第45話 イジュンの陰謀!





 イジュンが何故いつも優しくしてくれる久美子殺害の、片棒を担ごうとするのか?そこには星日から受けた子供の頃の想像もつかない虐めの数々が有る。


(ウッフッフッフ~今に見ておれ……お前みたいな奴、只じゃ済まないから……死ね———!)


 一方の星日の思いは(俺を追い落とそうなど………バカが!側室の息子のくせに!)


 両者の想いが交錯する中、今尚忘れられない忌まわしい過去の思い出の数々に許せない気持ちで一杯のイジュン。


 星日からは散々な阿鼻雑言を浴びせ掛けられていた。だが…そこには両者共に相いれない恐ろしい権力闘争があった。


 その理由は18歳も年が離れているというのに、星日を政治の表舞台から引きずり下ろし、優秀だからと言う理由でイジュンを次期最高指導者にと豪語する父の言葉を、到底受け入れることが出来ない正室アリン妃に端を発している。


 

 母にやいのやいのと責められる星日は、あんなに可愛かった弟イジュンを憎むようになって来ている。


 まだ8歳のイジュンを極寒の冬場に裸同然で、コートも着せずに放り出して死に掛けた事もある。あいにく警護員が沢山いるから大事には至らなかったのだが、人の見ていない所で押し倒したり、殴ったり、つねったり、食事に虫やゴミを混ぜたりそれはもう想像を絶するものがあった。


 そこには正室アリン妃の度を超す𠮟咤激励に対する、心の中に芽生えた弟に対するいびつな復讐心、それを抑えることが出来なくなっての事なのだ。


「星日あんな小さな子供に負けてどうするの。私の両親も博識で北朝鮮の辞書とまで謳われていた北朝鮮を、代表する人物なのに、どうしてあなただけがこんなに酷いの?あんな側室ごときの息子に……それも20歳近くも年下に負けてどうするの?」


 顔さえ見れば星日をバカ呼ばわりのアリン妃。

 最初は星日とイジュンはこんな険悪な中では無かった。

 どうしてこんな事に……。


 

 こうして…コンプレックスの塊となった星日は「イジュンが死んでくれたら……」とまで思うようになって来ている。そして…益々虐めが加速する悪循環となっていった。


 それを見ていながら静観するアリン妃、イヤそればかりか加担するアリン妃。

またアリン妃の方もイジュンに対する言葉の暴力が半端じゃない。


「お前はタチの悪いサランにそっくりだね。私から高日を奪っておきながら、今度はお前が星日を追い落して自分が最高指導者になろう等、とんでもない母子だ。この泥棒猫が!お前なんかいらない子だ」


 ある時は高日の買ってくれた、大好きな日本のヒーロ-ものフィギャ-を全部燃やされたり、また…食事もイジュンの大好物だと知っていながら、わざと蟹などをその場でゴミ箱に捨てられたりと……それに最大の恨みは愛する母サランの死。


 実は…あの時誰も居ないと思われていたが、女中の一人が吹雪の為1時間近く早く本丸御殿に到着していた。


 だが…その女中で生き証人はサランの死からたった3日後に、海から水死体で見つかっていた。


 どうもアリン妃の関係者が関与しているのではと、あの当時はもっぱらの噂だった。だが…高日の鶴の一声で経ち消えになってしまった。

 例え黒いものでも高日が白と言えば白になる。そんな北朝鮮において異議を唱える者など存在しなかった。

 高日にすればサランの死は到底受け入れ難いが、正室アリン妃と息子星日を守るためにやった事。例えサランの仇がアリン妃であったとしても、死んでしまっては取り返しが付かない。


 最終的には妻と息子星日を守るために、唯一の生き証人女中を高日が殺害させた。


 もう一歩で犯人が分かるという時に生き証人が殺害されて、振出しに戻ってしまったが、噂では正室アリン妃の仕業だと言うもっぱらの噂だった。


 その為、母サラン殺しと虐めに対する恨みが蓄積されていった。


 その復讐心は如何ばかりなものか。その手ほどきとして、先ずは…星日の一番大切なもの、愛する久美子を奪うという事だ。


 星日よりかなり若い久美子と同い年のイジュンは、王女達しか産めない星日に(俺の遺伝子で王子を種付けして、次期最高指導者にしよう!)とんでもない事を考えている。


 その為には、まず久美子に気に入ってもらう事。それはあの美しき母サランから生まれたイジュンなので、見てくれでは星日より遥かにイケメンである。あとは久美子の気持ちを掴むという事だ。


 その努力が実ったのか、日を追うごとに久美子も義弟イジュンに心を開いて、最近では顔を出してくれない日が続くと、久美子から「遊びにいらっして下さいね!」と催促するまでになって来ている。


「オオオ……しめしめ!機は熟した。ウフフ!」

 

 ある日イジュンが、久美子邸に伺った日の事だ。もうすっかり可愛い無くてはならない弟、以前にも増して距離は近くなっている。


 かなり深い話まで出来るようになって、お互いの過去の辛かった思い出も、話し合うようになって来ている。久美子もスパイのはびこるこの宮中において、こんな話が出来るのは義弟イジュンぐらい。


 イジュンは、隙あらば権力の座に就きたい。その為には久美子を手懐けて寝床を共にして自分と久美子の子供をお腹に宿す事。その生れた子供を星日の子供に見せかけ星日亡き後は、権力を手中に治めようと目論んでいる。


「お義姉さん僕は……お義姉さんの事が……お義姉さんの事が……」

いきなりソファーに押し倒して唇💋を奪った。


 ”ピシャン”イジュンを跳ね除ける久美子。

 

