第6話 人権剥奪

身体測定と言えば、どんなことを思い浮かべるだろうか。


お!オレこれだけ背伸びたわぁ。体重増えたぁ、どうしよう…などと一喜一憂する人も多くいるが、特になんてこともない行事である。


しかし、この身体測定の前日に、オレはMetubeでインフルエンサーを語る女の嫌な発言を目にしてしまった。


―――170cmない男に人権はありませ〜ん。


暴論にもほどがある。ふざけた話だ。


こんな発言気にするわけもない。わけもないのだが……


「オレ、去年161.9cmしか無かったような…いや!でも高校生になって急に伸びるやつが一定数いるのは聞いたことがある。なんか背伸びた気がするから人権は獲得できるな…いやでも先週会った169cmの従姉妹に身長普通に負けてたような…」

と昨晩は気にしていないはずなのに、寝るのが遅くなってしまった。


いざ、測定器に乗れば伸びるかもしれないと思いながら背中を当てる。

体操着を上下着ているのに、背中がやたらと冷たかった。

保健室に集まった男子や女子たちの視線が測定されるオレに集まる。妙な静けさを感じた。


「162.3cm」


―――人権剥奪。


オレ、人間辞めさせられたやん。

そこにいた誰かからバカにされてはいない。しかし、しとしとと降る雨と、ヒソヒソ話す男女たちの声が、人権を剥奪されたオレのことを冷やかしているように聞こえた。


人間じゃないならオレは今日から何として生きていくのだろう。

人間で無くなったオレは、そのことしか考えられないなか、次の体重測定を行う列に並ぶ。


「体重測る時は下着脱いでね〜。あ、男子はもうここで脱いじゃって」


保健室の先生に言われた通り、男子たちは下着を脱ぐ。


「うわっ、スゴ」

「え?割れてるよねあれ」


どうしてだか知らないが、オレを見て少しザワついている。何か変なことでもあったのだろうか?


―――ただ腹筋が6つに割れているだけで。


2つの測定を終え、保健室の入口を出かかる時、


「161.9cm」


という声が聞こえた。

振り返ると、岸本が測定中だった。


岸本には勝ってる!


どうやら、オレのプライドだけは剥奪されずに済みそうだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る