第10話 新たなる事件⁉︎


 はぁ……それにしても、貴族の連中には困ったものね。


 貴族たちが偉ぶっているからか、その召使たちまで私たち平民を同じように見下す始末。


「さっきは本当に危なかったなぁ……痛っ」


 傷付いた右足に、樹の木から貰った薬草で煎じた薬を塗りながら、先ほどの事を思い出す。


 まさか門を通ろうとする私たちを、締め出す嫌がらせをしようとして来るなんて。近くには『門を開けろ』と言いに来た龍人が数名いたにもかかわらず。

 最後に門を通ろうとした私と明々だけ、締め出そうとした。


 あの時。少し前を歩いていた明々を、私が体当たりして突き飛ばさなければ、大きな扉に挟まれて、明々の体はグチャグチャになっていたかもしれない。

 門を閉めた召使たちも、まさかあんな勢いで、扉が閉まると思っていなかったんだろう。自分たちが閉じようとした扉が閉まる勢いに青ざめていたもの。


 ちょっとした嫌がらせのつもりだったのだろう。

 ったく、大惨事になるとこだった。


 私だって……近くにいた龍人の人が気付き、身を挺して扉が完全に閉じてしまうのを止めてくれなければ、私の右足はなくなっていただろう。


「ひうっ……良かった」


 足がなくなったら。などど想像し変な声が漏れる。

 さすがにちょん切れてしまったら、いくら有能な薬を使っても元に戻せない。


「よし! これで完了。二、三日で治るでしょう」


 足に包帯を巻き終え、ベットにバタンっと倒れるように寝そべった。


「ふぅ〜……」


 龍王様ってどんな人だったんだろう。少し見てみたかったな……などど考えていたら、扉がノックされ明々が勢いよく部屋に入ってきた。


「翠蘭! 大丈夫⁉︎」

「明々……大丈夫だよ。にしし」


 私は心配させまいと、わざと陽気に笑う。


「私が煎じた薬の効き目は効果抜群だからね。それは明々も知ってるでしょう?」

「それは……そうだけれど……」


 明々は優しくていい子だから、自分のせいで怪我させてしまったと、罪悪感でいっぱいなのだろう。明々の顔は眉尻が下がり今にも泣きそう。

 こんな時は話を変えるのが一番。


「ところで、龍王様との謁見はどうだったの?」


 私がそう言うと、瞳を輝かせる明々。分かり易いんだから。


「それがね! 聞いてよーっ」


 明々が嬉々とベットに座り、私にくっ付く。


「龍王様はね、遠目から見ても分かるくらいの美丈夫だったの。なんかねぇ、纏うオーラが違うっていうの? すっごく圧倒されちゃったよ。あんな綺麗な人初めて見たよー」


 明々の興奮は止まらない。

 永遠と龍王様の良さについて語っている。

 見たこともないくらい美しい人と聞き、私はつい樹の木であった龍人の事を思い出し……笑った龍人の顔が頭をよぎる。


「ねぇ? 翠蘭てば、ちゃんと聞いてる?」

「ふぇ? ももっ、もちろん! ちゃんと聞いてるよ!」


 危ない危ない、上の空だった。


「そんな赤い顔してぇ……龍王様の顔を想像しちゃった?」

「赤っ……!? そそそっ、……うん」


 顔、赤くなってたのか。何だか恥ずかしい。


「あははっ、龍王様のこと興味ないとか言ってぇ、翠蘭もあるじゃん」


 明々が私の背中をバンバンと叩きながら楽しそうに笑う。

 実は別の人の事を考えてました。なんて言えない。

 まぁいっか。明々の笑顔が見れて良かった。


 ひとしきり笑った後。明々の顔が真剣になる。


「それでさ……」


 そしてこの後語る、明々の話が一番衝撃を受けた。


「えっ!? 何それ」


 なんと私たちは試されていたのだと。


 明々の髪が切られた時も、私が暴行されていた時も、他のみんなが貴族たちに意地悪されていた時も、全て龍人が見ていたと。

 そんな事をするのなら、助けてよ。っと怒りが沸々と込み上げてくるが、私たちは金子で買われた身。そんな文句は言えない。

 見ていた龍人たちだって、上の人に言われてした事なのだし。


 そして、好き放題していた人たち、主に貴族は皆、金子を半分返さなければ奴隷として売られるのだとか。


「売られ!? そんな話私聞いてない!」


 思わず声が大きくなる。


「だよね。私も聞いてなかったから、氷水様たちに話しているのを聞いて衝撃が走ったよ。でも貴族たちは、箱庭に入る時に聞いてたみたいだよ。なのにあんな態度を取るとか……脳内大丈夫ですか? って思っちゃった。ふふふ」

 

 明々は氷水様たちから一番嫌がらせを受けていた。

 泣き叫び許しをこう氷水様たちを見て、スッキリしたんだとか。


「この後、氷水様たちはどうなるんだろうね……」

「わかんないけど、きっと何かしらの処分はされそうな雰囲気だったよ」


 そうか……もしかしたら、二百五棟この棟からいなくなるのかな?


 などど考えていたけれど、次の日から私の想像を遥かに超えた出来事が起こる。


 なんと、悪事を働いた人たちは全て排除され。

 一千人いた赤い髪の女性は、なんと八十五人にまで減った。


 さらに一週間後には、部屋を移動することになってしまった。

 これにはさすがに慌てた。だって私の部屋の隠し部屋には、色んな薬草や薬が置いてある。

 さらには自作の湯船まであったのだから。そう簡単に引越しなんて出来ない。

 土で作った自信作の湯船を壊し。部屋を出て行かなくては……くぅ。またあれを一から作るのか。一週間もかかったのになぁ。


 などと思いながら、新しい部屋に移動すると、もといた部屋の十倍はある広い部屋に、陶器で作られた美しい湯船が設置されていた。

 前に住んでいた二百五棟よりも大きな建物に、十人の女性しか住んでいないのだ。そりゃ部屋も広いはず。


 こんな広い部屋……私一人には広すぎる。美しい湯船に入るのにも緊張してしまう。

 それにあの樹の木の場所から少し遠くなってしまった。

 

 部屋の引越しやらでバタバタして、あの場所にずっと行けてない。


 ふと窓から外を見ると月明かりが眩しい、これほど明るいなら樹の木の場所までの新しい道を照らしてくれるはず。

 この建物から樹の場所に行った事がないから、迷うかも知れない。でもなぜか不思議と、必ず辿り着けると思えた。

 

 「よし! 樹の木に会いに行こう」


 それに……もしかしたら……!!

 ちちちっ、違う違う。私は樹の木にっ。

 私は顔を左右にブンブンと振った後、籠を背負い部屋を出るのだった。




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