第12 いじわる

 どれくらいの時間が経っただろうか。未だに無言のまま手を握られている。

 暇なので、握っている手に力を入れたり抜いたりしてみる。すると、有沙も同じように握ってきた。心ともなく有沙の方を向くと目が合った。その瞬間、勢いよく目を逸らしてしまった。

 何故かわからないけど、有沙と目が合うとドキドキして顔が熱くなってしまう。さっきまでは大丈夫だったのに。


 「ねえ。」


 いきなり話しかけられて、体がビクッとなった。

 有沙はそれが面白かったのか、堪えようとしているが耐えきれずにくすくすと笑っている。


「驚きすぎでしょ。」


 物理的な距離が近いからか、思わず仲の良い友達に返す感じで

 

「うるせー。お前こそ泣きすぎだろ。」


 と言ってしまった。その瞬間しまったと思い有沙の表情を窺ったが、彼女はニヤニヤしながら


「今度は君の服で涙拭くから。」


 と返してきた。よかった、機嫌は完全に直ったみたいだ。


「さっきより近くに来ることになるけどいいの?」


「嫌がらせできるならいい。」


「そうか。」


「うん。……ていうかなんでココア買ってきたの?」


「甘いの好きって言ってたから。あとココア好きじゃなかったっけ?」


「……まあそうけど。ところで今何時なの?」


「えっと、五時ちょうど。」


 そう答えると、有沙は首を傾げながら


「どうする?今から。」


 と聞いてきた。


「何時に帰りたいの?」


「うーん。何時でも良いけど、夜ご飯はお母さんに家で食べなさいって言われると思う。」


「そっかー。俺は有沙が行きたいところなら何処でもいいけど、何かある?」


「面白くないかもしれないけど、川の近くに行きたい。」


「全然いいよ、俺も川好きだし。駅に向かう途中にあったからそこに行こっか。」


「うん、ありがと。」







 ボウリング場を出て三分ぐらい歩いた。手を離すタイミングを逃し、今も尚手を繋いでいる。


「これいつまで繋いでおくの?」


「渡くんが離すまで。」


 意地の悪い答えが返ってきた。


「俺は有沙が力を抜いたら離そうかなー。」


 そう返したら、ニヤニヤとこっちを見てきた。

 

「私と繋いでいたいんだ〜。」


「うん。」


「え?」


「有沙の手冷たくて気持ちいいから。」


「なんだよそれ。離しちゃうぞ。」


「お好きにどうぞ。」


「この意地悪。」


「何が?」


「自覚あるでしょ。」


「分かんないから教えてよ。」


 有沙をからかうときは、つい頬が緩んでしまう。


「……無視します。機嫌を直してくれるまで話さないから。」


「直ったら話すの?」


 そう聞くと、頷いた。どうやら反応はしてくれるらしい。


「手一回離すね。」


「……」


 有沙は黙っていたが、自覚があるのかないのか少し抵抗してきた。手を離すと明らかにしょんぼりとした顔になっている。

 離してから数歩歩いた後、今度は指を絡めて繋いだ。有沙は少し驚いたのか、手が触れた瞬間ピクリと手が動いた。

 思わず笑いが漏れてしまう。


「……なに?」


「機嫌よくなったな。」


 つい笑いながら言ってしまった。

 だんだんと有沙の顔が紅潮していく。


「ばか。」


「ほら。」


 そう返したら、手をにぎにぎしてきた。


「なに?それ。」


「嫌がらせだけど。」


「ドキドキさせようとしたのかと思った。」


「え?違うし。嫌がらせだし。」


「可愛いからもっとやって。」


「……。」


 有沙はそのまま無言で続けてきた。


 


 


 


 




 


 


 

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