第7話 て、テイマー⁉︎

 じんわりと汗をかきながらも、ようやく探索者協会に到着した。


 見上げるほどの高層タワーを視界に映す。行き交う人々の中を、ポチを抱っこしながら潜り抜ける。


 階段をのぼってさらに前へ進むと、ガラス張りのいかにも高級感あふれる入り口のまえに着く。


 扉が自動で左右にスライドした。中から小気味のいいBGMが聞こえてくる。わいわいと、さまざまな人間が盛りあがっていた。


 探索者には、スキルを開花させた【覚醒者】しかなれない。それを考慮すると、ここに集まったほとんどの人間が、探索者——覚醒者なのだろう。


 覚醒者は、人間の域を超えた者たちだ。ひとたび暴力を振るえば、重い罪に問われる。


 それでも簡単に人を殺せてしまえる化け物たちを前に、僕はなるべく目立たないように努める。ひっそりと、気配を消しながら協会内部を歩く。


 目指すは、登録のための受付。


 だが、およそ五十人はいるであろう協会内部に、ボク以外にペットを連れている者はいない。自然と、僕にだき抱えられているポチへ周囲の視線が集まる。


 ひそひそ声が聞こえた。


「なあ、あれ……もしかして?」


「ただのペット持参じゃないのか?」


「いや、普通こんな所にペットなんて連れて来ないだろ。ダンジョンだってあるんだぞ」


「たしかに。ってことは……」


「可愛い~。なにあれ? あれがあの希少な?」


 男女平等に、僕を遠目になにかを話す。あまり内容は聞こえてこないが、どうせポチに関する話だろうから気にしない。


 そうして、針のむしろ状態で受付にたどり着く。


 テーブルをひとつ挟んで後ろに座る女性が、人当たりのいい笑みを浮かべてくれた。


「こんにちは。本日は探索者協会にどのようなご用件でしょうか?」


 さすがプロ。僕の胸元を、ぺしぺし前足で叩くポチを見てもなにも言わない。たとえ視線が、ジーッとポチのみに注がれていようと、それを態度に出さないのはすごいと思う。


 僕が彼女と同じ立場だったら、絶対に気になる。


 ——この人はなんでペットを連れているんだろう? と。


 これこそまさにプロ魂と言える。


 であれば、僕もそこをつっ突いたりしない。ポチの頭を撫でながら端的に話す。


「探索者登録をお願いします」


 すると、急に受付の女性が目付きを鋭くした。


 急激な変化に、僕はびくりと肩を揺らす。


「探索者登録? ということは……スキル持ち? もしかして?」


「……? どうかしましたか?」


 なにやらぶつぶつ独り言を呟いてるようだが……。




 受付の女性は、僕に尋ねられるとすぐに表情を戻した。


 そして、「なんでありません」と笑う。続けて、


「では、こちらの——【鑑定の水晶】に触れてください。覚醒者なら、魔力を読み取って個人の情報を表示しますので」


 バレーボールくらい大きな水晶をテーブルの上に置いた。


 見覚えがある。


 たしか——【魔法道具マジックアイテム】と呼ばれるものだ。


 魔法道具は、特殊な効果を持った道具のこと。基本的にダンジョン内部でしか手に入らない。


 ものによっては、現代科学ですら不可能な現象を起こすこともできるらしい。目の前に置かれた鑑定の水晶がまさにそれだ。


 僕はドキドキしながらも鑑定の水晶に触れる。


 その瞬間、僕の魔力を水晶が読みとって怪しく光る。


 光が徐々に収まっていくと、今度は水晶の表面に白い文字が浮かびあがった。


———————————————————————

名前:犬飼 透

レベル:1

スキル:【テイム】

———————————————————————


 覚醒者としての僕のステータス情報だ。


 レベルの表記は、生物としての強さや格を示す数値だと言われている。


 そもそもどうやってレベルを上げているのかは、よくわかっていないらしい。


 そして【スキル】。


 やはりそこには【テイム】の三文字が記されていた。


 すでにスキルを授かっていることは、特殊な能力? によりわかっていた。が、実際にこうやって鑑定の水晶で確認できると、本当に自分は覚醒者なんだと自覚する。思わず、感慨深い気持ちを抱いた。


 ひとまず、これで僕が覚醒者であることは証明された。


 このあとは手続きをして、探索者としての証明書——名刺みたいなものを発行すれば、はれて大々的に探索者を名乗れる。


 あともう少しの辛抱だ。


 ……だから、さっきから人の手を甘噛みしないでね、ポチ。痛くないけどべっとり涎がついてる。これは酷い。


 ポケットから取り出したハンカチで、ポチの涎を拭く。そのあいだに、受付の女性も鑑定の水晶に表示された情報を確認して……。


 唐突に、目を見開いて叫んだ。


 どこか震える声で。




「——て、ててて、テイマー!?」

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