第7.5話 もうやだ
私は、人間観察をよくしてしまう。
だから、渡くんは少し苦手意識があった。彼は、人によって接し方を変える。別にこれは悪いことではないと思う。
だけど、ときどき彼が見せる、本心を押さえつけているような表情や行動が少し嫌だった。――まるで、私を見ているような感覚がするから。
バス停で彼に最初に名前を呼ばれたとき、実は結構驚いた。同時に、自分に嫌悪感を抱いた。あんな変な所にいた私にまさか声をかけてくると思わなかったし、彼にまた変な気を使わせてしまったと感じたからだ。
だけどすぐに違うとわかった。彼は私に興味を示してくれた。教室では滅多に感じることのない、他人への興味が私に向いていると思ったら、少しだけ嬉しかった。
彼はやっぱり私を気遣ってきたけど、それでも本心で行動していたと思う。だから私も、彼にはなるべく本当の自分を出そうと思った。
……だけど、彼は私に優しすぎる。本心での優しさだった。タオル貸してくれたり、風邪の心配をしてくれたり、怪我の心配をして手を握ってくれたり。
こんなことされたらさ。恥ずかしくて自分なんか出せないし、……好きになっちゃうよ。
優しい笑顔で私を見てきたり、たまにからかってきたり、私の真似をしてきたり。
……渡くんは、私についてどう思ってるのかな?少しは恋愛対象として見てくれてるのかな?それとも、ただの友達かな?
彼と初めてゲームをした後、こんなことを考えてて課題が手につかなかった。
次の日、青葉さんと映画の約束をしているのを見たら、少しやきもちを妬いてしてしまった。
かまって欲しくて、スタンプをいっぱい送った。私も渡くんともっと話したかった。課題が終わってなくても私ともっと話して欲しかったし、すぐに他の女の子と話しているのが嫌だった。別に彼から青葉さんに話しかけたわけじゃないのに。
そんな私の性格の悪さが嫌いだ。
だけど彼は、面倒くさそうな顔をしながらも、私のすぐ近くに来てくれた。申し訳なく思ったけど、嬉しかった。
その後南川くんが、私が渡くんの体操服をなんで持ってたのか聞いていて少し焦ったけど、渡くんが誤魔化してくれたので助かった。
授業にはあんまり集中できなかったし、友達と話しているときも、彼のことを気付いたら見てしまっていた。私は一番後ろの端の席だから、よく見えてしまう。彼を見れて嬉しい気持ちと、授業に集中したい気持ちが混ざり合って、なんとも言えない気分で午前を過ごした。
教室でご飯を食べた後、ソフトテニスの部室に行って着替え、コートに入った。部員も少なく、先輩と後輩の関係も緩いので、練習前にもコートを使うことができる。しばらく練習をしていると、一緒にやっていた子が休憩したいと言いだしたので、私も少し休んだ。
サッカーの方を見ると、渡くんがいた。……上半身裸、靴下は片方はサッカー用のもので、もう片方は高校指定の短いものだった。
彼の引き締まった体を見ると、少し……なんか良かった。だけど他の人には見て欲しくないと思ってしまった。私のこういうとこが嫌い。
彼の体を見ることができて……少し嬉しい気持ちと、私の嫌いな部分に気付いて落ち込んだ気持ちという、部活をするのに最悪な気持ちのまま部活が始まった。
体を動かすと意外と邪念は消える。何も変なことを考えずに練習に取り組むことができた。
帰りにサッカーコートを見てみると、渡くんが試合にでていた。コート内は知らない人ばっかりだ。上の学年に混ざってやってるのかな。頑張って。心の中で応援をした。
渡くんに、暇だったらゲームしようという主旨の連絡を送った。……これを送るのに五分も文章を考えた。朝は何も考えずに送れたのに。はぁ、渡くんのことがどんどん好きになっちゃう。……とりあえず気分転換にアイスでもたべよ。
アイスを食べ終わり、自分の部屋に戻ってスマホを見ていると、彼からオッケー、とスタンプが来た。
私は家に帰ってから決めていた。今日もしゲームを渡くんとするなら、電話もしようと。なんて送ろうかなぁ。うーん。……これはちょっとうざいよね。……これはあざとい?
渡くんにメッセージを送れたのは、考えてから約五分後だった。
既読がすぐにつくと恥ずかしいので、あえてアプリを閉じて、ゲーム機を起動した。
メッセージが来てから1分後に、アプリを開いて返信する。渡くんはめんどくさがっていたけど、なんとかしてもらうことになった。やった、けどちょっと緊張するなぁ。
電話をかける前に少し気持ちを落ち着けていると、渡くんから電話がきてびっくりした。
思わずすぐに電話に出てしまった。
『有沙、準備できたか?』
渡くんと電話できて嬉しい……。
「もうすぐできるよ。そっちこそ、ボコられる準備はできているかい?」
めちゃくちゃなハイテンションで言ってしまい、少し恥ずかしかった。
電話を切った。
はぁ。
私はめんどい女です。
誰か笑ってください。
もうやだ。今日は2時までゲームしよ。
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