第11話 月明かりの下で……

 樹の木の場所に行く正確な道なんて全く分からないのに、月明かりが真っ直ぐな道を照らしてくれる。

 それはまるで、樹の木に『こっちだよ』呼ばれているよう。


「ふふふ。不思議ね、草木が光の道を作ってくれているみたい」


 私はなんの迷いもなく、月明かりに照らされた道を小走りに走ってく。


 数分も走ると。


 ———あれは……!


 大きな樹の木の姿が見えてきた。

 その姿は何度見ても圧倒的な存在感を放ち、月明かりが神々しく樹の木を照らす。

 そんな眩い光を存分に浴びた葉が、黄金色に輝き揺らめいている。

 ……なんて幻想的なんだろう。


「……綺麗」


 その樹の根元には……。


「樹の木さんこんばんは。私がここに迷わず来れるよう照らしてくれたんですよね? ありがとうございます」


 私がそう言って樹の木を抱きしめると、大きな葉が『そうだよ』と言ってるかのように揺れる。


 そして周りを見ると、いつも木の根元で寝ている龍人がいない。


 今日はいないのかあ。


 いやっ……別に龍人が目当てでは無いのだけれど……。怪我を治す薬草が減ってきたし……それがメインなのと樹の木さんに会いたかったし。


「薬草を少しいただきますね」


 樹の木に頭をぺこりと下げ、欲しい薬草を探す。

 毎回思うのだけど。薬草を採取し次に来た時には、全てもと通りに生えている。無くならないように残しながら採取してるのに、次来た時には全てが最高の状態の薬草へと成長している。


 どうなっているんだろう? 樹の木さんのパワーなのかな?


 などど考えながら必死に薬草を採取していたら、急に明るく照らされていた薬草たちに影がさす? 


「ん? 月が翳った?」


 思わず上を見上げると、私の真上を美しい漆黒の龍が浮かんでいた。

 綺麗だなと見惚れていたら、キラッと何かが煌めく。


「眩しっ……」


 なんだろう……さっき龍の首元が赤く光ったような……?

 気のせいかな?

 美しい龍はそのまま地上に舞い降り、人の姿へと変わる。


「今日は其方ソナタの方が先であったのう」


 そう言って優しく笑いながら私の所に歩いてくるのだけど、その姿までが美しくて、まるで時が止まったようにゆっくりと見える。

 そして私の横に座ったのは良いんだけれど。

 どうしよう、まただ。この人が近くに来たら、心臓がバクバクして苦しい。

 やはりおかしい。他の美しい龍人を見てもこんな風にはならないのに。

 どうしていいのか分からず。下を向いてしまう。


「足はもう大丈夫なのか?」


 ———え?


 今……『足は大丈夫なのか?』って言った? どうして私が足を怪我をした事を知ってるの?


「其方は友を庇って、足を怪我をしたのだろう? そう聞いたが?」 


 さらに明々の事まで……あっ、そうか! この人も私たちの様子を見るように言われていた龍人の一人なのね。

 きっとあの時、謁見の間に居たんだわ。

 だからかと一人で納得し、心配そうに私を見つめる龍人に返事を返す


「もうバッチリ回復しました。樹の木さんの薬草は最強なので」


 そういって両手で強そうに拳を握る。


「ははは、そうか。なら良かったのう」

「……貴方も大変でしたね」

「ん? 我が大変?」


 私がそう言うと不思議そうに首を傾げる。


「だって上の人たちに言われて、私たちをじっと見張っていたんでしょう? そんな事、本当はしたくないでしょう?」

「え? いやっ、我は……」

「だって無抵抗の人が殴られていたり、意味もなく意地悪されている人を見ているだけなんて、そんな事をしたい人はいないと思う。いくら番を選ぶ事が大事だとしても、趣味が悪すぎます! 部下にそんな事をさせる龍王様もどうかとっ、あっ、すみません」


 思わず龍王様の事を悪く言ってしまった。

 人族では一国の王の事を悪く言うと、極刑にあたる。そう考えるとドンドン青ざめてしまう。

  だけど、横にいる龍人は私を攻めることなく、何故か落ち込み下を見ているように見える。


 どうしたんだろう? 私の事を責めないの?


「あっ……あのう。申し訳ありません! 主君である龍王様の事を悪く言ってしまうなんて!」


 私は少し後ずさりし、土下座するように頭を地面につけた。


「いやっ、そんな事しないでくれ! 顔を上げてくれんか? 確かに其方の言う通りだ。もっと違う方法があったやもしれぬ。そっ、その……ゴホッ、龍王が考えなしなのだと、我も思う!」


 ———ふぇ? 今この人……自分の国の王が悪いと言った?


「それは……あのう?」


 不思議そうに顔を上げると。眉尻を下げすごく困った顔で私を見ていた。


「嫌な思いをさせて悪かったのう」

「へ?」


 龍王様でもないのに、なんでこの人が謝るの?


「あはは、なんで貴方が謝るんですか」

「へっ? あっ、そっ、そうだな」


 私の横で困った顔をし、少し照れくさそうに鼻をポリポリとかく姿を見て、何だかほっこりしてしまった。


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