第11話 MI・NA・MI
バスケの審判役の生徒が、得点板係に向けて3本指を掲げる。
―――15本目のスリーポイントシュート。
「よし!これで100点差だ!」
田川がスリーポイントラインまで走ってきて、オレにハイタッチ。
パンッと響く音とともに腕の汗が少し飛ぶ。
転々と転がるボールを拾うことも出来ず、5人の男子が膝に手を置き足が止まる。全身汗だくで、髪の毛から汗の滴が落ちる。
「ハァ、ハァ……もう点差離すのはやめてくれ…」
「おいおい、ハァハァ。もう独壇場じゃねえかよ…」
「ハァハァ…ッハァハァ。足、動くか?」
「いや、あと運動部としてこれは許されないけど…これ以上はホントに色んな面で心が折れそう」
赤チーム126―26 青チーム。
第4ピリオド残り1分30秒。青チームは控え含め全員が、審判役の生徒に試合継続をやめるよう懇願。
見事な100点差ゲームでレクリエーションのバスケを終えた。
バーベキューを終えてやってきたのは近くの町営体育館。男子、女子に分かれてバスケと卓球を時間ごとで行うことになっていた。
男女で種目は違えど同じ場所でやると思っていたオレ含め男子は少しガッカリ。卓球とバスケで行う場所が別だったのだ。
「これじゃあ何のために昨日練習したんだかなぁ」
「男子にいいカッコするの見せてもなぁ」
試合前、赤チームで集まりながら笹倉と二宮が文句を垂れる。
「まぁいいだろ?二宮はクラスマッチでサッカー出るだろうけど、笹倉と倉橋、オレにとっては練習になるだろ」
そうなだめる富沢諒。彼はハンドボール部所属で少し強面。ガッチリした体つきでなおさら近寄りがたいと思えば、話してみるとなかなか話が合うやつだった。
「元バスのオレとしては、こーゆう時がチャンスなのによぉ……」
答えるのは倉橋圭太。中学ではバスケ部でセンターを務めていて背が高く、ジャンプ力がとにかくスゴイ。でもシュートの決定力が今ひとつ。
「もう諦めてこの恨みを試合にぶつけよーや。一応赤チームのメンツのうち、今ここにいる6人では昨日動きの確認もしたし、あとは他のメンバーとも意思疎通して。ぶっ潰す☆」
オレも恨みタラタラながら、メンバーを諭してバッシュの紐を固く結ぶ。
高校入って数日は誰とも話せなかったオレが、こうして男子の輪に混ざって、最初の1ヶ月目を上手いこと過ごせている。いくつかの男子のグループにオレを連れて回ってくれた田川のおかげだ。
ふと田川の方に目をやると、ほんの少ししてから視線に気づき、笑って小さく手を振ってきた。
―――今のこの感じ。オレ、実はちょい陽キャな窓際男子高校生なのかもしれない。
この明るい雰囲気の中、試合を終えてみれば
オレはスリーポイント15本を含め52点
笹倉は大活躍の38点
倉橋 14点
富沢 14点
二宮 4点
他の子が1人ずつ2点 計4点
田川 0点
家入 寝てて出場せず
というものだった。
「おい碇ぃ…昨日の話と全然違うじゃんかよ。こうすれば入るって言ってたじゃんか」
「ハハッ、モーションが遅いんだよ。そんなんじゃ誰にだってボール奪われちゃうよ」
田川が得点0なのは少し可哀想だったが、みんな楽しめたと思う。青チームの方は……どうだろうか分からないけど………
その不安は的中し、卓球の方では赤チーム、特にオレがボコボコにされ、その上で青チームと和解となった。
「では、解散!気をつけて帰るように」
午後5時すぎ。近藤先生の号令のもと高校で解散。今日は陸上部の1年生は休みだということだったため、オレは真っ直ぐ帰路についた。
先ほどまでは運動していた時の暑さが体に残っていたがそれが無くなり、夕方の少し冷えた風で少し寒く感じる。
リュックにしまっていた上着を取り出そうとすると、肩に手が置かれた。
「雅也くんお疲れさまっ」
「うわっ、き、岸本さんか」
突然の推し登場に驚く。
「バーベキュー楽しかったねぇ。雅也くん選んできたモノは良かったのに焼くの少し下手だったけど」
「申し訳ないっす……」
いいモノを選んできたが、いざ焼いた時にオレがいくつか焦がしてしまったのだ。輝いていた女子の顔が曇ったのを思い出す。評価上げたはずが………
「ハハッ、まぁまぁでも美味しかったしセーフセーフ。あ、あとさ!バスケだよ!スゴかったよ。え?雅也くんカッコよ、やるじゃんって思ったよね」
―――え?見てたの?
「一応経験者だから、ね」
喜びを誤魔化しながらそっぽを向きながら答える。
「一応どころじゃないでしょ、飲み物買いに行くのに瑠夏ちゃんと下降りたときチラッと見るだけのつもりだったんだけど。あのスリーポイント?5本連続は見入っちゃうよねぇ。特に最後の1本は一瞬ときが止まったように感じたよ」
「ヘヘっ、ありがと。まぁ一応昼休みいつも練…」
「あ、そうそう」
岸本がオレの発言を遮ってジーンズのポケットからスマホを取り出す。
「RINEまだ交換してないよね、しよーよ」
「あ、あざっす」
「あざっすって私先輩かよフフッ……はいゲット!ありがとね〜、じゃあね!」
そう言って、岸本はこちらを振り返りながら手を振って下り坂を小走りでかけていった。
オレはもう一度スマホの画面に映るローマ字のMINAMIの文字を見てニヤつく。
高校入って初めて女子と、それも推しとRINE交換してしまったのだから………
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