第43話 高日の正妻アリンと側室サラン*そして…久美子に近づくイジュン?



 

 妹達すみれと百合は北朝鮮に拉致されて、どんな秘密を聞いてしまったのか?


 それは……ある人の話では、1982年にスホの実母久美子が拉致されて、北朝鮮で満正を出産した事に端を発した……とんでもない話なのだ。


 星日は久美子を心から愛しており、確実に他の側室達とは一線を画した特別扱い。毎日久美子邸に通うのだが、星日も忙しい身。一週間位顔を出せない時もある。


 そういう時に限って星日の義弟でイジュンが、久美子邸に顔を出していた。

実はこのイジュンと星日には深い因縁がある。


 どういう事かというと、星日の母で建国の父高日の正妻アリン妃が、高飛車な側室イジュンの母サランを深い確執の果てに殺害させたらしいのだ。


 正妻アリン妃は高日がまだ無名の学生時代の19歳の時に、肺炎で入院した時の病院の研修医だった。その当時既にアリン妃は25歳で6歳も年上。


 この時期はまだ韓国と北朝鮮は分断されておらず、日本統治時代の事だ。


 余りの知的で優しい、更には高麗総合病院きっての美貌と持て囃されていたアリンに、夢中にならない男が居ようか。親の反対を押し切って大学を卒業するや否や結婚した。


 そして姉ハウンは直ぐに誕生したのだが、間をおいて高日32歳の時に星日が誕生した。




【1948年8月15日南朝鮮は大韓民国として独立した。一方の北朝鮮では1948年7月10日に朝鮮民主主義人民共和国憲法が制定された】


 1948年9月9日初代首相に優秀な軍人だった高日が就任した。


 1948に建国の父となった高日は精力的に仕事をこなして行った。


 それでも……この時アリン妃との間には長女ハウン姫12歳と王子星日6歳の2人しか居なかった。


 いつ何時敵国に襲われ、大切なこの国の王子を殺されるやも知れない。また…いつ高日政権に反旗を翻す輩が襲って来るやも知れない。


 その為には盤石な態勢が必要。


 世継ぎ候補の誕生それこそが、この高日体制をより強固にする足固めとなる。幾多の側室が居るが、未だ王子の誕生の声は聴けない。そこに側室として白羽の矢が立ったのがサラン。


 1959年、この時20歳のサランはこの国のモランボン楽団の前身である、まだ楽団に毛の生えたような5~6人の演奏家の中のピアニスト。その卓越したピアノ技術は北朝鮮のミューズと称されている。


【ミューズはギリシャ神話の詩と音楽の女神】おまけに絶世の美女。


 現在アリンは55歳、サランとは35歳も年が離れている。そこに王子イジュンの誕生。


 高日にすれば親子ほど年の離れた才能豊かな、ましてや王子まで産んでくれたサランが愛おしく、まだあどけなさの残る娘のようなサランに夢中だ。


 一方のアリン妃は危機感で一杯。

(6つも年上の姐さん女房で、もう美しさの欠片も無くなったこんな私なんか、いつ高日にソッポ向かれるか……)


 いつかそんな日がやって来る事は覚悟していたが、それでもまだまだそこらの雑魚には負けない自負があった。


「私にはそこらの側室とは一線を画す知性と美貌がある。若さを取ったら何も残らない雑魚共が———!」


 だが……サランと対面した時は余りのショックで、立って居られない程だった。


(アアアア……嗚呼嗚呼……ああああ……私がどんなに逆立ちをしても叶う相手ではない……おまけに王子まで誕生しただと———!嗚呼……このまま行けば……私は生きた化石として……高日にぞんざい扱われ、いつか捨てられるかもしれない……}


 それから7年アリン妃62歳の時の事だ。サランは現在27歳、子供も誕生して女性として一番美しい魅力的な時代。


 ことのほか……こんな辛い現実がやってこようとは?


「イジュン王子はまだ7歳だが非常に優秀で、英語、中国語、日本語を話せる。星日は24歳だと言うのにまだ英語もろくに話せない。これでは国際社会で最高指導者としてやっていけない!この国の世継ぎはイジュンにする!」


「何という事をおっしゃるのですか?私は今まであなたの女癖の悪さも、この国の為と目をつぶって来ました。それもこれも星日を何としても、この国の最高指導者にしたい。その一念で我慢をして来ました。そそそ……それを……イイイ今更何て事をおっしゃるんですか?ワァ~~ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「ウルサ———イ!ガタガタ言うんだったらサッサと、お前みたいな年増のおばあさん出ていけ———!」


「アアあんまりです!ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「フフフ~それだけお前みたいな女は必要ないという事だ!」


 プライドの高いアリン妃をここまで追い込んでしまった高日。

 この後とんでもない残酷な悲劇の幕開けが……。



 ◆▽◆


 アリン妃62歳の時に高日から思いもよらない言葉を発せられた。


 それは次期最高指導者を、正室アリン妃の嫡男星日ではなく、側室サランの愛息イジュン王子にするというもの。


「ウルサ———イ!ガタガタ言うんだったらサッサとお前みたいな年増のおばあさん出ていけ———!」


「ア ア あんまりです!ワァワァ~~ン😭ワァワァ~~ン😭」


「フフフ~それだけお前みたいな女は必要ないという事だ!」


「アアあなたは、あの女に騙されています。確かに特別な才能の有る子供だけが入学出来る「学生少年城」(富裕層の子供達がワイロで入学しているケ-スが多い)を卒業したエリ-トだが、あの女は一般家庭出身で家族がお金に困窮していて、かなりのお金を横領して家族に送金していると言うもっぱらの噂よ!あなた目を覚ましてお願い!」


