第6話 ……再会。

 美しい龍人と目が合い。一気になんとも言えない緊張感がピリリと体中を駆け巡る。

 なんか言わなきゃ……私!


「あっ……えと、どうもです」

「くくく……なんだ? その変な話し方は?」


 月夜に照らされ美しく輝く漆黒の髪をなびかせ、私を見て笑う。

 笑われているのに、つい見惚れてしまい言葉を失う。


「ん?」


 そんな私の姿を不思議そうに見ながら、妖艶に首を傾げる名もしらない龍人。

 あなたの姿が美しすぎて固まっているんです。

 固まって何も話せずにいた私を見ながら、龍人が先に口を開く。


「今ちょうど、樹と其方の話をしていたところなんだよ」

「え……私の?」

「そうだ。樹がの? 最近其方の姿が見えんで寂しかったみたいじゃぞ。樹によほど気に入られてれておるな」

「……気に入られて?」

「うむ。樹がこんな事を言うのは珍しい」

「あっ……ありがとうございます」

「はははっ、なんの礼ぞ」


 嬉しくて思わず樹の木に頭を下げた私を見て、高らかに笑う龍人。

 私は言われた事が嬉しくって、勢いよく樹の木に抱きついた。


「私も会いたかったです。今日もここにある薬草をお裾分けしてくださいね」


 ギュッと抱きしめながら私がそう言うと、大きな樹の葉っぱが激しく揺れる。


「くくく。樹が喜んでおる。我が来てもそこまで喜ばんのにの、ちとヤキモチを焼いてしまうのう」

「ふぇぇ?」


 クスリと笑いながら私を見つめる美しい龍人……もうなんだかこの空気に耐えられない。


「うう……あっそうだ。薬草、薬草」


 もうどうして良いかわからず、おもむろに近くにあった薬草を摘み出す。

 だって変に緊張しちゃうから。目に前にいる龍人は村にいた男の人と余りにも違いすぎて、緊張しちゃう。


 緊張を和らげるため、必死で薬草を摘んでいたら。大好きな薬草の匂いに癒され何だか心が落ち着いてきた。

 さすが薬草様。今日も素敵な癒しをありがとう。


 夢中になり薬草を摘んでいたら、近くに美しい龍人がいる事も気にならなくなり、私は嬉々と薬草摘みを楽しんでいた。

 そんな私の姿を龍人は何も言わず、ただ優しく見守っていてくれたように感じた。

 そんな心地よい時間がすぎていく。


「よし! いっぱい薬草を採れた」


 籠いっぱいに集めた薬草を見て、私は再び樹の木を抱きしめお礼を言った。


「素晴らしい薬草をお裾分けして頂きありがとうございます」


 すると再び大きく樹の葉が揺れた。


「欲しい薬草は集まったようじゃの? 良かったの」

「はい! 今日は怪我を治す薬草が欲しかったので、素晴らしい薬草のお裾分けをして頂き大満足です」


 薬草の話になりつい早口で捲し立てるように話してしまった。


「くくく。それは良かったの」


 そう言って、優しく私に向かって笑いかける龍人。


「あっあう……そそっそれじゃ! 失礼します」


 何だかこの前よりも緊張してしまい。

 深々とお辞儀をした後、逃げるようにその場を去ってしまった。


「え……!?」


 そんな私の姿を、驚き見ていたように思ったけれど、それに気遣う余裕なんてあるわけがなかった。


 その時。


 私の服に付着していた、赤茶色に染める前の真っ赤な髪の毛が、フワリと龍人の頬にふれ、それを龍人が手に取り不思議そうにジッと見ていたなんて、知るよしも無かった。


「ほう……なんと美しい……真紅色の髪の毛。初めて見たのう……これはどこから飛んで来たのかの? 樹は分かるか?」


 龍人がそう言うと、樹の葉が激しく揺れた。


「ははは。そうか、面白いのう」

 

 美しい龍人はニヤリと笑うと、漆黒の龍の姿となり空へと飛んでいった。


 

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