第5話 金平糖の使い方

願ったことが叶う金平糖??

前言撤回、とてんでもなく下手な営業だ


「あのなぁ?商品に興味持たずまでは優秀だったけどそのあとはダメだな、嘘つくのはどうかと思うぞ」


「嘘じゃないですよ、本当のことを言ったまでです、あ!ちなみに願ったことって言っても口に出さなきゃダメですよ!何事も思うよりも口に出さないと」


「どっちでもいいわ、てか信じるわけないだろ!言ったことが叶うなんて!」


何が何事も思うより口に出せだよ、名言言ったみたいに白い歯輝かすのは勝手だけど結局は嘘っぱちじゃないか。


「そうですね、たしかに全ては叶わないですね」


「だろ!…ん?全ては?」


「えぇ、いくつか叶わないものがあります、一つは心です、人の心を言った通り変えることは出来ません。ですので確かに言い過ぎましたすみません。」


「いやいや!え、本当に言ったことが叶うの!?」


「だからさっきから言ってるじゃないですか」


依然焼き鳥をパクパクしながら当たり前のようにキタカタは言っている。

もしかして本当に本当のことなのか?

俄然この男に興味が湧いてきた


「えっと、それちなみにいくら?」


「これですか?支給品なんでタダですよ」


「タダ!?」


「というか人を助ける仕事してる人が困ってる人からお金を取るわけないじゃないですか?」


いやいやそれはさすがに怪しくないか?

てかどうやって儲けてるんだ?利益0だろ?

エナジードリンクだって契約したらそこから毎月金がかかる。

この金平糖は現品限りでしかも試供品だからタダって…

足長すぎるだろ!?

なんだそれともこっからとんでもない契約でもあるのか?


そんな疑心暗鬼になってる俺に男は あ!っと何かを思い出し


「あ!すみません!まだありました叶わないこと!」


「なんだ?」


「言ったことのキャンセルと、自分に関してです」


「自分に関して?」


「えぇ、ですから自分に関してです。」


「それって、つまり俺は野球選手になるとか俺は社長になるとか?」


「はい、出来ないです!まぁそれ以外は大抵のことは...「それ出来ない んじゃいらないじゃん!」


「え?」


食い気味に言った俺に男は困惑したようだがいやいやそうだろう。

え?なに?

これが本当に本物だとしてよ、自分に関して敵わないってそしたらいつ使うのよ?

使い道ゼロじゃん!


「俺の望み叶わないなら意味ないじゃん!」


「え、それくらいですよ?」


「それが一番大事だろ!」


なにがそれくらいだ、すげーキョトン顔してるけど大抵の人間は自分の望みが叶わないなら意味ないわ、今欲しいのは俺が営業から企画に行ける願いだけだ


「え、、、じゃあいらないんですか?」


「当たり前だろ」


「いやぁーそれは困りますよお客様」


「お客様!?」


「もらってくれないとノルマきついんですよ」


「そんな理由かい!」


さっきからまで余裕をかましてたこの男は俺がいらないと言った途端に泣きついてきた、情緒不安定か!?



「自分の願いが叶わなくてもほら!美味しい」


「何食べてんだよ!商品だろ!?」


「どうです!?」


「いらねーよ!」


試供品を飲んでる俺も人のこと言えたもんじゃないが、現品限りの商品には流石に手は出さない。

キタカタは俺の腕にしがみつき貰ってくださいよとしつこい、そしてしつこくしながらも商品に手を出しボリボリ食ってやがるし


「いや!あなたはきっとこれを持って帰ります」


「食いながら何言ってんだよ!?説得力ないんだよ」


「まぁまぁ、試しに一つ...」


「だからいらねーよ!」


俺は口に金平糖を無理やり食べさせようとするのを必死に拒む、てかこんな騒いでたら他のお客さんがそわさわするだろ!

マスターにも迷惑だし!、、、ん?

あれそういえばマスターどこだ?

他のお客さんもどこだ?

え?いつからいない??


