第8話 欲にまみれた貴族たち

 座り込む氷水ビンスイたち貴族に対し、龍王はジロリと睨むと自身の横に立っている龍人族の男に命令する。


紫苑シオンあやつらに全て説明せよ」

「はっ、仰せのままに」


 龍王飛龍フェイロンから紫苑と名前を呼ばれた男は、腰を九十度におり龍王に向かって頭を下げる。

 どうやらこの男が、龍王の右腕と言われている龍王国の宰相のようだ。

 紫苑は座り込む貴族たちの前に、足音も立てず静かに歩いていく。


「龍王様から承諾を得たので言わせて頂きますね。私たちは、初めの数か月は君たちをただんですよ。どんな生活態度をしているのかをね。だから龍王様は箱庭ハーレムに住んでいるどの女子おなごともまだ会っていない。龍王様との謁見はお前たちが初めてなんですよ」


 自分たちが初めてと聞き、何を勘違いしたのか頬を染める貴族たち。

 中には『私たちの中に番がいるとか?』などと勘違いし、歓喜の声をあげる者までいる始末。そんな中、紫苑は話を冷淡に続ける。


「ええと……氷水といいましたか?」

「ひゃっ、はい」


 急に名前を呼ばれ氷水は声が裏返る。


「貴方は他の貴族たちを従え常に平民をいじめていましたね。資料には髪を切ったり殴る蹴るの暴行……それ以外にも」

「……ななっ。わっ、わたくしはそんな事しませんわ!」


 明々や他の平民にした事を急に言われ、慌てて否定する氷水。

 そんな氷水を見ても、全く表情を変える事なく話を続ける紫苑。


「ああ……否定しても時間の無駄ですね。箱庭の至る所に龍人がいて、我らは常に貴方達のする行動を静かに見張っていましたので」

「……みっ、見張って!?」


 思いもよらない龍人の言葉に体が固まる一同。


「理由がわかりますか? いくら龍王様の番であろうと、この国を統べる人の横に立つ存在。その横に相応しい価値がなければ意味がない。だから貴方達が、それに匹敵する器を持っているのか、ずっと審査していたんですよ。もちろんそれは龍王様も納得しておられる」


 紫苑のその言葉を聞き、その場にいた貴族令嬢たちはみんな表情が一変した。

 自分たちが試されていた!? そんな事、今まで考えもしなかったのだから。


「で……ですが……証拠はどこに?」


 なんとも言えない空気の中、氷水が言い訳がましく抗う。


「証拠だと? 我らが何百年も共にしてきた仲間とお前ら、どちらの言葉を信じるのかなど一目瞭然」

「あっ……」


 そう紫苑に言われ言葉を失う氷水。

 さらに追い打ちをかけるように、紫苑は捲し立てる。


「お前たちは箱庭ここに入る時言われなかったのか?」

「「「「え?」」」」


 その言葉に「何が?」と不思議そうな顔をする氷水たち。


「箱庭に相応しくなく追放された女たちは、箱庭に入った時に支払った金子の半分を返済する。もしそれが出来なければ国外に奴隷として売られると、金子の支払いの時に話しましたよね? まさか忘れたのですか?」


 そう紫苑は冷たく言い放った。


「そんな! お許しください」

「いやぁぁぁぁぁ」

「ど……奴隷!?」


 氷水を含むその場に置いた貴族たちは、紫苑のその言葉に泣き叫びながら許してくださいと頭を下げた。


 龍王国にとってはたいした金額ではないが、人族にとっては貰った金子の半分でもかなりの大金なのだ。ここにいる貴族達のほとんどが、その金子を支払えば家が潰れてしまうのが分かっていた。自分たちの未来には奴隷しかないと……。

 だから必死に許しを乞う。


 調子に乗った愚鈍な貴族たちは、自分たちがそんな事になるなど、考えもしなかった。

 自分たちは貴族。

 何をしても許されると、奴隷落ちするのはどうせ平民だと、あさはかな考えをし、箱庭で好き放題してきたのだから。


 だけどここは龍王国。

 

 勝手知ったる人族の世界とは全てが違うのだ。

 それを人族でしてきた事と同じようにしたらどうなるのか……。


「何をいっても無駄。あなた方のした事に変わりがないのですから。心の醜い女子の事を龍王様が好きになるとでも思いましたか?」


 紫苑が呆れたように冷たく言い放つ。


 ———そんな時たっだ。


 閉じ込められていた、平民である明々たちが門を解放され中央塔に入ってきた。


 

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