第12話 スポーツドリンクのCM
「あっつ…コンビニ行かん?」
4月末にしては暑すぎるくらいの今日、ひたちなか市の競技場では、陸上部の地区総体が開かれていた。
朝早くからオレたち1年生は、先輩達の出場する種目の応援のために競技場を走り回る。
「いいよ、オレはアイスの果実食いたい…」
「オレはレーソンのクジでも見るかな」
昼前になり、しばらく次の先輩の出場種目まで時間が空いたので、体の冷えるものを求め、コンビニへ森脇と岡田を誘った。
「元川先輩県大会行けるかなあ」
「いやぁどうだろ…4分18秒でしょ?ベスト」
森脇と岡田は2人とも長距離ブロックの同級生。そして2人ともサム…面白いダジャレを言うのが好きだ。森脇は、言いたいことをハッキリと言える多趣味なやつで、岡田はオタク気質で顔以外のスペックが高い。
暑さで陽炎がでるほどのなか、10分ほどでコンビニの駐車場までたどり着いた。森脇と岡田は待ちきれずにコンビニまで走る。
「ホント…今日あっついな…今何℃だろ」
ふと、スマホアプリで気温を見ると30℃だった。
4月からこんな暑くて夏になったら一体どうなってしまうのだか………
そんな不安を持ちながらコンビニに入る直前、車の陰に隠れて、足をピンと張ったまま倒れ込む女子がいるのが目に入った。
三ノ丸二高の部活Tシャツだった。
何があったんだろう。その場に行くと向こうもこちらに気づいて涙目で太ももを指さす。
「足つっちゃったんすね?」
彼女はコクコクとだけ頷く。
「スゴイ痛いですけど伸ばしますね」
ごめんなさいと思いながら、右足を持ち上げ伸ばし、つま先を強めに押した。
「ッ~~、イッ……」
悶えているのを見ると、余計悪いことをしているように感じる。でも、肉離れでもない限り手っ取り早い対処法はこれしかない。
普段なら、え?女子、どうしようなんて言っているところだがそれどころでは無いので自然と行動でき、素早く処置を終えることができた。
「ほんっとにありがとうございます…車止め踏んだ時につっちゃって…」
「良かったです、でもオレも強くやりすぎちゃいましたよね」
少しぎこちなく話しているところに2人がやってきた。
「まさぁ、来ないけどなんかあったのって…何してんの?」
森脇がアイスの果実を食べながら、涙目の女の子の前に座るオレを死んだ目で見つめる。
「いや、足つってたから伸ばしたんよ」
ホントにそれだけです。
「あぁ、岡田。二高に友達いたよね。陣地までは距離あるし、誰か呼べる子いる」
「OK〜。ちょっと呼んでみる」
岡田に救援を頼み、オレは急いで冷えたスポーツドリンクを買って戻り、彼女に手渡す。
「楽になりました?」
飲み物をちょうど飲んでいた彼女に話しかける。
プハッと途中で飲むのを中断してこちらを見てきた時、初めて目が合った。
―――CMを見ているようだった。
ショートカットのブロンズ髪にハッキリとした目。白人のように高い鼻。長いまつげ。少し小麦色に焼けた頬をツーっと汗が1滴垂れながら、スポーツドリンクをゴクゴクと音を立てて飲んでいる。プハッと息を吐いてからこちらに目線を向けるまでの間には光るエフェクトがかかっているようだった。
「はい!楽になりました!」
屈託のない笑みをする彼女に完全に見とれていたが、ハッと気づく。
「それなら…良かったです」
顔が熱くなって前を見れない。
――― 一目惚れだ。
一目惚れなんていつぶりだろう。前は幼稚園生の頃だった気がする。そういえばあの子は元気なのかな。
その後言葉を交わせないまま、彼女と同じ部Tを着た2人がやってきた。
肩を借りながら歩いて去っていく彼女の背中を見ながら、また会えないかな……なんて思い見送る。
―――しかし、再会の時はすぐに訪れた。
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