第10話 プリクラ

 三ゲームを終えたあと、一階に降りてベンチで休むことにした。腕が結構キツい。有沙は腕を揉んでほぐしている。

 ボウリングで一番高かったスコアは、有沙は74、俺は110という中途半端なものだった。最後の方は二人とも適当に投げていて、有沙に至っては両手で投げたり左手で投げたりしていた。


 有沙がグッタリとした様子で口を開いた。


「まさか左利きとは。左利きは天才ってよく聞くけど、渡くんは自分のこと天才って感じたことあるのー?」


「そんなこと言ったら十人に一人が天才になるよ……。あと左利きなのスポーツのときだけだし。それで、今からどうする。」


「今何時なのー?」


「三時……十五分ぐらい。」


「うわぁ、微妙な時間だねー。ねえ、この階にカラオケとゲームセンターと中古屋さんあるんだけど、どうする?」


 うーん。


「有沙が行きたいので良いよ。」


 そう言うと、彼女は少し考えた後、口を開いた。


「ならゲームセンター行こ。」


「わかった。」


 そう言って立ち上がると、有沙もゆっくりとベンチから立ち上がった。

 二人でゲーセンまで行って、中に入った。大きな音が重なり合っていてかなりうるさい。とりあえずクレーンゲームが置いてあるところまで移動した。

 

 ゲーセンに来たのは久しぶりだったけど、歩いているうちに騒音にも慣れてきた。有沙は犬のぬいぐるみが好きみたいで、見つけるたびに目を輝かして、「めっちゃ可愛い〜」と言っている。


「ねえ渡くん、このワンちゃんめっちゃ可愛いんだけど。」


 そう言って、柴犬のぬいぐるみを指差した。


「確かにな。俺取ってみてもいいか?」


 そう言うと、有沙が噴き出した。


「このワンちゃん取ったら、部屋に飾っておくの?ギャプ萌え狙い?」


「ちげーよ。まあ見てて。」


 機械にお金を入れ、横に進むボタンを押す。……このくらいか。今度は縦に進むボタンを押す。……よし。アームが下に降りて、ぬいぐるみを掴んだ。が、すぐに落ちてしまった。有沙は、ぼーっと落ちたぬいぐるみを見ている。

 

 一応さっきより近くには来ている。まずは近くに寄せよう。そう思い、再びお金を入れた。




 次で十回目。もうあと少しのところまで来ていた。横と縦をしっかり調節することができた。アームが下に降りて、ぬいぐるみを掴む。ゆっくりと上に上がり、横に動いている最中にアームから離れて、そのまま出口に落ちていった。


「おー凄いねー。」


 有沙が感心した様子で言った。

 俺はしゃがんでぬいぐるみを取り、彼女に渡した。


「はい。これあげる。」


 彼女は素早く顔を上げた。


「え、良いの?」


「お前のために取ったんだし。」


「……ありがと。」


 彼女はぎゅーっとぬいぐるみを抱きしめた。




 その後もしばらく歩いていると、プリクラ機があった。


「ねえ、あれ撮ろ。」


「なんかデートみたい。」


 と、ふざけて言うと、


「全然違うし。」


 と、大きな声で否定してきた。


「女子は遊ぶとき、必ずプリクラを撮る生き物なのぉ。」


「へぇ。」


「だから、ね。撮、ろ。」


 そう言いながら背中を押してくる。しょうがなく、有沙に押されるままにプリクラ機まで行った。……俺プリクラの顔あんまり好きじゃないんだけどなあ。



 色々とモードを選択しないといけないらしい。有沙は一応俺に確認してくるが、わからないので適当に頷いておいた。

 中に入って荷物を置いている間、有沙が機械を操作してくれた。

 機械から指示が出される。とりあえず有沙を見て真似する。何度か友達と撮ったことはあるが、いまだによく分からない。

 

 六回ぐらい撮っただろうか。有沙の真似をしようと見ていると、目が合った。

 すると少し恥ずかしげな顔で話しかけてきた。


「最後は……恋人繋ぎとかしちゃう?」


 そういうものなのか。


「別に良いけど。」


 そう答えると、有沙が手を握ってくっついてきた。


「……ちょっと近くね?」


「……前見て。」


 いつの間にかカウントダウンがされていた。慌てて前を見る。

 ――に、いち、カシャッ。


 画面に映った写真を見てみると、二人とも恥ずかしそうな顔をしている。


「なんでお前まで恥ずかしがってるの?」


「う、うるさい。」


 仕方なく、彼女が画面を操作しているのを黙って見ていた。少し待っていると、機械に外に出るように言われたので有沙と外に出た。


「次は落書きだよー。」


「俺はどうすればいいの?」


「好きなように描いちゃってくれ。」


 ……難しいなあ。

 とりあえず有沙のを見ていると、キラキラしたペンでハートを描いたり、文字を書いたりしていた。あ、スタンプもあるのか。

 有沙が手を付けてない写真にスタンプを押したり、アオハルや青春と書いたりした。




「はい、これあげる。」


 有沙はそう言って写真を渡してくれた。

 とりあえず二人で近くの席に座った。

 撮っている最中にも気づいたが、宇宙人みたいな顔にはなっていなかった。色々なモードがあるのか。

 やっぱり女子は慣れてるな。一枚目から、名前とハートというシンプルなものだけしか使ってないのに、可愛らしい写真になっていた。

 二枚は俺が落書きしたやつ。あとで有沙が手を加えてくれたのか、おかしくはなかった。

 三、四、六枚目も有沙が描いたもので、これらもまた可愛らしく仕上がっていた。

 五枚目は俺だけが描いたものだ。流石に有沙と比べると物足りなさはある。


 そして七枚目。……どう見てもカップルにしか見えない。二人がハートで囲まれていて、大きな文字で『ずっと一緒♡』と書かれていた。


「有沙、これカップルにしか見えないんだけど。」


「そう?」


 わざとらしく首を傾げた。


「他人がみると、完璧にカップルだぞ。」


 再び首を傾げた。俺は立って有沙のすぐ横まで近づいた。


「な、なに?」


 驚いているのを無視して、恋人繋ぎをして顔を近づけた。

 有沙の耳と顔が真っ赤になっている。


「普通は恥ずかしいだろ。顔真っ赤じゃん。」


「は?暑いだけだし。」


 そう言って、空いている手で顔を隠した。


「有沙。」


「……なに?」


「俺のこと好きでしょ。」


 勢いよく振り向いた。有沙は手を離そうとするが、強く掴んで離さない。


「……手離して。あとこっち見ないで。」


「答えるまで離さない。」


「今度答えるからぁ……。」


 仕方なく手を離した。すると、今度は両手で顔を覆った。


「いきなり手繋いでくるなんて、普通サイテーだよ。」


「普通は最低ってことは、今は?」


「今もサイテーだから!」


 まったくそう思っていない言い方に、思わず笑ってしまう。


「ごめんって。ほら、顔見せて。」


 有沙は首を横に振った。

 ふと周りを見ると、視線がこっちに集まっていた。


「とりあえず、ここから出るか。」


 今度は縦に首を振った。


 


 



 


 


 


 


 


 


 

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