第4話 こうしてこの話しは頭に戻る


「部長!!どういうことですか!?」


俺はまだ山崎や田中に瑞樹や他の人も居る会議室で部長に詰め寄っていた。

そう、数十分前の想像とは真逆の結果になっていた。ホワイトボードには人事異動で企画部に田中異動と書かれている、最初は俺の目の錯覚かと思ったが山崎の口をマヌケに開けてる顔に田中の勝ち誇った顔、そして瑞樹の俺をみる居た堪れない顔、察した。見えている文字は現実だと。


しかし受け入れられない俺は部長に詰め寄るしかない。


「まぁまぁ、中村くんちょっと落ち着きなさい」


「これが落ち着いていられますか!!」


部長の制止も無視し俺は部長の剃り残しのヒゲすらも見える距離で部長に訴えている


「落ち着きたまえ中村くん、部長の話を聞こうじゃないか」


余裕ぶって田中は足を組んでコーヒーを飲みそんなことをほざいてやがる。今が西部劇だったら俺は即座に撃ち殺してやるのに…

いやいやダメだ!今は21世紀、言葉の時代だ、落ち着け俺。


「わかりました、話しを聞きましょう。…なんで田中なんですか!?成績なら俺の方が良いのに?」


「成績だけじゃ見えないものがあるんだよ」


「見えないもの?コイツの性格の悪さですか?性格が悪すぎて本社に封印でもするんですか?」


「違う違う!性格の悪さで封印するならまずお前を封印するよ。あのな中村、お前が入社してから何人、何社と契約を結んだ?」


「そりゃ数えきれないくらい!」


「あぁ、そうだな!凄いことだ。そしたら、その後に何人、何社が契約を解除した?」


「そりゃ…数えきれないくらい?」


「そう、そこだよそこ」


「どこ?」


「田中は契約をほとんど解除されたことはない、それはたまたまなんかじゃなく田中が時間をかけて細かく丁寧に説明してるからだ」


「俺だって説明してますよ!」


「録音するか?」


「いや…録音って言ったらアレですけど」


「いいか中村、お前は話術のセンスはある、人望もあるし俺も含め支社のみんなも頼りにしてる。しかし企画部はGOを出したら何人何百人の人間が動くんだ、いつもの調子良いこと言ってその場で大丈夫になったとしても、後で問題が起こってからじゃ遅いんだ。」


どうやら部長は俺の営業より眠くなる学校の先生みたいな教え方の田中の方がいいということだそうだ。


「まむめも」


納得してない俺に田中はボソッと呟いた、あーこれもうダメだ今のはゴングだぞ田中。


「田中テメェー!!」


「おい!誰か中村を抑えろ!」


こうして会議どころではなくなり俺は後輩や同僚に取り押さえられ会議室を出された。

その後他の人事異動の連絡などをし会議は終わったらしい。

瑞樹からLINEで事務仕事で残業があると連絡が来たので怒りがまだ収まらない俺は山崎を連れBARに行くことにした。



「なんだよ!まむめもってよ!!なんだなんだよ、俺はちくわかなんかなのか?オイ山崎!?」


「いや、それはちょっとわかんないですけど」


すっかり出来上がった俺は山崎にダル絡みをしていた。


「まぁ先輩、次がありますよ」


「次があっても田中の下じゃねーか!」


行きつけのお店でカウンターに座っているのでいつもだったらマスターも混じってくだらない話しをしているが今日の俺の雰囲気からガタイのいいマスターはかなり距離を置いていつもより小さくなっている。


「だいたい、アイツの企画みたことあるけどクソつまんねーんだよ、石橋何年叩いてんの!?絶対おれのほぅがおぅもしれぇんだよ」


「先輩飲み過ぎですよ!」


「うるせぇ!きょぅんはとぉことぉんのむんだよぅ」


「そんなこと言っても俺も終電とかありますし」


「んじゃおまうぇだけかえればいぃいだろ!?」


「いやいや先輩置いて帰れないですよ!瑞稀先輩にもよろしくって言われてるんですから」


「だぁいじょうぶぅだよ、たぁくぅしぃひろってかえるからん!」


そう段々深酔いしていく俺に困る後輩にマスターは帰って大丈夫だよと合図を送ったらしく後輩は帰っていった。


「クソ〜あのクソ会社…ん?」


その後ヤケ飲みからヤケ食いに変わり酔いが少し落ち着きを取り戻したころ隣から気配が。

黒いコートを着込み黒いハットを深めに被った背丈は190はあろうかと男が隣でひたすら焼き鳥を食っていた。


デカいな、てかいつから居たんだ?


そんなクエスチョンが頭に浮かんでると急に男が話しかけてきた



「すみません、さっきから独り言を勝手に拝聴していたんですが、何か困ってるようですね?」


「あん?」


これが不思議な男、キタカタとの出会いだった。


「いえ、私キタカタと申しまして人が困っていることを助ける仕事をしていまして。あ、こちら名刺です」


「へー変わった仕事してんだね」


如何にもな怪しい風貌に怪しい仕事、そして名刺出先に作ったのかくらいえらくシンプルなデザイン。これは関わっちゃいけないタイプの人間だ


「ごめんねキタカタさん、特に困ってないから大丈夫だよ」


「そうですか、不満な人事異動等で困ってはないんですね?」


「おい、なんでそのこと?」


「ですから独り言を拝聴してまして」


そんなことまで言ってたのか?

全体の顔はよく見えないがニコニコの口で焼き鳥を食べながら男は言っている。

嘘をついてる様子はないが。


「そうそう、私もあなたと同じ営業職でして。なにやら不満があるあなたにこんなもの如何ですか?」


怪しんでる俺をよそに男は胸ポケットから小瓶を出し俺に見せてきた。小瓶の中身は小さいキラキラした塊達、これって


「金平糖?」


「えぇ、金平糖です」


さらに不思議がる俺をよそに焼き鳥をモグモグしながら当然そうですけどなにか?という様子だ


「これと俺の不満となにが関係あるんだよ?」


「お、やっと私に興味を持っていただけた」


俺が初めてキタカタの方に身体を向けて尋ねるとキタカタは待ってましたとニコニコ笑顔をこちらに向ける。

ぐっ、悔しいがなかなかやるじゃないか。


「この金平糖実は普通の金平糖とは違うんです」


「どこが違うんだ?」


「実はこの金平糖、食べながら願ったことが叶うんです」


そう言いキタカタと名乗る男はこのくたびれたBARのカウンターで胸ポケットから出した金平糖の入った小瓶を俺に渡してきた。


その金平糖は照明の薄明かりの中で妖しく光っている。

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