「お義姉さん僕は……お姉さんをずっと前から好きでした。離したくありません」

 またもや久美子を押し倒し行為に及ぼうとするイジュン。だが、久美子に強く拒まれて行為は中断された。


 こうして…イジュンは久美子邸に出禁になった。だが…本丸御殿に隣接した久美子邸、否が応でも顔を合わせる羽目になる。


 最初のうちは完全に無視されていたが、時間の流れとは全てを薄め……忘れさせてくれる。

 あの時久美子に覆い被さった時に、何とも言われない神々しい花の香り、あれはフロ-ラルの香りだろうか……バラの香り?……それとも……ジャスミンの香り?か細い首筋に美しいうなじ……そして…形の綺麗な唇💋


 久美子の虜となったイジュンは、知らず知らずのうちに久美子の現れそうな所に現れ、物陰からでもいい久美子をほんの一瞬でも見つめていたい。そんな感情を抑えることが出来なくなってきている。

 ミイラ取りがミイラになる。まさにそんな現象が起きている。


 久美子は久美子で、物陰からコッソリ申し訳なさそうに見つめるイジュンに、ついつい手をゆるめてしまった。


「そんな所に隠れていないで……お茶でも召し上がって行って……」


「ありがとう」


「久美子は長居させると又どんな事を仕出かすか分からないと思い「さあ帰った!帰った!私は用事が有るから……」


 こんな事が有り、また久美子邸に顔を出す様になったイジュン。 

 久美子にすれば、あんな過ちは一回こっきり。安心しきっている。


 だが…意に反してイジュンの心の奥底は炎のように燃え上がっている。


(俺は星日に復讐する為に久美子に近づいた筈だが、今は……そんな事などどうでもいい。久美子を俺のものに……)


 もう復讐、権力欲よりも美しい久美子を自分のものにする方が勝り、焦れば焦る程空回り。だが、美しい花を目の前に……ただ口を加えて待っている程味気ない事は無い。


 抑えきれない欲望の果てに、お茶菓子を取りに席を立った隙に、お茶に睡眠薬を混ぜて眠らせ、とうとう我慢が出来ずに美しい久美子を犯した。


 誰か居なかったかって?


 まぁ……身内の来客時は危機感も無いので、警備体制も緩和されている。それは出来るだけ水入らずの時間を大切にしたい思いからだ。


 気の置けない家族との団らんを邪魔しちゃダメという事で、声が掛かるまで 爺ややお手伝いは別室で待機している。


 


 ◆▽◆


過去に義兄弟同士の権力争い。壮絶な虐めが有ったなど知る由の無い久美子に対して、最高の弟を演じているイジュンだが、その腹の内は星日の鼻を明かしてやりたいばかり。イヤ……もっと言うなら星日を引きずりおろして権力の座に君臨したい。(星日の一番大切な宝物久美子を犯して俺とのお子を宿す事)そして…次期王子の誕生が狙いなのだ。

 そして…王子が権力の座に就けばDNA鑑定なりなんなり行い。王子との対面を果たす。


 イジュンは久美子と同い年で星日最高指導者とは18歳違い。肝癌を患い床に伏せる事も多くなっている星日は、久美子との夫婦生活も無いに等しくなってきている。具合が悪くてそれ所ではない。


 今尚イジュンの魂は憎しみで一杯。イヤそれどころか……あんな残酷な形で愛する母を失い、権力の座から引きずり下ろされ、政治の表舞台から完全に外され幽閉同然でこんな田舎に追いやられている。


 憎しみは一層倍増するばかりなのだ。その留めとして星日の一番の宝物、久美子を殺害する事だったのだ。そこで久美子に恨みを持つ正妻のハユン妃と、イジュンがタッグを組んだのだ。


 だが…イジュンは久美子に夢中になってハユン妃と手を切った。


 本当は愛する母サラン殺しの疑いのある、あの憎き女アリン妃を殺害したかったのだが、はっきりした物的証拠も見つからない為、諦めかけていた矢先にアリン妃は高齢のため亡くなった。


 そんな復讐心の塊のイジュンだが、2012年9月に星日が肝癌の悪化から肝硬変であっけなくこの世を去った。


 ところで……星日は満正が本当はイジュンの子供だと知っていたのか?


 そんな噂を耳にした時は苦しんだが、久美子も絶対にそんな事は無いと、しらを切り通した。


 ハッキリ分からないし。眠っていたから……?星日は苦しんだ挙句、DNA鑑定を依頼した。


 結果、満正は星日と久美子の子供である事が分かった。



 ◆▽◆

【謎多き北朝鮮。闇市場から最初に銭主となったのは、日本に親戚が居る帰国同胞、中国にコネを持つ男。外国から合法的に物資を調達できる立場にあり、流通手段を手にしている。また中国資本の共同事業も行っている。この国の銭主は中国資本を誘致して、鉱山の経営や最近では国有デパ-トを買収、また国営の生産工場を借りて靴工場や裁縫工場も経営している。独裁体制の陰で生きるために住民の自発的市場が作られた。北朝鮮の2019年対外貿易額(韓国との貿易除く)前年比14,1%増の32億4,500万ドル、前年比輸出入増加。それでも貿易収支は大幅な赤字。

国別貿易国***中国貿易額30億9,440万ドル(前年比13,6%増)2位の貿易国韓国との貿易額も相当なものなの。次いでロシア、ベトナム、インド、ブラジル等。】



 一見野蛮なとんでもない国に移るが、それなりに生きる術を見付けて必死に生きている姿が浮かぶ。


 社会主義(儲けたお金は全て国が管理)から、やがては資本主義(個人で自由にお金儲けしても良い)に以降する日も近からずも遠からず?




 

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