど、性格あんなんだし話しててもラフな感じになるし、とはいえ噛み合う。


でも、オレ会って2ヶ月なのになんであいつとあんな話噛み合うんだろ。


そんなことが頭に浮かんだが、きちんとその後の好きな人とのうどんデートも楽しんだ。



追記 深川は北関東総体は2位でインターハイに進出。

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