第13話 気持ち

 川辺に置いてある石のベンチに座った。

 ここの川の横幅は4メートル、深さは深い所で50センチぐらいしかないが、手入れがしっかりとされているため立派に見える。川では小学生がわいわい遊んでいる。

 

 息を大きく吸うと涼しくて美味しい空気がたくさん入ってきた。横を向くと有沙も目を瞑りながら深呼吸をしていた。息を吸って吐くたびに胸が上下している。

 

 友達から呼吸法の種類を教えてもらって以来、時々周りの人がどんな呼吸をしているのか気になってしまう。

 有沙は胸式呼吸してるなと思いながらふと周りを見てみると、何匹かの猫がてくてくと歩いているのに気が付いた。近くの小屋に貼られている紙には、この川の近くで猫を保護しているということが書かれていた。




 有沙と何も考えずに川を見ていると、一匹の猫が寄ってきた。


「おー、可愛いなあ。」


 そう言って優しく撫でた。すると嬉しそうに目を細めた。


「有沙も――」


 有沙の方を向くと、複雑な表情で猫をじっと見ていた。何故そんな顔をしているのか気になって


「どうした?」


 と尋ねると、今度は神妙な表情で話しだした。


「私は犬派なんだけど……。猫を撫でてもいいのかな?……なにニヤけてるの?」


「別に撫でてもいいんじゃないかなと思って。」


「けど私は犬派だからやっぱり大丈夫。」


 口ではそう言っているけど、我慢が顔に出ている。


「あー、めちゃくちゃ可愛い。ふかふかで気持ちいいし。」


「……意地悪すぎ。もぉいいや。」


 そう言って猫を撫で始めた。


「かわいい〜、よしよし。」


 有沙が優しく撫でると猫はゴロゴロと喉を鳴らした。

 俺はスマホをポケットから取り出す。


「有沙、こっち向いて。」


 フラッシュを使わないように設定して、猫の視線に入らないようにスマホを向けた。


「なに?」


 有沙がそう言って振り向いた瞬間、写真を撮った。


「……なんで撮ったの?」


「たいへん可愛いなと。」


 有沙の顔がだんだんと赤くなる。


「いや猫がね。」


「……うっざ。……私はどうなの?」


「どうって?」


「……可愛く、見える?」


 俺は軽く首を傾げた。


「うわ、渡くんサイテー。もういいや、疲れたしそろそろ帰ろ。」


 有沙はそう言って立ち上がって歩きだしたので、俺もついて行く。


「ごめんって。」


「別に怒ってないし。」


 有沙はいつもよりも速く歩いている。


「怒ってないなら待ってよ。」


「嫌だ。」


 仕方なく走って有沙の横に並んだ。


「隠す気無くなった?」


「うるさい。嫌いな人とは話しません。」


「有沙。」


「……。」


 俺は優しく有沙の手を握った。すると、驚いたのか有沙の体が少しこわばった。


「有沙。」


「……ん。」


「あのさ。」


 心臓がバクバクしている。


「なに?」


「えっと……。」


「もうなんなの?」


 少しムッとした顔で見てきた。

 こういうところでさえも好きになってしまった。


「そう怒るなって。」


「怒ってないって。早く言ってよ。」


「もし告白されるなら何処がいい?友達が知りたいって言ってたから。」


 そう尋ねると、俺の方をチラチラと見ながら


「うーん、好きな人だったら何処でもいいし何でもいいよ。ちょっと恥ずかしくなってくるのは嫌だけど。」


 と笑いながら言った。

 人の笑顔を見ると、その人はどんな人なのか大体わかる。有沙の笑顔はとても優しい。楽しくて笑う時も、喜んで笑う時も、からかってくる時も。

 まだ少ししか話していないのに、少ししか遊んでいないのに、有沙ともっと一緒に居たいと思ってしまう。この気持ちを持つにはまだ早いと抑えていた。

 

 だけどもうこれ以上は無理だろう。覚悟を決めた。大きく息を吸って気持ちを落ち着かせる。

 有沙もこれから何を言われるのか分かっているのだろうか。手がさっきよりも少し強く握られた。

 

「有沙。」


「どうしたの?」


 有沙はわざとらしく首を傾げた。


「まだ少ししか話してないけどさ。」


「うん。」


「もっと有沙のことを知りたいから、よければ俺と付き合ってください。」


「……ちょっと考えさせてもらっていい?」





 


 すぐに良い返事が貰えると思っていたので、正直かなりショックを受けた。

 告白後は自然と手が離れた。別れの挨拶以外はお互い無言だった。


 


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今日は私とサボろうよ 檸檬 塩 @remonsyouyu1914

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