第9話 初めて

 女子とのデートのときに気を付けたほうがいいことを調べていると、車内放送がされて電車が減速し始めた。

 右のドアが開くと、入り口に有沙がいた。


「こんにちは、渡くん。」


「有沙、こんにちは。」


 めちゃくちゃ可愛い。グリーンデニムのショートパンツに、白のTシャツ、髪型はハーフアップにしていて、動きやすくボウリングにもピッタリの服装だと思う。化粧も軽くしているのだろうか。いつも顔は整っているのだが、いつもよりもより可愛く見えた。


 有沙がずっとこっちを見てくる。


「どうした?」


「いや、……まあまあカッコいいじゃん。」


 有沙にカッコいいと思われて良かった。


「有沙もまあ、可愛いと思うよ。」


 そう言うと、パッと目を下に逸らした。


「……ありがと。」


 彼女の恥ずかしがっている姿を見ていると、こっちまで恥ずかしくなってきた。

 電車に乗っている間は、お爺さんお婆さんから温かい目で見られているのもあり、恥ずかしく、会話がぎこちなかった。




 目的の駅に着き、有沙とボウリング場に向かった。


 少し歩いていると、有沙が質問してきた。


「ねえ、渡くんって付き合ったことあるの?」


 あるといえばあるが、ないといえばない。


「まあ中学のとき告白をオッケーしたことはあるけど、サッカーが忙しすぎて一回も学校以外で会わずに別れたな。」


「うわサイテー。そんなブラックな部活だったの?」


「部活じゃなくてクラブチームだったし、そのときちょうど大会があってさ。まあ学校でもほとんど話さなかったからもちろん最低な奴だけど。」


「……へぇ。」


 彼女は俺の足元を見ながら歩幅を合わせてきた。


「歩くの速いか?」


「え、いや大丈夫だよ。」


 彼女はそう言っているけど、少しだけスピードを落とした。


「そういえば、有沙は付き合ったことはあるの?」


「私はあんまり男子と話さないから、まず仲良くなるのすら難しいよ。」


 俺の顔を優しい笑顔で見てきた。


「私、男の子と二人で遊ぶの今日が初めてなんだ。」


 ……少しだけ嬉しかった。


「へえ。どう、今のところ。」


「うーん、七十五点。」


 まさか点数を付けられると思っていなかったし、微妙に低い点だったので、少し驚いた。


「なんで?点数低くない?」


 彼女は首を少し傾げた。


「妥当な点数でしょ。だって最初に褒めてくれなかったし、電車の中ではあまり話しかけてくれなかったし。まあ、道路側を歩いてくれているところは嬉しいよ。あと少しゆっくり歩いてくれてるのも。」


「厳しいなぁ。」


 彼女はニヤついてこっちを見てきた。


「これから挽回したまえ。」


「はいはい。どうしたらいい?」


「自分で考えたまえ。」


「今はないよな。」


 確認のため言ったのだが、彼女は首を横に振った。


「しっかりしてくれたまえ。」


 ……軽くデコピンをお見舞いしてやった。


「イタッ。もう何するの。」


「すまん、つい。」


「私も仕返しする。」


 そう言ってデコピンをしてきたが、失敗したみたいで全く痛くない。


「ねえもう一回させて。」


 そう言って有沙が再びデコピンをしようとしたとき、自転車に乗った大学生ぐらいのお兄さんが優しい顔でこっちを見てきた。

 彼女は慌てて手を引っ込める。


「……。」


「しないの?」


「ばか。」




 その後も話しながら歩いていたら、いつのまにかボウリング場がある施設が見えてきた。有沙に走って行こうと言われ、部活で既に疲れている足を必死に動かした。



「よっし、着いたー。……大丈夫?部活あったもんね、走ってごめんね。しかも今気づいたんだけど、ボウリングってきついじゃん。ごめん。」


 初めの方はキツそうな感じを見せていたけど、彼女がしょんぼりとしてからはなるべく平気そうに見せた。


「いや全然大丈夫だよ。サッカーだし足しか使ってないから。」


 本当は足しか使ってないとかそんなことないが、彼女がしたいことをなるべくさせてあげたい。そう考えると、大丈夫は嘘ではなく、本心だ。……まあきついけど。


 彼女の顔が少し明るくなった。


「ほんと?ならよかったー。じゃあいくぜ、ボウリング場に。」


「うん、行こっか。」


 二人で階段を上がって、ボウリング場に入った。

 受付に行ってレーンの番号を聞いた後、靴を借りて番号の所に向かった。荷物を置いた後、ボウリングの玉を借りに行き、早速始めた。


「私からか。中学以来来てないから、多分下手くそだよ。」


 彼女は保険をかけながら、立ってボウリングの玉を手に取った。

 助走してからボールを離した。最初は真っ直ぐ行きそうだったけど、どんどん右に曲がっていって、一本しか倒れなかった。


 彼女は俺に、次はもっと倒すからと言って再び球を手に取った。助走してからボールを離す。さっきと同じところに行った。

 俺を見てくる。


「どうした?笑ってほしいのか?」


「サイッテー。」


 そっぽを向いた。


「ごめんって。」


「ふんっ。」


『ふんっ』と自分で言うのがなんだか可愛らしくてつい笑ってしまう。


「……早くして。」


 俺は笑いを堪えずに、再び笑ってしまった。

 

「ごめんって。まあ俺も上手くないから。」



 サッカー部の一年で、仲良くなるためにボウリングに行ったときに、軽く教えてもらったカーブボールをふざけて投げると、たまたまストライクをとってしまった。


 戻ると彼女は不機嫌になっていた。


「下手くそじゃないじゃん。普通にうまいじゃん。」


「まあ、たまたまだから。機嫌直せよ。」


 膨らましていたほっぺを軽く突いた。

 その瞬間、一気に彼女の顔が赤くなった。


「な、何するの。女の子のこといきなり触ってくるな。」


「つい。」


「ついですむか。」


 そう言って、彼女はずかずかと前に進んで、ボールを投げた。最初は右に行ったが、そこから曲がってきて九本倒した。


「渡くん、見たか。これが私の力だ。」


 言い方がいちいち可愛らしい。


「あと一本頑張れ。」


 彼女は大きく頷いて、ボールを手に取った。しっかりと振りかぶって、離した。だんだんと右にボールが転がり、ラスト一本を倒した。

 ……凄いドヤ顔で近づいてきた。


「タッチ。」


 そう言って手を出してきたので、ハイタッチをした。


「上手かったよ。」


「ありがと。」


 と有沙は照れながら言って、目線を少し下に逸らした。

  


 

 


 


 


 


 



 


 


 


 


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