「お前だって親には送金はしていないが、自分自身に散々散財しているじゃないか、宝石や衣類の高額な事、その額は相当なものだ。自分の事を棚に上げてよくそんな事が言えたものだ。サランは質素で自分にはお金を掛けずに、そのお金を親に送金しているだけだ。俺もそれはサランから聞いている」


「あの女は若いエリ-ト軍人に色目を使って、浮気していると言うもっぱらの噂よ。29歳も年の離れているあなたなんか本当は嫌なのよ。この国の女王様というステ―タスとお金に目が眩んだだけ、若い男の人が良いに決まっている。とんだメギツネ!阿婆擦れ女!本当は若い男に夢中なのよ。あなたなんか只の、お金の為の道具ぐらいにしか思っていないのよ?」


(高日も内心はこんな中年の俺なんかより、若い男に夢中になるのは分からんでもないが、まさかあの清楚で優しいサランにそんな一面が有ろうとは?)動揺を隠せない。


「そんなバカな……絶対あり得ない!」


 心配になった高日は「3日程留守にする」とサランに言って出掛け、その夜にお供の者も連れずに、こっそりサラン宅に帰った。そこでサランがいつも寛いでいる居間に向かった。


 するとそこには……やはり若い男と寛いでるサランの姿が。


(アアアア————!なんてことだ……やっぱりそうだったのか?許せない!)


「その男は誰だ!こんな夜に男と2人きりでどういうつもりだ。まさかお前は……」


「朝鮮人民軍の兵士で私の弟です。勝手に家に通して御免なさいね。大学を卒業して今年から陸軍に配属になったばかりです」


「な~んだ。弟だったのか……安心!安心!」


 浮気相手ではないかと疑っていた男が、弟と分かって安心した高日と、がっかりしたアリン。


 それでも…何故ちゃんと弟だと紹介しなかったのか?


 正室アリン妃には紹介できないだろう。

 それは新人がむやみやたらに姉に会うのも如何なものか?

 特に北朝鮮では労働者には厳しいから、怒られるに決まっている。


 たとえ側室の姉に会いに来たと言っても、度々顔を出していては、例えそれが休暇を利用したものであったとしても、夜通しで勤務に当たっている兵士も多いので、サボっているように思われ兼ねない。


 サランの側近は知っていたのだが、アリン妃にまでその情報が伝わっていなかったのだ。それでもやはり赴任先も近く、時間が空けば顔だけでも見たいのが姉弟と言うもの。


 仕事の合間に、姉に合っていることがバレたら弟の出世にも響くので、その為高日にも内緒にしていた。


 とうとうサラン追い出しに失敗したアリン妃は(このままでは、あの女に全て奪われてしまう。それが証拠にサランの息子イジュンを、この国の次期最高指導者にだと——ッ!そんな事が許されるわけが無い。直系の長男星日が居るのに、たかが側室ごときの息子が次期最高指導者だなんて、到底許されぬ事!ウウウウッ……ウウウ😓何とかせねば!)


 高日が国の事業開発の為に、1週間くらい遠くに出掛けているその機会を見計らっていたように、恐ろしい企みをするアリン妃。


 夜に抜け出して、極寒の北朝鮮には氷の塊や氷柱は殊のほか何処にでもある。日本のように氷を注文しなくても至る所にある。もちろんサランの入浴時間も調べが付いている。


 顔が分からないように掃除婦に変装して、巨大な氷の塊を小型冷凍庫に入れて清掃用具カートに忍ばせ、サランが浴室に浸かった時間を確認してコッソリ風呂場に侵入して大きな氷の塊で後ろから、その氷の塊を勢い良く投げ付けた。


 サランはその場で血を流して即死。


 こうしてサランは殺害された。


 証拠の一滴も残さず氷は跡形もなく溶けてなくなった。


 それでも一国のお妃様が何故変装してまでサラン殺しをしたのか?


 一国のお妃様に手を貸さない者がいようか?



 それは用心には用心に越したことはない。人の口に戸は立てられぬとはよく言ったもので、どこから漏れるか分かったものではない。


 細心の注意を払って、自分の手で天敵サランを殺した。信じられるのは己だけ。


 星日を何としても次期最高指導者に押し上げたい一心で行った行為。


 決断を下さなければこの後、悲惨な結末が待っている。


 最高指導者となったイジュンが、高日亡き後いつ反逆罪で刃向かってくるかもしれない星日を、生かして置いてくれる訳がない。

 

 死ぬか生きるか!



 ◆▽◆

 

『それでは本題に参りましょう』


 何故そんな残虐な結末を迎えた母サランの仇である、憎んでも憎みきれない星日の寵愛する側室久美子邸に、星日の出払っている時を見計らってやって来るのかという事だ。


 そこには恐ろしい秘密が隠されている。

 サラン亡き後、イジュンはアリン妃と星日に想像以上の酷い嫌がらせと虐めに遭っていた。


 それはサランが死んだ今後ろ盾を失ったイジュンには何の権限も残っていない。アリン妃にすれば、もうひと押しで星日を最高指導者に押し上げる事が出来る。その為にはコテンパンにやっつけて、自信喪失させ立ち向かう事も出来ない程、意気消沈させる狙いがあった。

 本来ならば息の根を止めたいところだが、高日の眼が光っているので出来ない。


 

 それでも……あれだけ酷い目に遭ったイジュンも、良く生き伸びる事が出来たものだ。それはもう不思議なくらい。それだけ壮絶な虐めが有ったという事だ。


 イジュンの魂は正常ではない。


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