第7話 龍王様との謁見の日

 あの訳も分からないドキドキした日から、あっという間に二週間が過ぎ、今日は龍王様との謁見の日。


 ———本当にこんな日が実現するなんて。


 会えるのは何年も先だと思っていたから。不思議で仕方ない。


 謁見はお昼からなので、朝からバタバタとみんな必死に準備をしている。謁見する場所は中央塔にある一室でするのだとか。

 

 私はというと、龍王様の事よりも樹の木の場所であった美しい龍人のことを度々思い出し、一人であわあわしていた。


 だって思い出すだけで、心臓がバクバクするなんて初めてなんだもの。

 あの人が見た事もないくらいに美しいから? 思い出すだけでドキドキする? って言うのとは違う……それは分かる。ならこの感情はなんだろう?


 なんだかあの瞳で見つめられると、胸の奥がキューッと苦しいのだ。

 なぜそうなるのかも分からないし、初めて味わう感情で戸惑ってしまっているのだろうか?


 私がそんな事を考えながら、ボーッと物思いにふけっていると。


「翠蘭! まだそんな服装してたの? 支給された龍人族の衣装に着替えなきゃ」


 綺麗な衣装に着替えた明々が、扉を開け部屋に入ってきた。


「え……うん。そうなんだけど、何だか用意する気が起きなくて……」


 私があまり乗り気じゃ無い様子を見せると、明々が子供のように口を膨らませる。


「何言ってるの! ダメだよ? だってこの謁見の為に、龍王様が二百五棟この塔にいる五十人全員に龍人族の式典服を用意してくれたんだよ? ほんと凄いよね〜、こんな衣装着たの生まれて初めてだよ」


 明々が式典服の裾を持ちながら楽しそうにクルクルと回る。


 確かにこんな煌びやかな服は初めて見た。

 刺繍だって金糸でされている。

 そんな高価な服を謁見の為だけにポンっ、と支給してくれるなんて龍王国はどれほど潤っているのだろう。私たちと生きている世界がまるで違うように思ってしまう。


 ついまたそんな事を考えて、物思いにふけってしまい動きが止まってしまう。


 そんな私を見かねた明々が『早く着て! 時間がもうないよ。みんなもう中央塔に行くための門に集まっているはずだから』そうって壁にかけてあった式典服を私に渡す。


 中央塔に行くには、大きな門を通らないといけない。

 なぜならこの建物は、グルッと大きな壁に囲まれている。だから門を通らないと別の場所に行けない。


 私はたまたま壁にあった抜け穴を見つけて、樹の木の所にたどり着いた。この抜け穴は私しか知らない。

 なぜか子供の時からこういう事に対して鼻が効く。

 そして必ず大量に生えている薬草の群生地を見つけていた。なんて事を思いながら高価な式典服に袖を通す。


「わぁ翠蘭似合うね……紫色似合っているよ」


 濃い紫色に金糸で刺繍が施された式典服を着た私を見て、明々が褒めてくれる。なんだか照れくさくてむず痒い。


「あっ……ありがとう」

「うふふ。さっ行こう」


 明々が私の手を引き部屋を後にした。


 二十分ほど歩くと、門が見えてきたんだけれど……なんだか揉めている?

 門の周りが騒がしい。


「なんか様子が変だよね」


 明々も同じように思ったのか門の様子を見て口を開く。


 様子がわかる距離まで歩くと。

 開いているはずの門が閉じられ、その門の先で貴族たちの侍女が立っていた。

 

「え? ちょっと待って!? ここを通れないと中央塔に行けないんだよ!?」


 明々が事態を把握し急いで門のところに走って行く。

 私も一緒に走って行くと、門を通れていないのは私たちと同じ平民の女性たち。


 それを馬鹿にしたように門を閉めた侍女が鼻で笑い『貴方たちのような身分の低い平民は龍王様に会う権利などないのです』と言っていた。

 それに反発し、「ここでは貴族も平民も関係ないわ! 門を開けなさい」と言い合いになっていた。


 これは……貴族たちはすでに中央塔に行ったってこと?

 そして私たち平民だけを通れなくしている。こんな嫌がらせをするのは……。


 侍女の顔を見ると知ったる顔。


「やっぱり! あの侍女は氷水様の……」

「だよね。ほんとムカつくわ」


 私がそう言うと、明々が大きく頷く。今まで明々や私たち平民を、いたぶり馬鹿にしてまだ足りないのかと。


 氷水様? そこまでして私たち平民を蔑んで、何が楽しいんですか? っと聞いてやりたい。

 まぁ。この二百五塔に関しては、貴族より平民の方が美しい赤い髪をしている女性が多いから、それが気に食わなかったのかもしれない。


 さてこの事態どう収める?



 ★★★



 翠蘭たちが門の前で揉めていた時。


 先に中央塔についた、氷水を筆頭とする貴族たちは、龍人たちから詰問されていた。


 それを龍王は何も言わず黙って見ていた。


「この二百五棟におる女子は五十人のはずなのになぜ? 十五人しかこの場所に来ておらんのだ?」


 龍人が不思議そうに質問する。


「平民たちは時間が守れず、遅刻したのでは? さすが平民ですわね」


 そう言って氷水が饒舌に話す。自分たちがした事などバレないと思っているのだろう。


 そんな中。


 一人の龍人が、右手に持ったその用紙に書かれている事と余りにも違うので、呆れたようにため息を吐く。


「そんな言葉で我ら龍人を騙せるとでも?」

「今報告が入った情報では、勝手に中央塔に入る門を封鎖としたと報告が届いている」

「え!?」


 そう言われ、氷水の顔が青ざめる。


「ほう……我がわざわざ会いにきてやっておるというのに、それを邪魔するとは……おぬしらはそれなりの覚悟があってよのう?」


 今まで沈黙を通してきた龍王が、威圧しながら言葉を発する。

 その威圧に耐えれず。貴族の女たちは青ざめ皆震えが止まらない。


「さぁ? ちゃんと説明して貰おうかのう?」


 そう言って貴族令嬢たちを睨む龍王の言葉に。

 氷水を始めとする貴族令嬢たちは皆、恐怖に慄きその場に座り込んでしまった。

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