第5話 すたれん
カーテンの隙間から差し込んでくる太陽の光で、目が覚めた。一度大きく伸びてから、上半身を起こす。
少しベッドの上でストレッチをした後、部屋から出てリビングへ移動した。
「あ、渡おはよう。今日はちゃんと学校行きなさいよ。」
「わかってるって。」
適当に流したあと、洗面所に移動した。蛇口を捻ると冷たくて気持ちいい水が出てきた。この冷たい水で顔を洗って、目をしっかりと覚ました。
顔を拭いて、軽い寝癖も治し、朝飯を取る。それから着替えて、友達が来るのを待つ。……いつも通りの生活。
昨日は本当に楽しかった。まさかあんなところで音海さんと会って、しかも一緒に遊ぶなんて。夜はゲームでボコボコにされたけど、なんだか調子に乗ったメッセージが少し可愛かった。もちろん母さんには怒られたけど。
なぜか急に彼女と話したくなってきた。おはようのメッセージを送ってみる。と同時にインターホンが鳴った。彼女からの返信を待ちたかったが、すぐにカバンを持って外に出た。
「うい。」
友達の坊主、山﨑陸に適当に挨拶をした。ちなみにこいつはやま"さき"だ。
「うい。お前ようやくサボりやめたのかよ。ズル休みするなよ、ずるいなあ。」
「昨日も一昨日も部活なかったし、いく意味ないだろ。」
「お前みたいな本当に上手いやつじゃないと、サボったら試合出してもらえないぞ。なぜなら俺がそうだから。とりあえず早く学校いこうぜ。」
そう言って山﨑はチャリに跨がった。
こいつが顧問から嫌われているだけなのは言わないでおこう。
校門には面倒くさそうな体育教師がいたので、仕方なく校門に入る前にチャリから降りた。
「はい、おはよーう。」
低くうるさい声で挨拶している教師に、軽く頭を下げて校内に入る。
「なあ山川、あいつなんで声低いのにあんなクソうるさい声出せるんだ?」
山﨑が真面目な顔をして聞いてきた。
「しらね。脳が空っぽの代わりに、喉までムキムキの筋肉ついてんじゃね。」
山﨑がお茶を少し吹き出した。
「想像したらくそおもろ。あいつ脳が空っぽすぎて、叩いたら良い音しそう。」
チャリの鍵を閉めながら、山﨑がニヤついて言った。
「まず頭が凹むだろ。」
馬鹿みたいに大きく笑っている山﨑の隣にいるのが、少し恥ずかしい。こいつはツボが浅い。
「あ、そういえば。俺クラスの奴らに昨日の宿題聞きたいから、部室に置いてある練習着持ってきてくれないか?」
ダメ元でお願いしてみた。
「しょうがねぇなあ。お前一組だったよな。」
こいつは少し悪そうなやつに見えて、意外と友達思いのいい奴だ。
「マジかよ、サンキュー。今度ジュース奢ってやるわ。」
山崎はよしっ、と言いながらガッツポーズをした。
教室に入ると、中にはまだ二人しかいなかった。
一人は音海さん、確かもう一人は川田さんだったよな。
とりあえず音海さんに声をかける。
「おはよう、音海さん。」
彼女に挨拶をすると、彼女の顔が笑顔になった。…少し身体が熱熱くなった。
「おお、おはよ、山川くん。どうかしたの?」
「昨日の宿題の場所わからなくて。」
彼女は少し目を逸らした。
「た、確かねぇ……。あ、後ろの黒板に書いてあるじゃん。」
ぱっと後ろを向くと、確かに黒板に書かれていた。
「ああ、本当だ。答えとか見せてくれないかな?」
「ちょっとまだ終わってなくて……。」
え。
「昨日宿題するから辞めるって言ってたじゃん。結局その後しなかったの?」
「ちょっと眠くなっちゃって。」
確か9時くらいに辞めたから、多分嘘だろう。聞くのは面倒だからスルーして、わかったと言い席に戻った。
「うわぁ、宿題終わらねえ。」
少し大きな声で言うと、ちょうど教室に入ってきた青葉が近くに来た。彼女は茶髪のセミロングで、身長は結構低い。よく小動物なんて言われている。
「どしたん、渡?」
「宿題が終わらなそうなんだけど、助けてくれ。」
「しょうがないなあ。なら今度見たい映画あるんだけど、それ一緒に見に行こ。そしたら見せる。」
「分かった。いくから見せて。」
青葉は笑みを浮かべた。
「よし、言質とったから。はい、これと……、あとこれとこれかな。」
そう言って三つほどノートやワークを貸してもらった。
「サンキュー、青葉。」
青葉はウインクをして、親指を立てた。
席に座ろうとしたら、ポケットの中のスマホが少し邪魔だった。カバンにしまうついでに、一応メッセージがきてないか確認する。……いつの間にか通知がすごいことになっていた。
誰からだろうと思って確認すると、ほとんどは《あずな》からだった。
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