第20話 決着と、2本目のコーラ

―――第4戦 グループB 決勝リーグ出場決定戦


対3年1組。ここまで3勝どうしのチームでの戦いとなり、実質的な決勝リーグ出場決定戦となった。

そのため、前の試合よりもより多くの視線がオレたちのコートに注がれる。


「4組いけー!!」

「4組の子またスリー決めてくれー!」

「1年に負けるなよ!」

「1年生頑張れ〜!!」

「3年意地を見せてやれ!」


交互に応援が混ざる。

試合前の整列。フーッと息を吐いて目を閉じる。


「始めます!礼っ」

「ちわーーーす!」


田川が近づきオレに囁く。


「勝つぞこの5分、絶対に」

「おう、もちろん」


軽く拳を合わせ離れる。倉橋がジャンプボールのためにセンターライン(コートの真ん中のライン)に立つ。


ビーーーーーーーッ


ブザーが鳴り、審判がボールを上に放つ。


パンッ………パシッ。

取ったのは、3年側だった。


「前誰も今いないぞ!」

1人が声を上げる。オレたちのディフェンスがまだ展開できていない。1人の選手が隙を見て前に走っていき、ボールが渡る。


追いつかねえか………


「いよおおおおおおおおおし!」

3年側の観客から大歓声が上がる。レイアップシュート。0-2。


いざ反撃に転じるも、ここまでの試合で点を決めているオレ、笹倉、倉橋にぴったりディフェンスがつき、攻めこめない。

一方のオレたちも、その後は死力を尽くして点を与えなかった。


―――試合が動き出したのは残り1分を切ってすぐだった。


笹倉がドリブルで中に攻めこもうとした時にボールをカットされ、そのまま相手に速攻をくらい、4点目を献上した。


「きゃああああああ!」

「いよおおおい、おい!おい!おい!おい!」


男女の興奮した歓声がまた相手側から上がる。


残り47秒。


反撃に出たいが、未だに攻略出来ない。オレにボールが渡ったがディフェンスがぴったり付いてきてスリーも打てない。


「碇!くれ!」

田川が走ってオレにパスを求めてきた。ここまで彼は得点はないが、もうここは賭けるしかない。


「頼んだ!」

パスをしてボールを受け取った瞬間彼は飛び跳ね、身体をねじってシュートを放った。もはや投げたのに近い。


ドガガガ……ファサ。 2-4 。 残り33秒。


「やったあああああああ!」

「田川ナイスプレー!」

「まだいけるよいけるよ!」


ここまで大きな歓声がなく、祈るように見つめる人が多かった中、オレら側の観客が大きく盛り上がる。


―――なんちゅーシュートだよ……


そう思う前にオレは声を張り上げた。


「ディフェンス前から行くぞ!!」

「おうよ!!」


全員で前からディフェンスを詰めてかかる。時間が無いので早いうちからボールを奪いに行くしかない。


パスをどこに出すか手こずらせるなか、3年の1人が走って前へ抜けた。それを見逃さず、ロングパスが繰り出された。これはまずいかも……


パンッ。


野島がそのボールをキャッチした。超ファインプレー。


「野島あああ!」

「いけるぞ!」


残り25秒。


「碇くん!」


野島は誰にボールを出すか一瞬迷った。

笹倉にディフェンスが張り付いていたため、スリーポイントラインより大きく手前に走っていったオレにボールが回ってきた。勝負の時。1年3組との試合のように、ただ突っ立ってスリーを狙うことしか出来ないとは言わせない。


