第11話 また
やってしまった。ボウリングが終わった後に座っていたベンチに再び座った瞬間、有沙がしくしく泣き始めてしまった。
「有沙、ごめん。」
有沙は首を横に振った。
「……。」
「……。」
目の前を歩く人たちからの視線が痛い。
「有沙、飲み物とかいる?」
そう聞くと、今度は首を縦に振ってくれた。
「ちょっと待ってて。」
そう言い残し、近くの自販機でココアを二つ買った。
早足で戻り、再び話しかける。
「はい、これ飲んで。」
そう言った後少し待っていると、こくりと頷き受け取ってくれた。
「……こっち見ないで。」
「わかった。」
俺は彼女の要望に応えて、出入口の方をぼーっと眺めることにした。横でゴクリと飲んでいる音が聞こえる。
しばらく待っていると音が聞こえなくなったので振り返えると、少し落ち着いたのか顔をハンカチで隠していなかった。
「ごめん、嫌な事して。」
「……うん。」
曖昧な返しをされた。
「ホントごめん。」
「わかってるって。」
有沙は少し強めに言い返して、再び顔をハンカチで隠した。
俺は何かいい案はないか探していると、犬のぬいぐるみを預かっているのに気が付いた。
「有沙、犬いる?」
有沙は顔をゆっくり上げてぬいぐるみを見たが
「今はいらない。」
と言って顔を隠した。
仕方なく何か他にいい案はないか考えていると、膝の上にあるぬいぐるみが少し動いているのに気が付いた。
どうしてなのか確認すると、有沙が肉球を触っていた。顔を見てみると隠しておらず、落ち着いた表情だった。
しばらくそっとすることにした。
出入口の方を見て待っていると、腕を軽く叩かれた。なんだろうと思い振り返ると、有沙が俺を見ていた。
「どうした?」
なるべく優しい声で話しかけた。
「……酷いことしてきたから、今度は私が嫌がらせする。」
嫌だとは思いつつも、どうぞと答えた。
すると、無言で手を強く握ってきた。
「有沙、ちょっとだけ痛い。」
「渡くんもしてきたから。」
「あ、あれが嫌だったの。」
「……全部。」
だよなぁ。
「ホントごめんね。」
「……もういいよ。」
「どっちの意味?」
「許したってこと。」
まだ許されていない気もするが、とりあえず良かった。
「よかった。」
俺は握られている手で彼女の手を優しく握った。なんだかすごく熱くて、体全体に熱が伝わったような気がする。少し恥ずかしくなってそっぽを向いた。
「……またあそぼ。」
俺は驚きのあまり、勢いよく有沙の方を向いた。
「いいの?」
「……うん。」
嬉しくて、少し恥ずかしくて、俺は握っている手に少しだけ力を加えた。
目の前を通る人の視線は恥ずかしかったけど、有沙と側に居られるほうが何倍も嬉しかった。
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