キタカタにしがみつけられながらも冷静に辺りを見渡すと自分とキタカタしかいない、え?そんなことありえるのか?

俺は怖くなりキタカタを振り解きマスターを呼ぶことにした


「マスター?マスター!?…マスター!!?ますたぁぁぁぁぁぁ……」








「お客さん!お客さん!」


「んぁ?」


突然肩を誰かに揺さぶられ俺が揺さぶられた主に顔を向けるとそこにはいつものガタイのいいマスターが俺の肩を揺らしていた。


「もう閉店ですよ!」


「へいてん?」


「お客さん呑んでていきなり寝ちゃうんですから」


「寝てた?」


「そうですよ、まぁお客さん1人だったから寝かしときましたけど」



マスターは驚く俺をよそに洗ったグラスを拭いたり食洗機を回したりしている。

ん?俺1人?

そういえばキタカタが居なくなってる?


「あれ、ここに、隣に誰か居ませんでした?」


「お客さんのお連れの方ですか?」


「いや、それ以外で」


「誰もいませんでしたよ、夢でも見てたんじゃないですか?」


「そうですか...」


どうやら俺は眠っていて夢を見ていたらしい、あんなリアルな夢があるのだろうか?

いや、魔法の金平糖に不思議な男、現実という方がありえないか


そんなキツネにつままれた様な気がしながら俺は会計を済ませ店を出ようと財布を取り出そうとカバンを漁った時にいつもと違うものが入ってたのに気づいた。

それは何かビンのようなものにあったった感触。


ビン?

俺は恐る恐る感触の正体を取り出す。

するとそこには小瓶に入った金平糖。


そう、夢でみたあの金平糖だった。


「お客さんどうかしましたか?」


「あ、いえなんでもないです。あの!本当に後輩以外俺の隣に居なかったんですよね!?」


「えぇ、お連れ様以外居なかったですよ?どうかしたんですか?」


「だ、大丈夫です、なんでもないんで…」


マスターが不思議な顔をしてるのをよそに俺はお会計を済まし逃げるようにタクシーを捕まえた。


なぜこの金平糖が?

あれは夢じゃないのか?

けどマスターが客は俺1人だったって?


つうかこのレシートの大量の焼き鳥はなんなんだ!?

タクシーに乗りながら運転手の世間話も右から左に俺はそんなことをグルグル考えていた。




家に帰るともう瑞樹はスヤスヤ寝ていた。

今日は呑んでくると伝えておいたし当然か。

俺はリビングのソファーに腰をかけ鞄から小瓶と取り出した。


いったいいつから入ってたんだ?

なんなんだこの金平糖は?


うーん、わからん。


考えても答えは出ない、何てったってマスターは寝てたって言ってるし、もしかしたら金平糖をカバンに入れたのは山崎か誰かのイタズラで鞄を開いた時に金平糖がカバンに入ってるのを無意識のうちに見ててそれが夢に出てきたという可能性もある。

あるというかその可能性だろう。


俺は気分転換にテレビをつけることにした、来週山崎に聞けば答えはわかるだろうと。

しばらくチャンネルを回していると一つのチャンネルで海外のサッカーが生放送でやっていた


試合は3-0でもう後半戦も中盤、戦っているのは万年弱小サーディンズ、そしてもう一方は強豪のキングオルカで勝てる筈がない試合。

実況もキングオルカ贔屓でサーディンズはサポーターもどんよりしている。


奇跡でも起きない限り試合はキングオルカだな〜

そんなことを思った時ふと夢で聞いた金平糖のルールが頭をよぎった。


-食べながら言ったことが叶う-

-自分のこと、言ったことのキャンセル、心、以外なら-


いやいやまさか。

そう、まさかだが仮に本物だったら?

俺はテレビを見ながら興味本位で小瓶から金平糖一粒手に取る


そして


ガリッ


「ここからサーディンズの逆転勝ち」


と、呟いてみたが。 ...あるわけないか。

俺は途端にバカバカしくなり寝ることにした。


明日から自分に起こることや

外から我が家を見ているキタカタがいることなど知るよしもなく。

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