第2話 気まずい

彼女は一体こんなところで何をしてるんだろう。そう思っていたら目があってしまった。吸い込まれそうな美しい目、おとなしそうな雰囲気を出している綺麗な長い黒髪。筋の通った鼻。優しい口元。身長は平均くらいだったと思う。


 話しかけようか迷ったが、気まずい雰囲気になりそうだったので、再び地面を蹴って進もうとした。そんなときにふと彼女のスマホの画面が見えた。思わずブレーキをかけた。とりあえず話しかける。


「音海さんもカバンモンスターGOしてるんですね。意外です、音海さんがゲームしてるの。」


「……。」


 えー、なんか言えよ。まあいいや。

「カバモ」


「あの」


「「……。」」


 気まずい雰囲気が流れる。

「音海さんからどうぞ。」


「あ、なら。……あのよかったらでいいんですけどカバGOふれんどになりませんか。」


 急に早口になってつい笑いそうになった。


「あの、フレンドさんと一緒にするミッションが来たときに、いつもクリアできなくて……。あの、嫌だったらいいんですけど。」


「全然いいよ。ちょっと待ってて。」


 そう言いながら、カバンからスマホを取り出し、アプリを起動した。


「QRコード出しといてもらえますか。」


「あ、はい。……出し方が分からないです。すみません。」


「いや、ぜんぜん大丈夫。確かに初めてだと分からないよね。隣座っていい?」


「あ、はい。」


 彼女の隣に座った。甘いフルーツのような香りがして少しドキッとした。


「ここのボタン押してください。」


「あ、あの……。」


「ここですよー。画面触れていいですか。」


 彼女が縦に素早く2回頷いたので、すぐにQRコードを表示することができ、フレンドになれた。



「よし、これでオッケー。」


「あの、ちょっと近い……。」


「え。あ、ごめん。」


 慌てて距離をとる。


「ふふっ。そんなに慌てないでもいいです。少し驚いただけだから。」


彼女は笑いながらそう言ってくれた。


「ならよかった。」


 顔が少し熱い気がする。何か恥ずかしい。話題をずらそうと彼女に話しかけた。


「音海さん、今日サボり?」


「昨日山川くんがサボってたから真似しちゃった。なんか今日めんどくさくて。」


「夏休みなのに授業っておかしいよね。」


「ほんとにそう。高校生は大変だー。」


 言い方がなんかちょっと面白い。

「大変だー。」


 棒読みで言ってみた。


「もう、からかうのはやめてよ。……よかった、山川くん話してみたらいい人で。」


「なんか怖そうに見えた?」


 俺って印象悪いのか。


「いや、うーん。……クールって感じで話しづらそうだな、みたいなこと思ってた。」


 上手くまとめたな。


「えー、そんなふうに思ってたの。」


「多分私くらいしか思ってないよ。」


「うそじゃん。理由は?」


「うーん、他の女の子に聞いて。」


 なんでだよ。


「いやなんでだよ。……まあいいや。ところで他にゲームやってるのある?」


 彼女は少し考え、


「山川くんがやってそうな他のゲームはねぇ、カバモンくらいかな。やってる?」

 と言った。


「まあ結構。」


「ちなみにシーズン最終の最高順位聞いてもいい?」


「うーん、4000位くらいかなあ。」


 彼女は一瞬ニヤついた。


「ふふん、私は299位だ。私を敬え、雑魚くん。」


 もうほぼ300位だろ……。まあ凄いけど。


「……すごいけど音海さんなんか急に生意気になったな。別にいいけど。」


「ごめん、つい。」


「音海さん、対戦してみたいからフレンドなりたいんだけどいい?」


「うん。全然大丈夫だよ。」


「ならBINE交換しよ。」

「……。」


 彼女が固まった。


「もしかして嫌だった?」


「うーん、まあ二つほど嫌な理由はあるけど……。別に大丈夫だし、友達、なろ。」


「ちなみに嫌な理由は聞いてもいい?」


「うーん、一個はすぐわかるよ。」


「ならまあ、とりあえず交換しよっか。」



 交換したくない理由の一つは、多分友達との会話文を見られるのが恥ずかしかったからかな。必死に隠してたし。



 無事交換できたので、《あずな》にカバモンの『よろしく』と書いてあるスタンプを送った。すると彼女から、壁を壊すスタンプが送られてきた。


「えへへ〜、壊しちゃった。一ターン、いやこの場合は一スタンプ無駄にしたね。」


 少しむかついたので、即死技のスタンプを送った。


「よし、俺の勝ちか。」


「……かわしました。それはずるいよ。」


 何故か悔しがる音海さんが少し可愛いかった。






 彼女としばらく話したり、弁当を食べたりした後、特にすることがなくなった。とりあえず彼女に


「ここにいても暇だしどっか行かない?」


と聞いた。


「悪い高校生になるの?」


「もうサボった時点で悪いからもうよくない?」


「確かに。それは一理ある。けどこのあたりなーんにもないけど、どうするの?しかも私バスでここまで来ちゃったから移動手段がないよ。」


 確かにそれは困ったな。


「とりあえず音海さんは俺のチャリに乗っていいよ。俺は走るから。」


「いいの?」


「カゴに荷物を載せさせてもらえればいいよ。とりあえず公園でもいい?」


「うん。涼しいとこがいいな。」


「ちょっと調べるから待ってて。」


 そう言ってマップを開くと、彼女が横から覗き込んできた。すごく近い。とてもいい匂いがする。


「山川くん、ブランコあるしここがいい。」


 そこは俺の家のすぐそばの公園だった。本音を言えばまだ行ったことない所が良かったけど、しょうがないか。


「ならここにするか。よし、早速行こう。」










___________________________________________


いいねやフォローお願いします!

次もぜひ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る