ドリブルを突きディフェンスとの距離を詰める。


残り21秒。


スリーポイントラインまでたどり着いた。ここからだ。もう応援は聞こえない。相手との間合いに集中する。

ピクっと相手が少し右に反応した。それを見逃さない。それに合わせて大きく右に身体を向けて1度ドリブル。ディフェンスが付いてきた、そして上体は大きく傾いている。


―――かかった。


右手に渡ったボールを左に大きくドリブルして戻す。ディフェンスは体がブレていて戻ってこれない。


残り13秒。オレは左60度からスリーポイントを放った。


―――スパンッ


「逆転だあああああああああ!」

「きゃあああああああああ!」


会場が沸き立つ。5-4。あと少し、守れば勝てる。決勝リーグに行ける。


しかし、逆転して一瞬気が抜け、全員が前からディフェンスを詰めていくのが少し遅れた。詰めようとした時には、既にコート内の3年がボールを手にしていた。


残り9秒。


「ここ守りきれぇ!!」

「負けんな!ラスト1本決めろ!」


ドリブルをついていた相手が、オレのマークマンにボールをパスする。


残り5秒。相手の体が左に微かに動く。


フェイクか?右に来る!


「5!4!3!」

クラスのみんなが残り時間を大声で数えていた。


相手が右に来ると賭けて右に体を傾ける。


「なっ」


逆だった。フェイクではなく、そのまま左から攻め込んだ。


「2!1!」


1!と聞こえてからの時間は長く感じた。完全にオレを抜き去った相手は右手からフローターシュートを放った。その間はまるでスローモーションのよう。


「逆転だああああああああああああ!」


―――シュートが決められる瞬間は、目に強く、強く焼き付いた。


6-7。再逆転負け。グループ敗退。



「くっ……そぉ……っ」

涙の溢れる顔をタオルで抑えながら、オレは1年4組の教室の外に座り込んでいた。

「最後にオレが判断間違えなければ………」


田川たちからも試合が終わってから声をかけられたが、何も返事も返さずここまで歩いてきてしまった。

アイツらになんて謝ろう。そう考えていると、


「雅也!ここにいた………あ………ゴメン急に大声で」

顔は上げなかったが、声で玲香だと分かった。彼女は何も言わず隣に座った。


「負けちゃったよ、オレのせいで」

「え?」

「最後…オレが判断間違えなかったらさ………勝ってたんだよ」

「何言ってんの!」

玲香が突然オレの髪をぐしゃぐしゃと撫でる。


「全部の試合大活躍だったじゃん!何も悪いことなんてしてないよ!」

「でも………でもさ…」

「もぉ〜、クラスマッチだよ!いつも昼休み練習してるのは聞いてたし、悔しいのは分かるけど」

「くっそぉ………」

「私にとっては、1番雅也がカッコよかったよ。」

そのセリフに涙とえずきが一瞬止まる。


「約束守ってくれたし、すっごい活躍してたし、味方のプレー1つ1つを大袈裟に褒めたり励ましたりしてさ、ホントに輝いてた」

「そんな………別にオレは」

「じゃあ約束。来年は絶対クラスマッチのバスケで優勝して」

玲香が小指をこちらに突き出す。ぐしゃぐしゃになった顔のまま、オレは彼女の小指に指を回す。


「優勝しなかったら、私の欲しいもの1つお願いするから」

「なんだよ欲しいものって」


そう言いかけた時、クラスのみんながオレを見つけて駆け寄ってきた。


「碇!ここに居たのか!」

「探したよ碇くん!」

「雅也くんスゴかったよ!」

「碇……って何で泣いてるんだよ」


いつの間にか玲香は立ち去っていた。


「ゴメン、みんな…ゴメン」

「なに謝ってるんだよエース!」

「そうだよ!見てて痺れたよ今日の試合」

「顔上げてよエース!」

みんながオレを励ましてくれた。顔をあげると全員が笑ってオレを見下ろしていた。


「みんな、ありがとう……よし、いつまでも泣いてらんないな!サッカー組は決勝リーグ進んだって聞いたから応援行くかぁ!」

「おーーーー!」


涙を拭ってみんなに声をかけ、立ち上がろうとする。


―――先ほどまで玲香が側で座っていたところには、1本のコーラ缶が置かれていた。

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