第7話 海堀玲香

1階にある多目的ホール。平日夕方は女子ダンス部がよくK-POPや流行りの曲をキレよく踊っている場所の1つだ。

忘れ物を教室に取りに通りかかった生徒、空き教室で個別に楽器を練習をするため通りかかった吹奏楽部の生徒、更には通りかかった先生までもが、踊る姿を1度足を止めて眺める。


―――現にオレも。


多目的ホールの片側は大きなガラス張りで、ちょうど踊る時間に夕日が差し込む。

キュッ、キュッとスニーカーの音を響かせ踊る女子たちは、ステージで踊るアイドルのように輝くのだ。


踊る女子たちの真ん中で一際輝くのは、1年生にしてダンス部のエースともてはやされる海堀玲香だ。

髪は少し茶髪でハイポジションのポニーテール。まつ毛の伸びた大きめの目に、小顔で背は高くないがスタイル抜群。

容姿だけで言えば、彼女は間違いなくこの学校で1番カワイイ。


ハイテンポな曲に合わせて踊っている。なかなかハードな動きだ。少し、ハァハァと息を切らすのが聞こえる。


1曲終わりの決めポーズ。彼女は右手人差し指を前に突き出してウインク。周りを2、3年生達が囲んで彼女を際立たせる。斜め前から見ていても息を飲むほどだ。


「玲香ちゃん!今の良かったよ〜、決まってたね」

「私たちが踊ってて感動しちゃったよ〜」

ダンス部の先輩が駆け寄る。


「ホントですか!良かったです〜」


「やっぱり、[全国経験者]は違うよねぇ」

彼女は中学でソロのダンスで全国を経験しているらしい。確かに初心者目線でも周りとは動きやタメの上手さが違って見える。


こんなやり取りを3曲ほども眺めてしまった。オレが好きなK-POPの曲を踊っていたのも理由である。


感動してしばらくボーッと突っ立っているうちに、ダンス部は休憩に入っていた。置いてあった水筒を取りに近くに来た彼女に気づかず、声をかけられた。


「何してんの?部活は?」

しゃがんで麦茶を飲みながら怪訝そうにこちらを見る。

「え?あ、いつの間にか休憩になってる…やべ!4時半過ぎてる…もう部活はじまってるよ…」

部活開始は4時25分。遅刻確定だ。


「3曲も口開けて眺めてないでよ気持ち悪い」

はぁ、とため息をつきながら立ち上がり、彼女は夕日の差し込むステージに戻っていった。


「性格に難が無ければホント完璧だよなぁ。」

何様の発言である。でもまぁそうだ。


またダンス部のスマホから、練習用の曲がかかったところで、オレは部活に向かうためステージを離れた。



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