第7話 対抗心
有沙がオンラインになるまでしばらく待っていると、連絡が来た。
《あずな》わたるくん、
《あずな》電話しながらする、?
《wataru》えー
《あずな》おねがい!
《wataru》わかったよ
仕方なく、彼女に電話をかけると、すぐに出た。
「有沙、準備できたか?」
『もうすぐできるよ。そっちこそ、ボコられる準備はできているかい?』
「ボコす準備はできてるよ。」
『ぐぬぬ…。口だけは一丁前だなぁ。』
「はいはい。じゃあ募集してるから、入ってきて。」
『りょーかい。』
五戦目に入った。一戦目は、意表を突くパーティで勝ったが、二戦目以降ずっと負けている。
最初のうちは、お互い煽りながら今やっているゲームの話をしていたが、今はお互いのことについてに、話の展開が変わった。
『渡くんはさ、兄弟とかいるの?』
「いや、一人っ子。」
『そうなんだ。私はね、お兄ちゃんがいるけど、今大学生だから家には居ないよ。』
彼女に俺の行動が殆ど読まれている。
「へー。やっぱ上手いね。」
『ん?ああね、まあやり込んでるから。』
……もう無理だ。諦めて降参ボタンを押した。
『よーし、これで私は四連勝かぁ。次は変なパーティでしてやろう。』
「あんまり使われてないやつだけでお願い。」
『しょうがないなあ。あ、じゃあ次勝ったら一つ質問に答えてね。』
「まあ答えられる範囲なら。」
『よし。』
六戦目は、激戦の末ギリギリで負けた。
『よーし、勝ったから質問しまーす。』
妙に明るいテンションで彼女は言った。
「どうぞ。」
彼女は今度は少し小さな声で、ゆっくりと話しだした。
『あのさ、渡くんはさ、あの。』
「どうした?」
『あの、私の友達が聞いてって言ってきたから聞くんだけど、好きな人とかは今いるの?』
「いないけど。ちなみにその友達は誰だ?」
『いや教えないよ。』
なら今度は彼女に同じ質問をしてみる。
「ちなみに有沙は、いるの?好きな人とか。」
『え、わたし?わたしはね……、気になる人ならいるよ。』
ふーん。
「だれ?」
『うーん、私に優しい人。』
「いや誰だよ。」
『えー、そんなに知りたいの?』
「……まあ。」
返事を返すと、彼女は明るい声になった。
『私はね〜。えー、やっぱ秘密。だって私が勝ったのに聞いてくるなんて、ずるじゃん。』
「確かにそりゃそうだ。なら俺が次勝ったら聞くから。」
『おーけー。なら私が勝ったら……。そうだ。』
彼女は少し間を空けて言った。
『映画いこうぜぃ。』
結果はボロ負け。
『よーし、また私の勝ちだ。じゃあ、今度映画に行こー。』
「映画好きなの?」
『うーん、まあまあかな。』
まあまあなんかい。
「じゃあいちいち映画じゃなくてもいいじゃん。」
『……。親交を深めようってことだよー。なんか映画なら、他の場所よりももっと仲良くなる……かな?』
「へー、初めて知ったわ。普通カラオケとかじゃない?」
『じゃあ両方とも行こうぜぃ、渡くん。』
……まあいいか。
「わかったよ。部活が休みの期間ってわかる?」
『ちょっと待って。今写真送る。』
次の対戦に向けて準備をしながら待っていると、予定が書いてある写真が送られてきた。
『ねえ、渡くんのもちょうだい。』
「まだ確定じゃないのしか無いけど、それでいい?」
『うん、オッケーだよ。』
昨日部活のグループに送られてきた写真を、彼女に送信した。
「今送ったよ。」
『お、きたきた。え、うわぁ……、大変だねー。渡くんは旅行とか、おばあちゃんの家に行ったりする?』
「八月の十日から十四日の間、おばあちゃん家に行くけど、有沙は?」
『待ってて。ちょっとお母さんに聞いてくる。』
ドタドタと足音が、電話越しでも聞こえてきた。
しばらく待っていると、再び足音が聞こえてきた。
『八月八日から十三日までおばあちゃんの家に行くって。』
「りょーかい、なら十五日にしよっか。」
『うん、わかった。やったぜぃ。』
彼女が喜んでいると、こっちまでなんだか嬉しくなる。
「じゃあ誰誘う?」
『……。』
どうしたんだ?
「有沙、聞こえてる?」
『うん、聞こえてるよ。』
「十五日に誰誘いたい?」
『……誰も誘いたくない。』
「なんで?」
『だから、……渡くんと行きたいの。』
いや、元から俺と行く約束じゃん。
「俺はもちろん行くけど、他に誰を誘うのかってこと。」
『だ、か、ら、……もぉ。』
最後が聞き取れなかった。
「なんて?」
『何も言ってない。……もう、渡くんのばーか。ちょっとは考えてよ……。』
はあ、こいつはたまに面倒になるな。
「何を考えればいいんだ?」
『それを考えて。』
「教えてよ。こっちは分かんないんだからさ。」
大きなため息が聞こえた。
『……青葉さんとは二人っきりなの?』
「なにが?」
『だ、か、ら、もう!青葉さんとは、二人で映画観に行くの?』
……ああ、今日の朝に言われたやつか。なんでこいつ覚えてんだよ。
「多分そうだと思うけど、なんで?」
『だから、わたしも、……ふたりが、いいの。』
それだけかよ。
「なら最初からそう言えよ。」
『……私は、女の子、なの。』
女の子をすごく強調して言ってきた。
「有沙はそりゃ女の子だろ。」
『なら私から言わせないで。』
はっきり言えよ。意味分からん。
「何を言わせたらダメなの?」
『今度から渡くんが誘って。……二人であそぼって。』
「昨日は誘ったけど。」
『それはゲームじゃん。』
ゲームはダメなのかよ。
「じゃあ何ならいいの?」
『お出かけ、誘って。』
「はいはい、明日ひま?」
『……うん。』
午前中に部活があって面倒だけど、仕方ない。
「なら午後からどっか行くか?」
『……カフェとか、行きたい。』
「はいはい、ならそうするか。もう十一時だし、明日朝早いからもう寝るわ。」
『……うん。』
「じゃあ有沙、おやすみ。」
『おやすみ、渡くん。部活頑張ってね。』
電話が切れた。椅子から立ち上がって、ベッドに入る。
さっきの有沙は少し面倒だった。だけどさっきの事を思い出すと何故か、溜まっていた疲れが少し取れた気がした。
___________________________________________
応援、フォロー、★ありがとうございます!
モチベになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます