第14話 そーゆうことは早く言ってくれよ

GW最終日、上野公園にある博物館の特別展を見に行ったあと、公園内でフードフェスなるものが開かれているのを見つけた。


「ホントはラーメン食うつもりだったけど…入場料タダなら見るだけ見てみるか」


東南アジア料理を中心にしたエスニックフードのイベントだった。見慣れない食べ物の屋台が多いが、どれも美味しそう。会場には独特の香辛料の匂いや、食欲をそそる香りがただよっている。


一通り会場を歩いてから、フォーの屋台に並ぶことに決めた。長蛇の列ができてはいたが、名前は知っているし。そこで、聞き覚えのある声がした。


「よぉ碇じゃん。何してんの」


振り返るとそこには食べかけの料理を持った田川がいた。そして隣には岸本ではなく違う女子が……ん?知らない女子?


「お、田川かぁ…(あれ?浮気だよなこれ)博物館行ってきてそのついでに来たんよ」

「あ〜それか。何か行くって言ってたもんな」

隣の子に、フォー食べる?と田川が聞き、その子が頷いたため、2人はオレの後ろに並んだ。


「今日の特別展の見どころはなんだったんよ」

「それはいいわ、田川。ちょっと…」


会話を途中で切り、田川の肩を掴んで引き寄せる。


「お前浮気はまずいだろ」

「は?オレが?」

「お前しかいないだろ、岸本さん泣くぞ」

「っあ〜、そーゆう」


「南は彼女じゃないよ」

小さくため息をついたあと、田川が呆れたように言う。


―――彼女じゃ、ない?


「必要以上にジャれてたからだろ?4月入ったばっかくらいの頃に。アイツはスキンシップ多いからよく誤解されんの。まぁ中学も同じだしな」

「あ、そ、そっかァ………」


そーゆうことは早く言ってくれよ……フリーなのかよ岸本。チャンスあんじゃねえか。


「ねぇ〜キヨ〜?誰が彼女じゃないだなんだって何のことかなぁ?」


オレと田川に凍りついた空気が伝わってくる。


「いやちょっ。ホントの彼女はこっちです、変な勘違いすんなよマジで。浮気はまずいだろって小声で碇が言ったあと、彼女に全力で睨まれたんだからなって、痛てっ!あ待て待て!つねるな!ほんとになんでも無いから!」


最初会った時は、少しふわふわした感じで優しそうな印象だった子が、今は殺し屋のような目をしながら田川の背中をつねっている………


「オレの勘違いなんです!ホントこいつ浮気なんてしてないですから」

「そうなんですね(*^^*)」


パッとこちらに先ほどのふわふわした笑顔を向けたと思えば、つねっていた手を離していた。


「~~~~っ。ホント痛え……この子は幸。梅ノ牧高だよ。んで幸、こいつは碇雅也。前言っただろ?RINE交換しようって言ったら手握ってきた変人って」

「そうだったんだ、そっかこの人かフフッ」

「幸さんはじめま…って待てお前そのネタ広めてるなおい!」


会ったことも無かった子にまで過去の恥を知られているとは……まぁいいけど。


幸さん自ら、せっかくだから3人で遊ぼうと提案があり、オレたちはフードフェスを楽しみ、そのまま公園を抜けてアメ玉横丁までやってきた。

デートしてたはずなのに普通にこんな提案してくるとか幸さん優しすぎないか田川?



「うっま〜い!」

幸さんがケバブにかぶりつく。アメ横食べ歩き4軒目。実は彼女、先ほどのフードフェスでも全屋台を制覇していた。


「碇、可愛いだろ幸。これがいいところなんよ。でもこれの辛いところはさ、財布がデートの度に空になるんよ」

「ハハッ、可愛いけど確かにマイナスポイントだな。でも微笑ましいわ」

一生懸命に頬張る彼女の少し後ろを歩いてついて行きながら、お札の少なくなった田川の財布を手に取って見る。


「キヨ〜!」


幸さんに呼ばれ、田川が駆け寄る。………おぉ、5軒目。今度は、海鮮丼かぁ。


ふと、2人が楽しそうに話す後ろ姿を眺める。


「もし、オレが深川さんか岸本さんと付き合えたら…こんなふうに食べ歩きしたいな……」


オシャレなお店に限るわけではなく、大衆店のような雰囲気の店も好んで楽しく食べ歩く幸さんと田川のカップルがとても理想的に見えた。



「食い疲れたぁ!!!」

オレと田川が御徒町駅前の広場のベンチに座り込む。あの後も2軒行ったので腹は限界を超えている。


「情けないなぁ〜2人とも。あ、キヨ私そこでアウトドア品見てくるね」

さんざん食べた後なのに幸さんは軽快に歩きながらアウトドア用品店へ入っていった。


「あ〜そうそう碇」

「ん〜?」

「南けっこうお前のこと気に入ってるぞ」

「え?」

「その反応、やっぱり南のこと意識してたか。」

図星。


「いやぁ?別にそんなことは……ないなぁ」

「関わってみると面白い子だね〜とか、バスケ上手くてスゴかったとか言ってたぞ。まぁ〜でもな……」

「でもはいいわ、その話詳しく」


その後、田川に茶化されながらも食い気味で詳しくそのことについて聞いた。


―――ホントそーゆうことは早く言ってくれ。


好きな人は深川さんで、推しは岸本さん。そしてその岸本さんから気に入られている……


高校生活楽しくなって参りました。



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